Alliance™ HPLC™ システムで MaxPeak™ Premier HPLC カラムを用いた、ヤヌスキナーゼ阻害剤バリシチニブの強制分解試験
要約
バリシチニブは、ヤヌスキナーゼのサブタイプである JAK1 および JAK2 を阻害することにより、免疫調節薬として作用します。この医薬品は、関節リウマチ、円形脱毛症の治療に使用されており、最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に使用されています。バリシチニブは、2022 年に承認された、初の COVID-19 に対する免疫調節薬です1。多くの新規医薬品の場合と同様に、投与される前にその安全性を確認するために、プロセス不純物および分解生成物を適切に分析する必要があります。
この研究では、Alliance HPLC システムで XBridge™ Premier カラムを使用して、強制分解試験を行いました。強制分解の前に、MaxPeak Premier カラムとステンレススチール製カラムの比較を行って、バリシチニブのメインピークについてこのテクノロジーのメリットを評価しました。その結果、優れたメリットが得られたため、MaxPeak Premier カラムを苛酷処理したサンプルの分析に使用しました。
アプリケーションのメリット
- XBridge Premier カラムの使用によりバリシチニブおよび不純物のピーク面積が増加
- 苛酷処理条件下で新規分解生成物のピークを取得
- XBridge Premier BEH™ C18 カラムで高 pH 移動相を使用することにより、バリシチニブと分解生成物が完全に分離可能に
はじめに
医薬品がどのように分解するかを理解することは、治療用化合物の開発およびリリースにおいて重要な側面です。製剤サンプルが安定しているだけでなく、その分解生成物が消費者にとって安全であることを確認するには、強制分解試験および安定性試験が必要です。これらの試験は多くの場合、2 部構成で行われ、1 つ目は強制分解となります。この試験では、さまざまな条件下で医薬品有効成分(API)を苛酷処理し、さまざまな化学的環境下で化合物がどのように分解するかを明らかにします。化合物が適時に分解するように、多くの場合、酸性および塩基性での加水分解、過酸化物、光分解、熱ストレスを用います。第 2 部は安定性試験です。この試験では、製剤サンプルを最終的な包装のまま適切な条件下で保管して定期的に試験し、サンプルが分解しないこと、あるいは包装が製剤サンプルに影響しないことを確認します。安定性試験および浸出物試験では、強制分解試験のようにサンプルを「苛酷処理」しないため、セットアップにはるかに長い時間がかかります。これらの試験は製品開発に不可欠であり、正確な結果を迅速に得ることで、医薬品をより速く上市することができます。
従来のシステムやカラムハードウェアでは、最も正確な結果を迅速に得ることは困難です。ステンレススチール製のハードウェアは、分析種の回収率とピーク形状に悪影響を及ぼし、結果が劣悪になることがあります2–5。さらに、ステンレススチール製のハードウェアは、時間の経過とともに不動態化し、キレート形成する化合物や金属に吸着しやすい化合物のピーク面積の結果が大きくなることが知られています2。重要なアッセイでは、時間の経過とともにピーク面積が変動したり、結果の再現性が低下したりすると、費用のかかる試験のやり直しになったり、さらには結果が不合格になることがあります。一方、MaxPeak High-Performance Surface(HPS)テクノロジーを採用した MaxPeak Premier カラムを使用することで、これらの問題が軽減され、初回の注入からより正確な結果を得ることができます。
MaxPeak Premier カラムによって得られるメリットを実証するため、JAK 阻害剤であるバリシチニブの強制分解試験を実施しました。強制分解試験の前に、ステンレススチール製カラムと MaxPeak Premier カラムの比較を行って、MaxPeak HPS テクノロジーの効果を評価しました。次に、XBridge Premier BEH C18 カラムを使用して強制分解試験を実施し、分析しました。TUV 検出器を搭載した Alliance HPLC システムを使用することで分解生成物が検出され、これらが十分に分離されており、対称性を示すことがわかりました。最終的な分析法の条件を使用することで、LC-MS を用いた分解生成物の同定や分取 LC による分解生成物の精製などのさらなる試験に使用できる可能性があります。
実験方法
サンプルの説明
バリシチニブのストック溶液は 50:50(v:v)アセトニトリル:水中に 1 mg/mL になるように作製しました。強制分解試験は、ストック溶液を 1 mL 取り、1 N 水酸化ナトリウムまたは 1 N 塩酸を 100 µL 添加することで行いました。苛酷処理したサンプルは、70 ℃ で 24 時間加熱し、混合してから分析しました。
LC 条件
LC システム: |
TUV 検出器搭載 Alliance HPLC システム |
検出: |
260 nm の UV |
カラム: |
XBridge Premier BEH C18 カラム、3.5 µm、4.6 × 100 mm(製品番号:186010660) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
2.0 mL/分 |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 D: |
200 mM 水酸化アンモニウム水溶液 |
グラジエント条件: |
5% で一定の D で添加剤の濃度を維持します。16.43 分で 5 ~ 95% B/C の直線ランプ。95% 有機を 2.7 分間ホールドし、0.02 分で 5% 有機に戻します。5.51 分間カラムを再平衡化します。合計実行時間:25 分 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 Feature Release 5 |
結果および考察
強制分解試験および安定性試験は、新規医薬品開発のワークフローに不可欠です。これらの試験により、苛酷条件下や保管条件下で化合物がどのように分解するか、そして化合物の分解が潜在的に有害な化合物生成につながるかどうかについて、貴重な情報が得られます。医薬品がますます複雑化していることから、強制分解試験において、医薬品有効成分(API)の存在下でさまざまな濃度レベルの幅広い分解生成物のピークが生じる可能性があります。次に、これらの低濃度の化合物を精製して、毒性を評価したり、類縁物質として報告して、そのレベルをバッチ試験でモニターすることができます。最も正確な結果を得るには、これらの試験に適したテクノロジーを選択することが重要です。液体クロマトグラフィーカラムに関しては、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した MaxPeak Premier カラムで最も正確な結果を得ることができます。
MaxPeak Premier カラムでは、分析種とカラムハードウェア内の金属表面の間の二次的相互作用が低減します。このような相互作用には、酸性部位とステンレススチールの鉄イオンの間のイオン性吸着効果、およびその他の非特異的吸着(NSA)効果が含まれます。MaxPeak Premier カラムでは、酸性部位を含まない化合物も含め、さまざまな化合物について、より高いピーク回収率と良好なピーク形状が得られることが示されています2–5。強制分解試験を行う前に、MaxPeak Premier カラムをヤヌスキナーゼ阻害剤であるバリシチニブの強制分解に使用するメリットを評価しました。代表的なクロマトグラムと表形式のデータをそれぞれ図 1 および表 1 に示します。
クロマトグラフィーでは、得られた結果にほとんど違いが見られません。ピーク形状やピーク高さの明らかな違いもありません。図 1 でアスタリスクが付いている化合物はすべて両方のカラムで存在しており、NSA やイオン性相互作用による分析種の喪失がないことがわかります。一方、表 1 でわかるように、これらの化合物のピーク面積は、XBridge Premier BEH C18 カラムを使用した方が、標準的なステンレススチール製ハードウェアカラムよりも大きくなっています。両方のカラムでほぼ同じピーク面積を示す分析種は、最後に溶出したピークのみです。
2 種類のカラム間でピーク面積が 3 ~ 5% 増加するという若干の改善が見られることから、MaxPeak Premier カラムの使用により、分析における分離の質が全体的に向上すると主張することができます。表 1 に示すように、2 種類のカラムで面積のカウントの割合はほぼ同じです。このことは、新しいテクノロジーを使用したことを考慮して分析法開発をやり直す必要がないことを意味します。この場合、使用するカラムを MaxPeak Premier カラムに変えるだけで、より正確な結果が得られます。
このような改善が見られたことから、次に XBridge Premier BEH C18 カラムを強制分解サンプルの分析に使用しました。酸性条件(1 N HCl)および塩基性条件(1 N NaOH)を使用して、70 ℃ で 24 時間、バリシチニブストック溶液の強制分解を行いました。次に、分解を停止すると同時に 2 つの条件を組み合わせるために、2 つのサンプルを混合して分析しました。強制分解サンプルの分析を図 2 に示します。
図からわかるように、酸と塩基による加水分解を組み合わせた分解により、大量の分解生成物が生じました。通常報告されるピーク面積しきい値 0.1% と同程度の量が発生しました。MaxPeak Premier カラムを使用しない場合、これらの分析種の一部ではこの限界を下回っており、報告されないと考えられます。後でこれらの分析種に発がん性や有毒性の可能性があることが判明した場合に、問題になる可能性があります。可能な限り正確なデータを取得することがより良好な結果につながり、最終的に試験のやり直しが減ることになります。MaxPeak Premier カラムが粒子径 3.5 µm でも利用可能になり、あらゆるシステムでこのテクノロジーを活用できるようになりました。これにより、適切な回答が迅速に得られ、分析の疑念を解消することができます。
結論
MaxPeak High-Performance Surface(HPS)テクノロジーを採用した MaxPeak Premier カラムにより、分析種とカラムハードウェアの金属表面の間の二次的相互作用が軽減されて、LC 分離が向上します。これらの相互作用を排除することにより、保持時間の再現性およびピーク回収率が向上し、多くの場合、ピーク形状がより対称になります。金属表面と相互作用しない化合物についても、MaxPeak Premier カラムにより分離性能が向上することが示されました。その一例は、ヤヌスキナーゼ阻害剤であるバリシチニブの分析です。MaxPeak Premier カラムにより、メインピークだけでなく、一部の低レベル不純物についてもピーク面積が改善しました。結果の正確性が高いほど、試験のやり直しが少なくなり、強制分解試験などの重要な試験にかかる時間が短縮します。MaxPeak Premier カラムを標準にすることで、これらのメリットが容易に得られます。
参考文献
- "FDA Roundup: May 10, 2022". U.S. Food and Drug Administration (FDA) (Press release). 10 May 2022. Archived from the original on 10 May 2022. Retrieved 10 May 2022.https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-roundup-may-10-2022.
- Delano M, Walter TH, Lauber M, Gilar M, Jung MC, Nguyen JM, Boissel C, Patel A, Bates-Harrison A, Wyndham K. Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Anal.Chem. 93. 2021. 5773–5781.
- Zabala G, Berthelette K, Gu W, Haynes K. Improved Reproducibility for Acetaminophen Assay USP Monograph Using MaxPeak Premier Columns after Modernization to 2.5 µm Particles.Waters Application Note.720007938. July 2023.
- Walter TH, Alden BA, Belanger J, Berthelette K, Boissel C, DeLano M, Kizekai L, Nguyen JM, Shiner S. Modifying the Metal Surfaces in HPLC Systems and Columns to Prevent Analyte Adsorption and Other Deleterious Effects.LCGC Supplements.2022.28–34.
- Layton C, Rainville P. Advantages of MaxPeak HPS Technology for the Analysis of Targeted Cancer Growth Inhibitor Therapies.Waters Application Note.720007565.March 2021.
720008113JA、2023 年 10 月