低流速で浅いグラジエントで行うクロマトグラフィーメソッドには、保持時間の再現性を確保するための精密で正確なグラジエントを提供できる LC 装置が必要です。ペプチドマッピング法では、非常に複雑なサンプルに対して最適な分離を得るために、浅いグラジエント条件が必要になることがよくあります。さらに低流速では、より小さいカラム径に対応でき、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)により良く適合します(分析の要件である場合)。本研究では、生体高分子分析用バイナリー LC システムで 24 時間以上にわたって収集したペプチドマッピングの結果を評価し、3 日間にわたる結果を比較します。選択したピークの保持時間の平均標準偏差は、3 日間それぞれについて 0.5 秒未満で、3 日間の試験にわたる保持時間の平均差は 3 秒未満でした。このように、アッセイ内およびアッセイ間の精度が優れていることが示されました。
保持時間の再現性は、分析法開発において、クロマトグラフィーピークの適切な同定および正確な定量を確実にするための重要な要素です。ペプチドマッピングアッセイは、保持時間の再現性を確立する上で最も困難なバイオ医薬品の分析法の 1 つです。それは、分離条件として、目的の分離能を達成するために低流速と浅いグラジエントに頼ることが多いためです。このような困難な分離条件では、LC システムの選択は、最適な性能を達成するための重要な検討事項となります。溶媒送液(ポンプ設計)は、低流速で浅いグラジエントを使用する場合のペプチドマッピングの再現性において重要な役割を果たします。クオータナリーベースの LC システムは、分離パラメーターをより迅速にスクリーニングできるため、分析法開発に特に役立ちますが、バイナリーポンプには、より精密で正確なグラジエントを送液できるという明確な利点があります。ウォーターズのバイナリーポンプは、しばしばペプチドマッピングアッセイに関連する困難が伴う分析法条件下で、精度と正確度が非常に高い組成を実現するように設計されています。本研究の目的は、生体高分子分析用のバイナリーベースの LC システムを使用して、3 日間のペプチドマッピングの評価にわたる過程で低流速と浅いグラジエント条件で送液し、保持時間の再現性を明らかにすることです。
困難なグラジエント条件下で ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムを評価するために、3 日間にわたる連続注入を使用してペプチドマッピングデータを比較しました。ACQUITY UPLC Peptide CSH C18 カラム(130 Å、1.7 μm、2.1 mm × 100 mm、製品番号 186006937)で、0.1% v/v ギ酸の水溶液(移動相 A)およびアセトニトリル溶液(移動相 B)を用いる 135 分の分析法を使用し、0.200 mL/分で 0.41% B/分 の浅いグラジエントで、NIST mAb のトリプシン消化物を還元してアルキル化した Waters トリプシン mAb トリプシン消化物標準品(製品番号 186009126)の分離を行いました。サンプルセットは、4 回のブランク注入に続いて、トリプシン消化標準品の 3 回の繰り返し注入と、サンプルセット間の平衡化期間で構成され、1 サンプルセットあたり 24 時間の合計実行時間がかかりました。消化物標準品は、毎日新しく調製しました。
日ごとの一連の注入のクロマトグラムの重ね描きから、単一のデータセット内並びに 3 日間にわたって、保持時間のドリフトが最小限に抑えられていることが分かります(図 1)。保持時間の再現性をさらに調査するために、分析の全期間にわたって 14 のピークを選択しました。表 1 は、3 日間にわたる試験における、選択した各ペプチドの平均保持時間と標準偏差を示しています。保持時間の標準偏差の平均値は、3 日間それぞれについて 0.5 秒未満で、装置の仕様を満たしているとともに、各データセット内でよく一致していることを示しています。3 日目の結果と 1 日目の結果を比較すると、保持時間がわずかに短い方にシフトしていることが分かります。1 日目と 3 日目の保持時間の間の平均差は 3 秒未満です。これは、135 分の分析法全体では無視できる程度と見なされます。この保持時間のシフトが体系的であることから、このシフトは、試験の過程における移動相組成のわずかな変化に起因すると考えられます。さらに、分離能も影響を受けていませんでした。このことも、適切なペプチド同定と定量の重要な指標です。これらの結果は、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムが、複数日の試験にわたる一連の注入を通じて、良好なアッセイ内精度およびアッセイ間精度を提供できることを示しています。
ペプチドマッピング分析では多くの場合、低流速と浅いグラジエントという、堅牢な分析法を開発するのが困難と考えられる条件が使用されます。このような条件下で保持時間のばらつきが予想されますが、ペプチドの正確な同定と定量には保持時間の再現性が不可欠です。本研究では、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムを使用することにより、優れたグラジエント精度を実現し、困難な分析法条件下で発生する保持時間の変動を最小限に抑えることができることを実証しています。
720007086JA、2020 年 12 月