• アプリケーションノート

安定性評価分析法において分析法のクオリティ・バイ・デザインを使用した自動分析法開発

安定性評価分析法において分析法のクオリティ・バイ・デザインを使用した自動分析法開発

  • Catharine E. Layton
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

新型コロナウイルス感染症などの治療のため、有効性が高く、耐性に対する遺伝的障壁が高く、長期安全性および忍容性が改善した新しい抗ウイルス治療薬が、急速に開発されています。アッセイ、分解生成物、および治療用化合物に含まれる不純物のモニタリングに、クロマトグラフィーによる安定性評価分析法(SIM)を用いました。自動化した信頼性の高い AQbD アプローチを使用してクロマトグラフィー SIM を開発することで、強制分解サンプル調製物を使用した分析法開発を行う際に、頑健性および効率の面での利点が得られます1

アプリケーションのメリット

  • Fusion QbD 分析法開発ソフトウェアを用いることで、安定性評価分析法を自動的に開発することができます。
  • Fusion QbD 分析法開発ソフトウェアの強制分解機能により、自動化された分析法開発設計に複数の強制分解サンプルを含めることが可能になります。

はじめに

適切な製剤化、包装の選択、保存期間の決定においては、医薬品有効成分(API)の安定性に関する情報が非常に重要になります2,3。頑健で再現性の高い分析法の開発は、複雑かつ困難で、時間がかかる場合があります。一般的に用いられている戦略として、一時一事法(OFAT)、体系的プロトコル、分析法のクオリティ・バイ・デザイン(AQbD)が挙げられます。

最近では、AQbD のアプローチで得られる情報が知識に基づいた意思決定を支援することから、規制機関による AQbD への関心が高まっています。リスク評価を実施することで、AQbD の原則を使用して収集したデータから、Method Operable Design Region(MODR)と呼ばれるデザインスペースが生成されます。このスペース内から、許容性能領域(APR)により、分析法の変数(温度、グラジエント時間、流速など)が指定されたシステム適合性要件を満たす作業範囲が更に定義されます1。 この境界内での分析法の実施により、クロマトグラフィーの頑健性が最大限になる一方、ルーチンの日間クロマトグラフィー変動により異常で規格外(OOS)または傾向外(OOT)の結果になる可能性が最小限に抑えられます。

この試験では、Fusion QbD 分析法開発ソフトウェアと Empower 3 を併用することで、安定性評価分析法(SIM)を開発しました。この分析法は、慢性 B 型肝炎や HIV の治療に用いる抗ウイルスプロドラッグで、ウイルスの逆転写の強力な阻害剤である、テノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)のモニタリングに使用されています4。Fusion QbD ソフトウェアに組み込まれている「強制分解」機能を使用して、単一のデザインスペースに複数の強制分解サンプル調製物を含めました。 

実験方法

サンプルおよび強制分解の準備

テノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)の認証レファレンス物質(CAS 379270-37-8)(図 1)(Selleckchem.com、米国テキサス州ヒューストン)は、希釈液(50/50 水/メタノール)中に約 0.5 mg/mL の濃度で調製しました。4 種類の TAF 強制分解サンプル調製物には、最終濃度で 5 mM の HCl(酸性)、0.025 mM のギ酸アンモニウム pH 8.5(塩基性)、5% の H2O2(酸化)、サンプル希釈液(コントロール)が含まれました。コントロールおよび酸化サンプルは 60 ℃ に 3 時間曝露しました。一方、酸および塩基を含むサンプルは、室温で 3 時間保管してから分析しました。

図 1.  テノホビルアラフェナミドフマル酸塩の構造(5)

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Arc システム(クオータナリーソルベントマネージャ(rQSM)、サンプルマネージャ(rFTN)、カラムマネージャ(rCM)付き)

検出:

ACQUITY フォトダイオードアレイ検出器(PDA)、UV 260 nm

カラム:

XBridge Premier BEH Shield RP18、2.5 µm、4.6 mm × 150 mm(製品番号:186009923)

XBridge Premier BEH C18、2.5 µm、4.6 × 150 mm(製品番号:186009849)

XSelect Premier CSH Phenyl-Hexyl、2.5 µm、4.5 × 150 mm(製品番号:186009888)

XSelect Premier CSH C18 XP、2.5 μm、4.5 × 150 mm(製品番号:186009874)

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

5.0 μL

流速:

1.3 mL/分

水系移動相:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 4.0)

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 6.4)

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 8.4)

有機移動相:

アセトニトリル

データ管理

データ管理:

Empower 3 クロマトグラフィーソフトウェアおよび Fusion QbD ソフトウェア(S-Matrix Corporation)

結果および考察

AQbD の原理を用いた分析法開発を、一連の体系的な段階を踏んで行いました。この試験では、初期設計(迅速スクリーニング)を開発し、これを 4 種類の強制分解サンプル調製物に対して実施しました。MODR で生成されたクロマトグラムの波形解析および統計処理を行った後、より焦点を絞った変動要因(分析法の最適化)を調べる 2 番目の設計を開発および実施しました。これにより、APR が定義され、この領域内の分析法性能が検証されて SIM の条件がまとまりました。体系的な分析法開発の段階について、以下に詳細を記載します。

第 1 段階:迅速スクリーニング

移動相の pH、カラム、グラジエント時間の変動要因を Fusion QbD による迅速なスクリーニングの分析法開発の設計に含めました。「Replication Settings/Forced Degradation Study」(繰り返し設定/強制分解試験)機能(図 2)を用いて、4 種類の強制分解サンプル調製物(酸性、塩基性、酸化、コントロール)すべてをスクリーニングプロセスに含めました。次に、設計を Empower 3 にインポートして実装しました。 

図 2.  Fusion QbD ソフトウェアでの LC 分析法開発の設定。[Replication Settings](繰り返し設定)タブで、試験設計に 4 種類の強制分解サンプル調製物を含めました。

第 2 段階:Fusion QbD へのデータのインポートおよびナレッジスペースの開発

測定完了後、すべてのクロマトグラムを汎用解析メソッドを用いて波形解析しました。この設計で実行した最初のセットの変動要因について、4 種類の強制分解サンプル調製物のクロマトグラムを重ね描きしました。4 種類の調製物の間で多くの分解物が共通していましたが、酸化したサンプル調製物では、他とは異なる固有の分解生成物が生じていました。酸化したサンプル調製物を選択して統計解析を行い、ピーク数についての「最悪のケース」のシナリオとして、更なる分析法開発を行いました。

酸化したサンプル調製物の注入についての波形解析したクロマトグラムを Fusion QbD にインポートし、統計解析を行いました。「ピークカウント」の目標性能を選択し、トレンドレスポンス情報を生成しました。これから、ソフトウェアにより、インポートされたクロマトグラムに存在するピークプロファイルに基づいて、数学的モデルが自動的に構築されました。Fusion QbD により、「Best Overall Answer(BOA)」あるいは最大ピーク数を生成する分析法の変動要因の組み合わせ(pH、カラム、グラジエント時間)が予測されました。迅速スクリーニング試験を完了した後、これらの変動要因を分析法の最適化に適用しました。

第 3 段階:分析法の最適化 - 温度およびグラジエント時間

分析法の最適化設計を構築し、40 ~ 50 ℃ の範囲のカラム温度を調べてグラジエント時間を微調整しました。設計の実施、クロマトグラムの波形解析、Fusion QbD へのデータのインポートを行った後、ピーク数、USP 分離度、k’ などのクロマトグラフィーシステム適合性の目標性能が最大化し、同時に USP テーリングを最小限に抑えられる(図 3)ように許容性能範囲(APR)を定義しました。

この APR により、グラジエント時間 7 ~ 9 分およびカラム温度 41.5 ~ 43.5 ℃ で頑健なクロマトグラフィー分離が得られることが予測されました。APR 領域内では、ピーク数、USP 分離度、k’、USP テーリングについてのシステム適合性基準がすべて満たされていました。

図 3.  分析法の最適化実験から得られたデザインスペースと APR 領域を示す Fusion QbD グラフ。グラフの下の表は、この設計で達成されたユーザー指定の性能目標を示しています。

第 4 段階:検証

分析法の検証を実施するため、APR 内の中心点で定義される変動要因で、4 種類の強制分解サンプル調製物すべてを分析しました。迅速スクリーニングの結果に基づき、XBridge Premier BEH C18 カラムと 10 mM ギ酸アンモニウム(pH 4.0)を使用し、分析法の最適化試験の結果に基づき、カラム温度は 43 ℃、2% B で 2 分間保持しました。その後、8.5 分間で 95% までグラジエントを上昇させました。試験の間を通して、流速、注入量、UV 検出波長をそれぞれ 1.3 mL/分、5 µL、260 nm と一定に保ちました(図 4)。

図 4.  テノホビルアラフェナミドフマル酸塩の強制分解サンプル調製物についての最終的な SIM クロマトグラフィープロファイル

結論

この試験では、テノホビルアラフェナミドフマル酸塩原薬を強制分解条件に曝露した後のモニタリングに使用する安定性評価分析法の開発を実証しました。Fusion QbD 分析法開発ソフトウェアを活用した自動化された統計的アプローチを用いました。このアプローチにより、複数のサンプル調製物のクロマトグラフィー性能を、単一の自動分析法開発設計で調査することができました。  

参考文献

  1. Fadi L. Alkhateeb, Paul D. Rainville.“Analytical Quality by Design Based Method Development for the Analysis of Formoterol, Budesonide, and Related Compounds Using UHPLC-MS”.Waters Application Note, 2019, 720006696.
  2. “Guidance for Industry #5, Drug Stability Guidelines, FDA Code of Federal Regulations Title 21, Volume 4 (21CFR211), accessed 11/16/21.
  3. ICH guidelines, Q1A (R2): Stability Testing of New Drug Substances and Products (revision 2), International Conference on Harmonization, 2003.
  4. Vijaya Madhyanapu Golla, Moolchand  Kurmi, Karimullah Shaik, Saranjit Singh.“Characterization of Degradation Products of Tenofovir Alafenamide Fumarate and Comparison of Its Degradation and Stability Behaviour With Tenofovir Disoproxil Fumarate”.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 131 (2016) 146–155.
  5. 2D Structure Database, www.ChemSpider.com, accessed 10/20/21.

720007480JA、2021 年 12 月

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