• アプリケーションノート

MaxPeak Premier テクノロジーによる抗ウイルス薬の安定性指標分析法のクロマトグラフィー性能の改善

MaxPeak Premier テクノロジーによる抗ウイルス薬の安定性指標分析法のクロマトグラフィー性能の改善

  • Catharine E. Layton
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

医薬品化合物を分析するために開発したクロマトグラフィー分析法では、対策レベルに達するはるか前の段階で、低レベルの不純物を識別する必要があります。これを達成するためには、保持、ピーク形状、感度などのパラメーターが非常に重要になります1,2

MaxPeak Premier テクノロジーにより、液体クロマトグラフィー装置およびカラムに存在する分析種の金属イオンとの非特異的吸着に由来するサンプル損失が低減します。この新しいテクノロジーを使用することで、遺伝毒性物質や薬理活性物質など、低レベルの分析種の正確な濃度の検出および定量において、大幅な改善が得られる可能性があります。

アプリケーションのメリット

  • MaxPeak Premier テクノロジーにより、強い移動相添加剤、キレート剤、時間のかかる不動態化処理プロトコールルを必要とせず、クロマトグラフィー性能が改善
  • 反応性の高い医薬品不純物など、低レベルの分析種の一部では、MaxPeak Premier を用いたカラムおよび/または装置を使用することで、レスポンスおよびピークプロファイルが大幅に改善

はじめに

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、医薬品開発および製造全体を通して、医薬品有効成分(API)中の不純物の存在をモニターするために使用されています。米国食品医薬品局(FDA)の原薬についてのガイドラインでは、不純物はしきい値 ≥0.1% で報告し、非常に効力が高いまたは毒性があると考えられる不純物は、濃度に関連なく報告するように指定されています3,4。 微量レベルにおける回収率は、化学的および機械的な数々のクロマトグラフィー上の要因の影響を受けます。

従来の HPLC 装置およびカラムは、ステンレススチール製の部品やアクセサリーで構成されています。ステンレススチールが選択されているのは、入手が容易であり、機械的強度が高いためですが、酸やハロゲンを含む移動相など、高刺激性の液体に曝露すると劣化しやすいという性質があります。腐食によって生じた金属イオンは、カラムの固定相に一貫性なく不可逆的に結合し、イオンの影響を受けやすい分析種と、複合体形成、酸化、エピマー化などの相互作用をします。その結果、劣悪で許容できないクロマトグラフィーピーク形状になり、ターゲット分析種が特に微量濃度の場合は、完全に失われる可能性があります1,2

プロドラッグとは、医薬品の有効成分の吸収、分布、代謝を良くするために投与される API です。プロドラッグであるテノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)により、反応性の高い遊離水酸基をマスクすることで、ターゲット分子(テノホビル)のバイオアベイラビリティーが増加します。一連の加水分解反応に続いて有効成分が放出され、負に荷電した分子テノホビルが曝露します5。負電荷は薬理上有用ですが、金属イオンとの相互作用が起こりやすくなるため、同じ負電荷がクロマトグラフィー分析においては問題となります。この試験では、テノホビルを高反応性微量レベル不純物としてモニターする際に、MaxPeak Premier テクノロジーにより得られるクロマトグラフィー性能の改善を実証しています。

実験方法

試料および分析法

LC システム 1:

ACQUITY Arc システム(クオータナリーソルベントマネージャ(rQSM)、

サンプルマネージャ(rFTN)、ACQUITY Arc カラムマネージャ(rCM)を搭載)、

Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア

LC システム 2:

Arc Premier システム(クオータナリーソルベントマネージャ(rQSM)、

Arc Premier サンプルマネージャ(rFTN)を搭載)

Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア

検出:

ACQUITY フォトダイオードアレイ検出器(PDA)、UV 260 nm

カラム:

XBridge XP、BEH C18、2.5 µm カラム、4.6 × 150 mm、製品番号:186006711

XBridge Premier、BEH C18、2.5 µm カラム、4.6 × 150 mm、製品番号:186009849

カラム温度:

43 ℃

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

5 μL

流速:

1.3 mL/分

希釈溶媒:

(50:50) メタノール/水

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 4.0)

移動相 B:

アセトニトリル

条件:

2% 移動相 B で 2 分間保持、その後 8.5 分間で 2% アセトニトリルから 90% アセトニトリルまでグラジエント

テノホビル、CAS 番号206184-49-8(USP、米国メリーランド州ロックビル)は、希釈溶媒中に約 0.1 mg/mL になるように調製し、クロマトグラフィーの保持時間レファレンス標準として使用しました(図 1)。テノホビルアラフェナミドフマル酸塩原液、CAS 番号 379270-38-9(Selleckchem、米国テキサス州ヒューストン)は、希釈溶媒中に 0.5 mg/mL になるように調製しました。原液を強制分解サンプル調製物に分けて、様々な条件に曝しました(6)。加熱したコントロールおよび酸化強制分解サンプル調製物を、表 1 に記載した装置/カラム設定で分析しました。以前の不動態化の影響を避けるため、新しいカラムを使用し、装置を 100% IPA、続いて HPLC グレード水でフラッシュ洗浄しました。このアプリケーションノートの概念実証の裏付けとして、回収率の結果を %w/w ではなく %面積で報告しました。MaxPeak Premier テクノロジーを採用していない ACQUITY Arc システムや XBridge XP カラムを呼ぶのに「従来の」という用語を用いました。

図 1.(A)プロドラッグであるテノホビルアラフェナミドフマル酸塩および(B)テノホビルの構造7

 

表 1.  従来および MaxPeak Premier の装置およびカラムによるシステム構成

結果および考察

3 つの構成それぞれを使用して、テノホビルのレファレンス標準調製物を分析すると、クロマトグラフィー性能の差が明らかでした。従来の構成では、ピーク高さが低く、顕著なピークテーリングのために波形解析が非常に困難でした。一方、MaxPeak Premier テクノロジーを採用した場合、ピーク面積、高さ、USP シグナル対ノイズ比(S/N)における性能改善が顕著に見られ、5σ(8)でのピーク幅、USP テーリングが減少して、波形解析が容易になりました(図 2、表 2)。 

図 2.  各システム構成でのテノホビルのレファレンス標準調製物についてのピーク性能の重ね描き
表 2.  従来のテクノロジーおよび MaxPeak Premier テクノロジーで得られたテノホビルのレファレンス標準についてのピーク性能

安定性評価分析法で強制分解サンプル調製物を分析すると、親分子およびプロドラッグであるテノホビルアラフェナミドフマル酸塩が 8.4 分まで保持されたのに対して、分解産物として存在するテノホビルは、約 3.1 分で溶出しました(図 3)。従来のテクノロジーでは、コントロールサンプル調製物のテノホビルのピークは、ピークテーリングの程度が大きいために、ベースラインノイズから区別することが困難でした。ブランク注入の重ね描きの後で実施した、非常に幅広いピークの手動解析では、不純物の報告しきい値である 0.1% をわずかに上回る回収率を示しました。MaxPeak Premier テクノロジーでは、強制分解サンプル調製物中のテノホビルのピーク性能が大幅に改善し、回収率が従来の結果よりも約 4.5 倍改善し、不純物の報告しきい値である 0.1% を大幅に上回っていました(図 4)。酸化強制分解サンプル調製物は、従来の分析でも、回収率 1.38% と同様の傾向が見られました。MaxPeak Premier テクノロジーでは、回収率が 3% 超に上昇していました。

図 3.  3 つのシステム構成:(1)ACQUITY Arc システム/XBridge XP カラム、(2)ACQUITY Arc システム/XBridge Premier カラム、および(3)Arc Premier システム/XBridge Premier カラムで分析した、苛酷試験を実施したコントロールサンプル調製物についてのクロマトグラフィー性能の比較。挿入図に、テノホビルと同定された低レベル分解産物の回収率を示します。
図 4.  コントロールおよび酸化強制分解サンプル調製物から回収されたテノホビル

結論

MaxPeak Premier テクノロジーにより、金属に吸着しやすい分析種の検出および回収率において明白なメリットがあることが分かりました。この新しいテクノロジーを用いないと反応性の高い抗ウイルス治療薬であるテノホビルはほとんど検出されず、強制分解サンプルでは、ピーク形状が不良であるため、手動解析が必要でした。MaxPeak Premier 装置および/またはカラムテクノロジーを採用することで、金属表面との相互作用が低減し、微量レベルの分析種が容易に検出可能になって、FDA の不純物しきい値の報告限界値を大幅に上回りました。

参考文献

  1. Plumb R. and Wilson I., “Metal-Analyte Interactions – An Unwanted Distraction”, The Column.Vol 17 (8), 2021.
  2.  Mathew DeLano, Thomas H. Walter, Matthew A. Lauber, Martin Gilar, Moon Chul Jung, Jennifer M. Nguyen, Cheryl Boissel, Amit V. Patel, Andrew Bates-Harrison, and Kevin D. Wyndham.Analytical Chemistry Vol 93 (14), 2021.
  3. ICH guidelines, Q1A (R2): Stability Testing of New Drug Substances and Products (revision 2), International Conference on Harmonization, 2003.
  4. “Guidance for Industry #5, Drug Stability Guidelines”, FDA Code of Federal Regulations, Title 21, Volume 4 (21CFR211), accessed 11/16/21.
  5. Vijaya Madhyanapu Golla, Moolchand Kurmi, Karimullah Shaik, Saranjit Singh.“Characterization of Degradation Products of Tenofovir Alafenamide Fumarate and Comparison of Its Degradation and Stability Behaviour with Tenofovir Disoproxil Fumarate”.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 131 (2016) 146–155.
  6. Catharine E. Layton, Paul D. Rainville.Automated Method Development Using Quality-by-Design for Stability Indicating Methods, Waters Application Note, 720007480EN, 2021.
  7. 2D Structure Database, www.ChemSpider.com, accessed 12/02/21.
  8. Joseph C. Arsenault and Patrick McDonald.“Beginners Guide to Liquid Chromatography”, Waters Corporation Primer.715001531, 2007.

720007487JA、2022 年 1 月

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