研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
ヒト血漿中の TCA 回路および関連する代謝物は低分子量で極性が高く、さらに同重体が多く、ヒト血漿中の濃度が幅広い上に、金属感受性が高いため、分析が困難です。その保持および選択性の課題に対応するため、この分析法では、単純な逆相のような移動相を使用するミックスモード陰イオン交換クロマトグラフィーを適用しています。タンデム四重極型質量分析法は高感度の検出を提供し、MaxPeak High Performance Surfaces によって、UPLC およびカラムに存在する金属表面との相互作用が軽減します。結果として、血漿中の有機酸代謝物の定量に適した、シンプルで感度の高い分析法が得られます。
トリカルボン酸回路(TCA 回路)とは、炭水化物、脂肪、タンパク質の分解により生じる基質の、一連の酵素を介した化学反応を指します1。TCA 回路は、細胞の同化過程および異化過程の両方で使用される、厳密に制御された経路です1。 さらに、反応によって生じる代謝物は、ミトコンドリアを介した細胞のシグナル伝達を促進することがわかっています2。 TCA 回路からの代謝物の最終産物は、細胞の恒常性において中心的な役割を果たします。また、その構成および産物のモニタリングにより、様々な疾病についての情報が得られます。
TCA 回路に含まれる化合物などの化合物測定には問題がつきまとう場合があります。低分子量であること、マトリックス抽出物の複雑さ、および安定性の問題とは別に、カルボン酸基やリン酸基などの電子豊富な分子が含まれている化合物と金属との相互作用が、既知の複雑化の原因となって、分析感度の低下やピーク形状の悪化につながります3-6。 このような二次相互作用に伴う測定の不確かさは、分析に悪影響を及ぼします。その軽減策として、移動相やサンプル希釈液へのキレート剤の添加が挙げられますが、このような移動相添加剤は、イオン化抑制やクロマトグラフィーの変化の原因となりかねず、問題が 1 つ解決できても、別の問題が生じる可能性があります7-10。 この金属との相互作用に対応するため、ウォーターズは MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーを開発しました11。 LC コンポーネントやカラムハードウェアでこのテクノロジーを採用することで、分析種の金属表面との相互作用を軽減し、移動相添加剤を加える必要をなくすることができます。
分析種の原液は、50 mM 遊離酸の水溶液を個別に調製しました。次に、これらを合わせて 2.5 mM 水溶液にし、作業用原液としました。安定同位体標識内部標準試料(Cambridge Isotope Laboratories)は、1 mM 遊離酸の溶液を 50% ACN/50% H2O 中にそれぞれ調製しました。次に、cis-アコニット酸-C13、2-ヒドロキシグルタル酸-C13、フマル酸-C13、リンゴ酸-C13、コハク酸-C13 の 38 µM 作業用内部標準試料混合液と、120 µM クエン酸-C13 水溶液を調製しました。
個別の健常女性ドナーの血漿サンプル 4 つと、乳がん陽性のサンプルを、BioIVT(ニューヨーク、Westbury)から購入しました。氷上で解凍した後、血漿サンプル各 25 µL を新しい 1.5 mL 微量遠心チューブに入れた後、5 µL の作業用内部標準試料混合液を添加しました。冷メタノール 75 µL を加え、サンプルを 1 分間ボルテックス混合しました。サンプルを、21,130 rcf で、4 ℃、10 分間遠心分離しました。次に、上清 75 µL を新しい微量遠心チューブに移し、遠心エバポレーター中で加熱なしで 1.5 時間真空にして乾固しました。サンプルを直ちに 75 µL の H2O に再溶解し、20 ℃ で 10 分間放置しました。次に、再溶解したサンプルを上記と同様に遠心分離し、シラン処理済みバイアルにサンプルを移しました。血漿サンプルは 3 回繰り返し注入しました。
作業用原液を H2O 中に連続希釈することにより、ストック標準溶液(2.5 mM、1.25 mM、500 µM、250 µM、125 µM、50 µm、25 µM、12.5 µM、5 µM、2.5 µM、1.25 µM、0.50 µM)の検量線を作成しました。各標準試料 5 µL および内部標準混合液 5 µL を、15 µL の水が入っているシラン処理済みバイアル中に添加しました。これがキャリブレーション溶液(血漿の当初の容量である 25 µL 中にそれぞれ 500、250、100、50、25、10、5、2.5、1、0.5、0.25、 0.1 µM)となります。次に 50 µL の水を加えて、最終容量を 75 µL にし、血漿サンプルのサンプル前処理および希釈手順と一致させます。そのため、質量分析計で測定した検量線の実際の濃度は 167、83.3、33.3、16.7、8.33、3.33、1.67、0.833、0.333、0.167、0.083、0.033 µM となりました。キャリブレーション標準試料は 2 回繰り返し注入しました。
分析法の再現性を保証するため、3 日に 1 度、メスフラスコと、アンプルから正確に測り取ったギ酸を用いて移動相を調製しました。
LC システム: |
ACQUITY PREMIER |
バイアル: |
Waters トータルリカバリーバイアル、不活性型(製品番号 186000385DV) |
カラム: |
ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl 2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号 186009475) |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
5 ℃ |
注入量: |
3 µL |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス: |
1000 L/時間 |
コーンガス: |
50 L/時間 |
ソース温度: |
150 ℃ |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
様々な LC-MS 分析法および GC-MS 分析法を用いて、TCA および関連する成分の測定が行えました。以前に、標準的な CSH Phenyl Hexyl カラムと LC システムでのミックスモード陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、ヒト尿中の TCA 成分の分離用の LC-MS アッセイを開発しました12。 ここでは、ACQUITY PREMIER システムと ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl カラムを取り入れて、その分析法を拡張しています。ACQUITY PREMIER システムと ACQUITY PREMIER カラムの両方に MaxPeak HPS テクノロジーが採用されており、金属-分析種間相互作用が軽減されます。
カルボン酸やリン酸などの電子が豊富な分子が含まれている化合物は、金属キレートを生成する場合があり、これによって金属表面との望ましくない相互作用が生じて、最終的な結果として検出器で測定される分析種の量が低減する可能性をもたらします。このアプリケーションでの PREMIER テクノロジーのメリットとして、金属の影響を受けやすい化合物におけるピーク面積の増加とピーク形状の改善が挙げられます。図 1 は、抽出した血漿サンプルからのイソクエン酸、クエン酸、3-ホスホグリセリン酸のクロマトグラムを示しており、ACQUITY PREMIER システムと ACQUITY PREMIER カラムでの分析と、標準の UPLC および標準カラムでの分析を比較しています。イソクエン酸、クエン酸、3-ホスホグリセリン酸のいずれにおいても、ピーク面積の増加が極めて明らかです。また、リンゴ酸ではピーク形状が改善しています。イソクエン酸およびクエン酸のピーク面積はそれぞれ 41 倍および 5 倍増加しており、3-ホスホグリセリン酸の増加が一番大きく、100 倍を超えていました。リンゴ酸のピークテーリングは 10% 高さで 58% 減少していました。PREMIER テクノロジーがシステムおよびカラムの準備状態に与える影響を判定するため、それぞれのシステムで新しいカラムを用い、抽出した血漿を注入しました。クエン酸を例に取った場合、血漿のピーク面積は、初回の注入では 2 桁を超えて大きく(図 2)、ACQUITY PREMIER UPLC およびカラムによって優れた分析感度が得られ、分析前のサンプルマトリックスによる平衡化があまり必要ないことが実証されました。
可能な限り、同位体標識した内部標準試料と、1/x 重み付けした線形回帰を用いて、化合物の水溶液の検量線を作成しました。キャリブレーションの結果を 表 2 にまとめています。溶媒標準試料からの内部標準面積比を使用して、血漿から抽出した化合物の濃度を逆算しました(表 3、図 3)。クエン酸の TargetLynx による定量の例を図 4 に示します。4 つの健常対照と乳がん陽性の抽出血漿サンプルのそれぞれからの化合物の重ね描きでは、保持時間のアライメントが良好な濃度範囲を示しています(図 5)。
本研究では、MaxPeak HPS テクノロジーを液体クロマトグラフィーおよび分析カラムに取り入れることで、ヒト血漿中の TCA 回路および関連する代謝物の分析が、優れた分析感度で達成できることを実証しています。ACQUITY PREMIER システムソリューションにより、分析種の金属との相互作用が軽減され、移動相への強酸やキレート添加剤の添加によるシステム全体の不動態化処理をしないでも、ピーク形状と分析感度が向上しました。ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用した、シンプルなミックスモード陰イオン交換セパレーションにより、迅速な分離が可能となり、適用しやすくなります。
720007107JA、2020 年 12 月