ACQUITY Premier UPLC システム(BSM)を使用した再現性の高い性能によるペプチドマッピング試験の改善とアッセイ失敗の低減
要約
ペプチドマッピングのワークフローで、サンプルの比較を簡素化し、正確なピーク割り当てを確保するには、液体クロマトグラフィー(LC)システムの再現性が非常に重要です。この試験では、Waters™ ACQUITY UPLC™ バイオセパレーションプラットホームの最新の進化形である ACQUITY™ Premier システムの性能について調査しました。この包括的な試験では、3 台のシステムおよび 9 つの LC 分離条件にわたって保持時間の再現性を評価し、流速およびグラジエントがアッセイの再現性に与える影響を評価しました。結果から、ACQUITY Premier システムにより一貫性の高い保持時間(各条件下で調査したペプチドの大半で標準偏差が 1 秒未満)が得られることが示されました。さらに、ACQUITY Premier MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーにより、非特異的ペプチド吸着が低減し、存在量の少ない不純物の正確な検出および定量が可能になるなど、クロマトグラフィー性能が大幅に改善することが示されました。全体として、これらの結果から、ACQUITY Premier システムでのペプチドマッピングワークフローにおいて、一貫性および再現性の高い結果が得られることが実証され、開発部門および品質管理部門のニーズに対応できることが分かりました。
アプリケーションのメリット
- ACQUITY Premier システムで、幅広い条件にわたって保持時間の高いシステム間精度およびシステム内精度を実現
- MaxPeak High Performance Surfaces テクノロジーにより、ピークテーリングが軽減し、クロマトグラフィー性能が改善
- ACQUITY Premier システムの頑健な性能により、信頼性の高い特性解析および不純物アッセイが実現
はじめに
液体クロマトグラフィー(LC)ワークフローにおけるペプチドマッピングの信頼性と頑健性は、移動相のグラジエント組成の一貫性を保って送液できる LC ポンプの性能に一部左右されます。組成の逸脱が、ペプチドの保持時間やピーク形状に影響を及ぼすことがあります。この観点から、修飾やクリティカルペアを適切に分離および定量するためには、再現性の高い保持時間およびピーク形状が必要であるため、LC ポンプの性能が非常に重要になります。さらに、システム間で LC 性能の再現性を確保することで、頑健な分析法を開発でき、ラボや部門をまたいで移管できるという確信が持てます。
過去の試験において、Waters ACQUITY UPLC システムでのさまざまなグラジエントにわたる移動相組成の正確な送液や、分析種の保持時間の高い再現性など、高性能の機能が実証されています1-3。 最近、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier UPLC システムが LC プラットホームとして導入され、非特異的ペプチド吸着が低減することで、分離能と感度が向上しました4-6。 この試験の目的は、バイナリーソルベントマネージャー(BSM)を搭載した ACQUITY Premier システムで、高性能のペプチドマッピングアッセイが実現できるかを評価することにあります。3 台の ACQUITY Premier システムを使用し、9 つの分離条件にわたって保持時間を測定して、幅広い条件にわたるプラットホームの適合性を評価しました。ACQUITY Premier MaxPeak HPS テクノロジーがクロマトグラフィー性能に与える影響を評価するための指標として、ピークテーリングを使用しました。今回記載した結果から、ACQUITY Premier BSM により、ペプチドマッピングワークフローの支援に必要な高い質の結果が簡単に得られ、このシステムがバイオ医薬品の開発および製造での展開に適しており、柔軟性があることを実証しています。
実験方法
サンプルの説明
この試験で使用したサンプルは Waters mAb トリプシン消化標準品(製品番号:186009126)を 300 µL の移動相 A(0.133 µg/µL)に再溶解したものです。移動相 A をブランク注入に使用しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY Premier UPLC BSM システム |
検出: |
ACQUITY Premier TUV、10 mm 分析フローセル、波長 = 214 nm |
バイアル: |
MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル(製品番号:186009186) |
カラム: |
ACQUITY Premier CSH C18、1.7 μm、2.1 × 100 mm |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
0.200 ~ 0.500 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液(LCMS グレード) |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液(LCMS グレード) |
グラジエント: |
5 ~ 95% B、0.25% ~ 1% B/分 |
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ポジティブ |
取り込み範囲: |
m/z 350 ~ 1,250 |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
コーン電圧: |
15 V |
保持時間評価用の SIR 値
ペプチド |
m/z |
LC:T3 |
406.4 |
HC:T30 |
419.9 |
HC:T21 |
418.4 |
LC:T18 |
626.4 |
LC:T5 |
476.9 |
HC:T11 |
925.4 |
HC:T36 |
581.7 |
HC:T41 |
561.5 |
HC:T23 |
560.3 |
LC:T15 |
752.3 |
HC:T22 |
714.2 |
HC:T37 |
849.3 |
HC:T20 |
712.4 |
HC:T26 |
603.8 |
LC:T11 |
600.4 |
HC:T2 |
926.6 |
HC:T15 |
960.5 |
LC:T7 |
1122.1 |
ピークテーリング評価用の SIR 値
ペプチド |
m/z |
LC:T14 |
713.1 |
LC:T3 |
406.5 |
LC:T1 |
477 |
HC:T22 |
714.2 |
HC:T37 |
849.3 |
HC:T4-5 |
597.4 |
HC:T4 |
831.3 |
LC:T7 |
1122.3 |
データ管理
ソフトウェア |
Empower3 FR 4 |
結果および考察
バイオ医薬品のアッセイにおいては、製品に高い信頼性を付与し、調査が必要なアッセイの逸脱によるダウンタイムを最小限に抑えるためには、再現性の高い結果が不可欠です。ペプチドマッピングを用いるアッセイでは、複雑なペプチドプロファイルを分離するために、LC システムで緩やかなグラジエントを低流速で送液することがしばしば必要になります。したがって、LC は、このような困難な条件下でも、再現性高く移動相組成の送液ができることが重要になります。バイオセパレーションのための最新の ACQUITY UPLC プラットホームの進化として、ACQUITY Premier システムがバイナリーソルベントマネージャー(BSM)構成で提供され、厳しい分離要件を満たしつつ、旧世代の生体高分子用プラットホームで見られた分析種の表面への吸着が低減してクロマトグラフィー性能が改善されています。今回、再現性の高い保持時間が得られ、頑健なペプチドマッピングワークフローに対応できるこのシステムの能力が実証されました。
実環境のアプリケーションにおける ACQUITY Premier BSM の性能を評価するために分析したサンプルは、NIST ヒト化モノクローナル抗体(mAb)レファレンススタンダード 41116107 トリプシン消化物でした。バイオ医薬品の開発および製品化の間に遭遇する条件を想定し、幅広い分離条件でサンプルを分析しました。実験デザインの概要を図 1 に示します。これには、高流速(0.500 mL/分)、中流速(0.350 mL/分)、低流速(0.200 mL/分)の 3 種の流速、そしてそれぞれの流速での、3 種のグラジエント(1% B/分、0.5% B/分、および最も緩やかな 0.25% B/分)の条件が含まれます。それぞれの条件で、3 回繰り返し注入を行って標準偏差を計算しました。これら 9 種の分析法の組み合わせ(27 回の注入)を 3 台の ACQUITY Premier BSM システムで評価し、システム間の再現性を評価しました。
ペプチドマッピングにわたって同様にサンプリングした計 18 のピークを選択し、図 2 に示す保持時間の再現性の分析に使用しました。表 1 に SIR-MS でモニターした各ピークの m/z およびすべての条件にわたる保持時間の標準偏差のリストを示します。各ペプチドの保持時間を各条件内の平均に対して正規化したことで、複数の条件およびピークにわたる比較が可能になりました。保持時間の再現性から、分析の厳密さを犠牲にすることなく、システム間の分析が高い信頼性で実施できることがわかります。
Table 1. Peak Results: Retention Time Reproducibility.
SD:標準偏差、LC:軽鎖、HC:重鎖、T:トリプシンフラグメント。図 3 に、それぞれ特定の条件でのシステム性能を表すグリッドを示し、ここでは 3 台のシステム全体にわたる 18 種のペプチドすべてのデータが組み合わされています。予測されるように、急なグラジエントを用い、特に高流速の場合に、ペプチド溶出の再現性が最も高くなりました。バイナリーポンプシステムの条件が厳しくなるにつれて、保持時間の標準偏差が大きくなりました。ただし、標準偏差は最大でも約 1 秒に留まっており、これらの厳しい条件下でもバリデーション済みのペプチドマッピングアッセイが実行できるシステムの能力が実証されました。
性能の包括的分析として、18 種のペプチドすべての保持時間を 9 つの条件および 3 台のシステムにわたって平均正規化し、ヒストグラムとしてプロットし、ガウス分布に近似しました。近似したガウス分布に基づくと、全体の 68%(σ)が ±0.0057 分以内、95%(2σ)が ±0.0114 分以内、99.7%(3σ)が ±0.0171 分以内でした。これらの結果から、ACQUITY Premier BSM では、以前の Waters バイナリー LC システムと同様の高精度のペプチドマッピングの結果が得られることが実証されました1-3。
システムにわたるプラットホームの優れた再現性は、分析法移管の効率化を促進できるため、特に有用です。1 台のシステムで開発した分析法を、最小限の作業で別のシステムに導入することができます。この例として、3 台の ACQUITY Premier BSM UPLC システムにわたって実行して得られた NIST mAb トリプシン消化サンプルの 3 つのクロマトグラムの重ね描きを図 4 に示します。これらのクロマトグラムは、最も極端な試験条件、つまり最も速い流速(0.5 mL/分)で最も勾配の急なグラジエント(1% B/分)および最も遅い流速(0.2 mL/分)で最も勾配の緩やかなグラジエント(0.25% B/分)に対応します。いずれの条件でも、3 台のシステムにわたってピークがよく一致しており、保持時間のアライメントやその他のユーザーによる作業は不要でした。
幅広い一連の条件にわたって ACQUITY Premier システムで確立された保持時間のアッセイ間/アッセイ内性能により、MaxPeak HPS テクノロジーの性能評価を試みました。この新規表面テクノロジーは、LC コンポーネントの表面積が広い金属表面での非特異的ペプチド吸着を減らすことで、ピーク形状、感度、再現性が改善するように設計されています4-6。 ペプチド吸着を評価するため、金属表面に吸着しやすい 7 種の酸性ペプチドを選択して分析しました。ネガティブコントロールとして、塩基性ペプチドも評価に含めました。ピークテーリング係数は、5% ピーク高さでのピークフロントからピーク頂点までの距離の 2 倍でピーク幅を割るという USP の定義に従って計算しました(図 5A の挿入図を参照)。この式に基づき、テーリング係数が 1 を超える場合はテーリングが存在することを示し、テーリング係数が 1.5 以内であれば、RPLC ベースのペプチドマッピングアッセイで一般的に許容される範囲内と判断します。
図 5A に 3 種の流速(0.5 mL/分、0.35 mL/分、0.2 mL/分)で評価した各ピークのテーリング係数を示します。比較として、標準的なステンレススチール製 CSH™ C18 カラムを用い、0.5 mL/分でピークを評価しました。ACQUITY Premier カラムでは、すべての流速で各ピークのテーリング係数が最小限に留まっており、ほとんどのペプチドで標準のカラムと比べてテーリング係数が大幅に改善されていました。図から示わかるように、同じ流速では、ACQUITY Premier カラムの方がペプチドピークのテーリングが最大 83% 少ないという結果になりました。さらに、各システムでの 3 回繰り返し注入の標準偏差を示すエラーバーが、ACQUITY Premier カラムの方が標準カラムと比較して大幅に短く、再現性と定量性能が向上していることがわかります。
MaxPeak HPS テクノロジーを使用することのもう 1 つの特筆すべきメリットは、ピークテーリングの減少により、他のカラムではアーティファクトで広くなった大きなピークによって隠されていた存在量の少ない不純物が明らかになる点です。図 5B の例では、HC:T37 は、標準カラムではテーリングがかなり見られ、ピークの後に溶出する存在量の少ないピークが隠されています。ACQUITY Premier カラムでは、これらの存在量の少ないピークが HC:T37 の脱アミド型と同定され、検出および定量がいずれも可能です。これらの結果は、ターゲットを定めた特性および製品の純度の分析用に導入されたペプチドマッピングアッセイにおいて、質の高い分離が直接的な効果を示すことを実証しています。
結論
ペプチドマッピングのワークフローでは、アッセイの失敗を減らし、正確なピーク割り当ておよび分析全体にわたる同等性を確保するために、再現性の高い保持時間が非常に重要です。この試験では、最も厳しい分離条件の場合でも ACQUITY Premier BSM のシステム間をまたいで保持時間の精度が得られることを実証しています。新規 MaxPeak HPS テクノロジーにより、ピークテーリングの影響が少なくなり、クロマトグラフィー性能が大幅に改善されます。システム性能とシステムの生体適合性を組み合わせることで、より簡単に移管およびバリデーションが行え、ペプチド特性のマッピングおよび製品の不純物アッセイにおけるデータ解釈の信頼性の高いより頑健なアッセイが実現します。
参考文献
- Kaffashan A, Wheat TE.ACQUITY UPLC System-to-System Reproducibility for Peptide Mapping. 2009 July, Waters Application Note, 720003175.
- Simeone J, Hong P, McConville PR.Performance of the ACQUITY UPLC I-Class PLUS System for Methods which Employ Long, Shallow Gradients.2018 May, Waters Application Note, 720006290.
- Dao D, Koshel BM, Birdsall, RE, Yu YQ.Peptide Mapping Retention Time Repeatability Under Shallow Gradient Conditions.2020 December, Waters Application Note, 720007086.
- DeLano M, Walter TH, Lauber MA, Gilar M, Jung MC, Nguyen JM, Boissel C, Patel AM, Bates-Harrison A, Wyndham KD.Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Anal Chem.2021 Apr;93:5773–81.
- Gilar M, DeLano M, Gritti F. Mitigation of Analyte Loss on Metal Surfaces in Liquid Chromatography.J Chromatogr A.2021 May;462247.
- Birdsall RE, Kellett J, Ippoliti S, Ranbaduge N, Lauber MA, Yu YQ, Chen W. Reducing Metal-Ion Mediated Adsorption of Acidic Peptides in Rplc-Based Assays Using Hybrid Silica Chromatographic Surfaces.J Chromatogr B.2021 Apr;122700.
720007593JA、2022 年 4 月