• アプリケーションノート

強溶媒適合性キットおよび示差屈折率(RI)検出器と組み合わせて Arc™ HPLC システムを用いた、ポリスチレン-テトラヒドロフラン溶液の正確な分子量決定

強溶媒適合性キットおよび示差屈折率(RI)検出器と組み合わせて Arc™ HPLC システムを用いた、ポリスチレン-テトラヒドロフラン溶液の正確な分子量決定

  • Margaret Maziarz
  • Waters Corporation

要約

正確で再現性のある分子量決定を行うことが、ポリマーの適切な特性解析において最も重要です。このアプリケーションノートでは、強溶媒適合性キットおよび示差屈折率(RI)検出器と組み合わせて、Arc HPLC システムを用いたポリスチレンの正確な分子量決定について説明します。分子量分布の狭いポリスチレン標準溶液とサンプルを、テトラヒドロフラン(THF)溶媒中に調製しました。分子量の計算は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)オプション付きの Empower™ ソフトウェアを使用して行いました。

アプリケーションのメリット

  • Arc HPLC システムおよび強溶媒適合性キットを使用した、ポリスチレンの正確な分子量決定およびその優れた再現性
  • ポリマー分析用 Styragel HR カラムを使用した高分離能分離
  • GPC オプション付き Empower ソフトウェアを使用した、ポリマーの分子量分布の迅速かつ簡単な決定

はじめに

ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、分子量決定および分子量分布を含む、ポリマーの特性解析に用いられる一般的な手法です。GPC はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に基づいており、溶液中の流体力学的半径によって分子を分離します1。 分子量の大きなポリマーは早く溶出し、小さいポリマーは遅く溶出します。ポリマー業界では、分子量分布を使用して、機械的強度や弾性などのポリマーの特性を予測します2。 ポリマーの分子量は通常、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、サイズ平均分子量(Mz)、分散度指数(PDI)として表します。PDI は Mw/Mn の比であり、分子量分布の範囲の尺度です。

GPC はポリマー分析用の強力なツールですが、分子量分布の正確な定量が主な課題であると報告されています1。ほとんどのポリマーは、UV ではあまり検出されません。示差屈折率(RI)やエバポレイト光散乱(ELSD)などの検出器が多くの場合使用されます。

このアプリケーションノートでは、強溶媒適合性キットが取り付けられている Arc HPLC システムを使用したポリスチレン溶液の正確な分子量決定について説明します。強溶媒適合性キットにより、テトラヒドロフラン(THF)やジメチルホルムアミド(DMF)などの強溶媒を Arc HPLC システムで使用できるようになります3。 この研究では、テトラヒドロフラン溶媒中に調製した一連のポリスチレン標準試料を使用して、分子量のキャリブレーションを行いました。検量線に照らしてポリスチレンサンプルを定量し、分子量分布を決定しました。GPC 分析により、ポリスチレンサンプルの分子量について、優れたキャリブレーションと正確な決定が可能であることが実証されました。

実験方法

テトラヒドロフラン(HPLC グレード、安定剤不含)、Fisher Chemicals から購入、カタログ番号:T425-4。

ポリスチレン標準試料、APC 用 Ready Cal PS キット(製品番号:186007223):3 種類の標準品と未知サンプルのセットが含まれています。

  • 黒色のバイアルキャップ:分子量 66K、21.5K、4.92K、2.28K のポリスチレンを各 2.25 mg
  • 青色のバイアルキャップ:分子量 44.2K、15.7K、3.47K、1.25K のポリスチレンを各 2.25 mg
  • 緑色のバイアルキャップ: 分子量 28K、9.13K のポリスチレンを各 2.25 mg
  • 白色のバイアルキャップ:分子量確認用に未知試料としてラベル付けされた、分子量 34.8K のポリスチレンサンプル 2.25 mg

サンプルの説明

標準溶液

ポリスチレンの単分散標準試料およびサンプルは、各バイアルに 1.5 mL のテトラヒドロフランを添加し、数時間かけて溶解させることにより調製しました。濃度は 1.5 mg/mL。

分析条件

システム:

クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)を搭載し、フロースルーニードル(FTN)および強溶媒適合性キット(製品番号:715009279)を取り付けた Arc HPLC システム

移動相:

テトラヒドロフラン

分離:

アイソクラティック

流速:

1.0 mL/分

カラム:

すべてのカラム(7.8 × 300 mm、5 µm)は、カラムに付属の接続チューブ(製品番号:WAT084080)を使用して直列に接続しました。

1. Styragel™ HR 4、10,000 Å、分子量範囲:5,000 ~ 600,000、製品番号:WAT044225

2. Styragel HR 2、500 Å、分子量範囲:500 ~ 20,000、製品番号:WAT044237

3. Styragel HR 1、100 Å、分子量範囲:100 ~ 5,000、製品番号:WAT044234

カラム温度:

35 ℃

検出:

示差屈折率(RI)

· サンプリングレート:10 ポイント/秒

· 極性:ポジティブ

· フローセル温度:35 ℃

注入量:

50 µL

バイアル:

LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV)

サンプル温度:

15 ℃

洗浄溶媒:

サンプル/パージ洗浄溶媒:テトラヒドロフラン

ニードル洗浄溶媒:イソプロピルアルコール

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 Feature Release 5Service Release 5(FR5 SR5)。データ解析およびレポート作成に使用した GPC オプション。

結果および考察

ポリマーの特性解析を確実に行うには、適切な標準試料を使用して検量線を作成し、試験したカラムのセットで分離を確立することが重要です。この研究では、3 本のカラムバンクを選択して、ポリスチレン標準品の分子の範囲をカバーしました。さらに、分子量を正確に決定するのに十分な分離が得られるように、さまざまな多孔性カラムを選択しました。カラムは、接続チューブを使用して、ポアサイズに従って最大のポアサイズから順に直列に接続し、背圧を最小限に抑えました。示差屈折率検出器のレスポンスは溶離液組成の変化の影響を受ける可能性があるため、グラジエント溶出は使用しませんでした1。THF 溶媒に溶解した標準溶液およびサンプル溶液を、THF を移動相として使用してアイソクラティックに分析しました。この分析法により、ポリスチレン標準試料が正常に分離でき、サンプルの分析が可能になりました(図 1)。 

図 1.  RI 検出器を搭載し、強溶媒適合性キットを取り付けた Arc HPLC システムによって得られたポリスチレン標準試料とサンプル溶液のクロマトグラフィー分離

ポリスチレンのキャリブレーションおよびサンプル分析

Empower ソフトウェアの GPC オプションを使用して、データ分析およびレポート作成を行いました4。 GPC キャリブレーションは、ポリスチレン標準試料のセットを分析して作成しました。各標準試料のピークトップ分子量(Mp)を使用して、分子量対保持時間の曲線を生成しました。3 次近似を適用すると、分析法は、分子量(Mp)の対数と保持時間の間に相関係数(R2)0.9997 以上の許容可能な関係を示しました(図 2)。

図 2.  ポリスチレン標準試料を使用して作成した GPC 検量線

検量線に照らしてポリスチレンサンプルを定量して、分子量情報を算出しました。GPC の測定には、ピークの平均分子量(Mp)、重量平均モル質量(Mw)、数平均モル質量(Mn)、モル質量分布の分散度が含まれていました(図 3)。サンプル溶液を 6 回繰り返し注入すると、相対標準偏差(RSD)は 0.20 ~ 0.67% の範囲になりました。さらに、算出された分子量を、Mp、Mw、Mn の目標値 34,500、34,000、33,200(ダルトン)とそれぞれ比較しました。これにより、分子量決定の正確性が 100.6%、100.0%、98.9% となりました。さらに、Empower GPC オプションの分子量分布プロットを、ポリマーサンプルの分子量情報の表示に使用しました。このプロットには分子量分布が示され(図 4)、ポリマーの正しい正確な特性解析が可能になりました。 

図 3.  ポリスチレンの分子量分布についての広範なサンプル分析。6 回繰り返し注入。
図 4.  ポリスチレンサンプルの分子量分布プロット

日間性能試験

同じ分析についての分析法の日間性能試験により、この分析法によって一貫性のある結果が得られることが保証されます。このことは、ポリマーの正確な特性解析において最も重要です。性能の検証では、ポリスチレン標準試料とサンプルを異なる日に分析し、分子量決定の検量線と正確性を評価しました。試験を行った数日間にわたり、分析法により分子量決定において優れたキャリブレーションと正確性が得られました。

表 1.  検量線とサンプル分析を含むポリスチレン分析の日間性能試験。サンプルの目標分子量:Mp = 34,000 Da、Mw = 34,000 Da、Mn = 33,200 Da。

結論

ポリスチレン標準試料およびポリスチレンサンプルのセットを、強溶媒適合性キットを取り付けた Arc HPLC システムを使用して分析し、GPC オプション付き Empower ソフトウェアを使用して解析しました。この分析法は、ポリスチレン溶液の分析において、併行精度に優れ、分子量決定が正確であることが実証されました。Empower ソフトウェア GPC オプションにより、ポリマーの分子量決定および分子量分布の特性解析を効果的に行うための、迅速なデータ分析が可能になりました。 

参考文献

  1. Knol WC, Pirok BW, Peters RAH.Detection Challenges in Quantitative Polymer Analysis by Liquid Chromatography.Journal of Separation Science, July 2020.
  2. Walsh D, Schinski DA, Schneider RA, Guironnet D. General route to design polymer molecular weight distributions through flow chemistry.Nature Communications, 2020.
  3. Arc HPLC QSM-FTN Strong Solvent Compatibility Kit Product Solutions, 715009279.
  4. Empower GPC Software Getting Started Guide, Waters Corporation User Guide, 71500031303.

720008301JA、2024 年 4 月

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