ハイスループットの血漿プロテオミクスにおける SELECT SERIES Cyclic IMS の利用
研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
要約
前立腺がん(PCa)は米国男性のがんによる死因の第 2 位を占めており、ほぼ 9 人に 1 人が前立腺がんの診断を受けています。多数の OMIC ベースの研究が実施され、前立腺がんのマーカー候補が提案されています。包括的で統計的に有効なサンプルセットを得るためには、患者の大規模なコホートをサンプリングすることが必要になります。特に、ナノスケールのクロマトグラフィーをルーチンに使用するプロテオミクスに重点を置く研究では、最終的にこの点が分析上の課題となります。このアプリケーションノートでは、Q-Tof 装置シリーズに最近追加された SELECT SERIES Cyclic IMS を用いた分析による、前立腺がん患者から採取した血漿のプロテオミクスプロファイリングにおけるハイスループット戦略の使用の可能性について実証しています。
アプリケーションのメリット
- 頑健で信頼性の高いハイスループット分析
- 分析スケールのクロマトグラフィー
- イオンモビリティーの分離能
- 質量分解能
- ダイナミックレンジ
はじめに
四重極飛行時間(QTof)は、探索的プロテオミクス実験において十分に確立されたツールです。これらの装置は、このような難しいサンプルの分析を成功させるために必要な重要な特性である、高い感度、速度、高質量分解能を示します。臨床プロテオミクスの分野は、急成長を遂げている研究分野であり、血漿や血清などの体液の分析を行います。使用可能なサンプルの量は、従来のプロテオミクス実験よりもはるかに多くなりますが、疾患のバイオマーカー候補は、アルブミンなどの最も含有量の多いタンパク質と比較すると、非常に低濃度である可能性があります。そのため、血漿/血清のトリプシン消化物は、ペプチド含有量のダイナミックレンジが非常に広くなります。
このアプリケーションノートでは、SELECT SERIES Cyclic IMS を使用して、血漿トリプシン消化物サンプルの分析における分析スケールのクロマトグラフィーの使用について調査します。この分析は以前は別の Q-Tof 質量分析計を使用して行われていました1。 Cyclic IMS は、Q-Tof 装置シリーズに最近追加された装置で、以前の Q-Tof プラットホームのバージョンと比較して、感度、イオンモビリティー分離能、質量分解能が向上しています2。 さらに、Cyclic IMS の装置にはデュアルゲイン検出システムを用いており、検出器の特性が異なるため、ダイナミックレンジが拡張されます。
実験方法
サンプルの説明
トリプシン消化し、表現型でプールした 8 つの血清サンプル(7 種の疾患状態/治療法および 7 グループすべての QC 試験用プールを含む)を使用して分析を行いました。分析に用いた異なる疾患状態のグループの構成は、(i)診断が確定し、積極的な監視を受けている PCa 患者、(ii)診断が確定し、治療をまだ受けていない PCa 患者、(iii)小線源治療を受けた PCa 患者、(iv)ホルモン治療を受けた PCa 患者、(v)前立腺切除手術を受けた PCa 患者、(vi)ホルモン治療と放射線治療の併用療法を受けた PCa 患者、(vii)健常対照、でした。
LC 条件
LC: |
ACQUITY Premier システム |
分析カラム: |
ACQUITY Premier CSH、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009488) |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
流速: |
150 µL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
15 分で 5% ~ 35% 移動相 B |
MS 条件
MS システム: |
SELECT SERIES Cyclic IMS |
イオン化モード: |
ESI+ |
質量分解能: |
50,000 FWHM |
イオンモビリティー分解能: |
シングルパス、65 FWHM |
取り込みモード: |
HDMSE |
取り込み質量範囲: |
50 ~ 2000 amu |
波形解析時間: |
0.15 秒 |
レファレンス試料: |
120 秒ごとにサンプリングした Glu フィブリノペプチド B |
キャピラリー電圧: |
2.2 kV |
トランスファー CE、ファンクション 2: |
19 ~ 45 V |
コーン電圧: |
30 V |
データ管理
MS ソフトウェア: |
MassLynx |
データ解析: |
Progenesis QI for Proteomics(PQIP)、Tibco Spotfire、Metaboanalyst |
データベース: |
Uniprot レビュー済み配列のみ |
偽発見率: |
1% |
結果および考察
試験設計を図 1 に示します。500 を超えるサンプルから成るコホートを、メタデータを使用して様々な疾患状態/治療法についての 7 つの表現型プールにグループ化しました。更に、7 つの表現型プールから成る試験用プールを品質管理サンプルとして前処理しました。一晩トリプシン消化した後、測定したサンプル濃度は約 8 µg/µL でした。サンプルは、8 倍希釈して 0.5 µL(500 ng)をオンカラム注入しました。各サンプルを 3 回の繰り返しで取り込み、24 回で 1 セットの注入をランダムに行いました。
図 2 に血漿消化物サンプルについて得られた一般的なクロマトグラフィーを示します。これは、分析を通してランダムに得られた 10 のクロマトグラムの重ね描きです。臨床プロテオミクスサンプルの分析における成功の鍵は、LC-MS システムの再現性と堅牢性にあります。
生データを Progenesis QI for Proteomics を使用して解析し、3 種類のタンパク質から得られた 5 種類のペプチドについて、解析データを全溶出時間にわたって抽出することで(図 3)、保持時間およびシグナル強度について再現性が優れていることが実証されました。シグナル強度については最大変動係数(CV)が 13% で、保持時間については最大 CV が 0.18% と算出されました。分析した 8 サンプルは PQIP の実験セットアップで特定され、369 種のタンパク質が再現性よく定量できました(図 4)。 更に 551 種のタンパク質が少なくとも 1 回の注入で同定され、一致したペプチド強度は、ほぼ 5 桁のダイナミックレンジにわたっていました(図 5)。このデータを Metabonanalyst にエクスポートして、更に統計解析を行いました。教師なし主成分分析(PCA)において、実験の異なるサンプルグループ間で明らかな分離が認められました(図 6)。
結論
初期調査により、SELECT SERIES Cyclic IMS で実施した分析スケールのクロマトグラフィーによるハイスループット血漿プロテオミクス実験の可能性が示されました。この分野の調査には優れたクロマトグラフィー性能と高性能 Q-Tof 分析の組み合わせが不可欠です。ACQUITY Premier システムと Cyclic IMS の組み合わせが信頼性の高い組み合わせであることが証明されました。PCA プロットにより、様々な疾患状態または治療のグループが明確に分離されることが実証され、以前の分析結果と同様に、大規模なサンプルコホートでの分析が可能であることが示唆されました。
参考文献
- Lennon et al., High-Throughput Microbore Ultra-high Performance Liquid Chromatography-Ion Mobility-Enabled-Mass Spectrometry-Based Proteomics Methodology for the Exploratory Analysis of Serum Samples from Large Cohort Studies, J Proteome Res; 20 (3):1705–1715, 2021.
- Chris Hughes, Lee A. Gethings, Robert S. Plumb.Qualitative and Quantitative Performance of Cyclic IMS in Nanoscale Proteomic Experiments, Waters Application Note, 720007381EN, 2021.
720007414JA、2021 年 10 月