このアプリケーションノートでは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと Xevo TQ-S cronos を組み合わせた UPLC-MS/MS を使用して、加工食品中のアクリルアミドを定量するための高性能分析法を紹介します。キャリブレーション特性、直線性、感度はすべて、ポテトチップス中のアクリルアミドの低減対策のモニタリングと EU 基準レベルへの準拠の確認に適していることを示しています。
業界標準に適合するために QuEChERS と固相抽出(SPE)パススルーサンプル前処理を組み合わせた、加工食品中の汚染物質のルーチン分析のための信頼性の高い定量プロセス。拡張した分析にわたってオペレーターの操作を最小限に抑えつつ、複雑なマトリックスにおいて頑健な性能を示し、装置の稼働時間を最大化します。
Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計は、ACQUITY QDa 質量検出器で以前利用されていたサンプルコーンの設計要素を取り入れ、ルーチン定量分析用の信頼性の高いシステムとして開発されたものです。逆コーン設計の一環として、最も狭い部分はコーンの中心部であり、コーンの入口は比較的広くなっています(図 1)。この設計により、サンプルマトリックスと移動相のバッファー塩が凝集してオリフィスを詰まらせることがないため、コーンの洗浄間の装置の稼働時間が長くなり、食品マトリックスにおいて信頼性の高い感度が得られます。
逆コーン設計に加えて、確立されたテクノロジーも、Xevo TQ-S cronos の頑健な性能に貢献しています。例として以下が挙げられます。1)直交形状イオン源 - ユニークなデュアル直交形状イオン源の使用により、非イオン性物質(中性物質)を除去すると同時に、イオンをアナライザーに効率的に透過させます。2)StepWave イオンガイド - オフアクシスイオンガイドには、中性分子種とガスロードを除去するテクノロジーを採用しており、イオンビームは、並列の「オフアクシス」イオントンネルに能動的に抽出されます。これにより、透過性が向上し、アナライザーに焦点を合わせられることで、感度と頑健性の両方が向上します。3)コリジョンセルテクノロジー - T-Wave を使用することで、コリジョンセルでのイオンの滞留時間が短縮するとともに、イオンビームがさらに集束して性能が向上します。これにより、シグナル強度が低下することなく迅速な多成分 MRM データ取り込みが可能になると同時に、隣接する MRM チャンネル間のクロストークが最小限に抑えられます。コリジョンセルテクノロジーにより、高品質多成分 UPLC-MS/MS 定量分析に必要な高いデータ取り込み速度への完全な対応も保証されます。
以前に、Xevo TQ-S micro システムを用いたアクリルアミド測定のための定量分析法が報告されており1、ポテトチップス、パン、コーヒー、ベビーフードなどの幅広い加工食品に適用できることが示されています。アクリルアミドは、低分子量で水溶性の高い有機化合物で、通常は、特定の食品を 120 ℃ を超える温度で調理する場合、それに含まれる天然成分(アスパラギンと糖)から生成します。主に、穀物、ジャガイモ、コーヒー豆などの、原料にアクリルアミドの前駆体が含まれる炭水化物を多く含む焼いたまたは揚げた食品中に生成します。今回、Xevo TQ-S cronos が、改善したサンプルクリーンアップを含めることで、複雑な食品マトリックス中のアクリルアミドなど、課題となる分析種のルーチン定量測定において、残留物をモニターするラボで使用される一般的な条件下で動作する、信頼性の高いシステムであることを実証します。
粗く粉砕した乾燥加工済みポテトチップスのサンプルは、英国を拠点とするポテトチップスメーカーから提供されました。これは、以前に GC-MS を使用して特性解析したところ、アクリルアミドのレベルが EU のベンチマークレベル2(EU 規制 2017/2158)を下回ることがわかりました。
サンプル抽出に続いて、ウォーターズのアクリルアミド UHPLC 強化クリーンアップキット(製品番号:176004423)を使用してクリーンアップしました。
UPLC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
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カラム: |
ACQUITY UPLC HSS C18 SB、100 Å、1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186004119) |
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移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液(LC-MS グレード) |
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移動相 B: |
メタノール(LC-MS グレード) |
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流速: |
0.2 mL/分 |
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注入量: |
5 µL(ニードルオーバーフィル付きパーシャルループ) |
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カラム温度: |
30 ℃ |
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サンプル温度: |
10 ℃ |
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グラジエント: |
完全なグラジエント条件は、https://www.waters.com/ waters/form.htm?id=135008043 でご依頼いただければ入手可能 |
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MS 装置: |
Xevo TQ-S cronosタンデム四重極 |
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イオン化: |
ESI+ |
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取り込みモード: |
MRM |
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キャピラリー電圧: |
+0.5 kV |
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コーン電圧: |
20 V |
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脱溶媒温度: |
600 ℃ |
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脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
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イオン源温度: |
150 ℃ |
最高の選択性を示す MRM トランジションを使用しました。データは、MassLynx ソフトウェア v4.2 で取得し、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーで解析しました。最適なデュエルタイムが、オートデュエル機能を使用して自動的に設定されました。
以下のイオン源パラメーターは、測定の再現性が向上するように、Xevo TQ-S cronos でのメソッドのセットアップ段階で最適化しました。
逆コーン設計では、ESI プローブは、最大のシグナル強度を得るために、外側のコーンに近い位置(より広いコーン入口領域)において最適化されることがわかりました。最適なシグナル強度が得られる位置から離れるようにプローブ位置を調整すると、シグナル強度が低下することがわかりましたが、電荷競合効果が低下するため、S:N 比とリニアダイナミックレンジが全体的に改善しました。
測定の頑健性試験では、外側のコーンに影響するマトリックスロードの観点から最も困難な設定として、外側のコーン領域に最も近い ESI プローブ位置(5.4 mm)を選択しました。
頑健性試験を開始する前に、窒素コーンガス流量も評価しました。Xevo TQ-S cronos では、逆コーン設計と小さいガス制限オリフィスのため、サンプルコーンが大きい装置よりも低いコーンガス流量が推奨されます。外側のコーンによって内側のサンプリングコーンがシールドされ、マトリックスおよび/または移動相添加剤の蓄積が防止されることで、最適な性能と頑健性を維持しつつ、より低いコーンガス流量を使用できます。
最適なシグナル強度と再現性(%RSD)が得られる設定を決定するために、さまざまなコーンガス流量でアクリルアミドを含むポテトチップス抽出物を繰り返し注入しました(n = 6)。
測定の頑健性試験では、コーンへのマトリックスの蓄積の点で最も困難な設定として、コーンガス流量 0 L/時間を選択しました。
頑健性試験を開始する前に、アクリルアミドの濃度を決定するために乾燥ポテトチップスサンプルを上記の分析法条件を使用して特性解析し、マトリックス効果および潜在的な干渉を推定しました。図 2 に示すポテトチップス中のアクリルアミドの代表的な MRM クロマトグラムは、クリーンアップ手順後、定量的イオントランジションおよび定性的イオントランジションでマトリックス干渉がないことを示しています。
定量の目的で、ポテトチップスマトリックス中での LOD および LOQ についての EU 2017/2158 性能要件(15 µg/kg および 50 µg/kg)に相当する濃度を含む 2 ~ 500 ng/mL の濃度範囲で、アクリルアミド-d3 を含む溶媒の検量線を作成しました。図 3 に示すように、アクリルアミド-d3 を溶媒およびマトリックスにスパイクしたときのレスポンスの比較によってシグナル抑制を決定したところ、ポテトチップス抽出液では 40% 程度のシグナル抑制が観察されました。
以前に、450 µg/kg のアクリルアミドを含むことがわかっているポテトチップスの抽出物(サンプル 268)を繰り返し注入した後の Xevo TQ-S cronos の頑健性を調査しました。この試験の目的で使用したイオン源条件は、シグナル強度を改善し、繰り返し測定で得られた %RSD に寄与していることがわかりました。ESI プローブ位置決め実験の結果から、シグナル強度が最大になるように最適化した位置と関連してプローブをコーンから遠ざけると、S:N 比が向上することがわかります。コーンガス流量実験により、最大 50 L/時間の流量でシグナル強度が安定に維持され、コーン表面のマトリックス/溶媒汚染物質の蓄積が低減するという利点があることが明らかになりました。
抽出物を 4 本のバイアルに分注し、同じ移動相溶液および条件を維持して、ユーザーの操作なしで 500 回(5 µL)超注入するという系統的注入を行いました。この注入では、526 回の注入後に移動相のバッチがなくなるまで、合計ロード量が 1.5 mg を超える共溶出物のロードを 83.3 時間(3.4 日)連続して実行しました。分析種(アクリルアミド)の定量的トランジション(m/z 72 > 55)および内部標準(アクリルアミド-d3)(m/z 75 > 58)のピーク面積レスポンスをプロットしたところ、平均のレスポンスの 2 標準偏差の範囲内であることがわかりました。TrendPlot を使用して、アクリルアミドおよび d3 アナログの定量イオントランジションのピーク面積を示すコントロールチャートをプロットしたところ(図 4)、526 回の注入の過程にわたる全体的な %RSD は 2.2 以下でした。
このアプリケーションノートでは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと Xevo TQ-S cronos を組み合わせた UPLC-MS/MS を使用して、加工食品中のアクリルアミドを定量するための高性能分析法を紹介します。キャリブレーション特性、直線性、感度はすべて、ポテトチップス中のアクリルアミドの低減対策のモニタリングと EU 基準レベルへの準拠の確認に適していることを示しています。
頑健性試験は、高マトリックスロード条件を装置に課すために、最も極端なイオン源パラメーター*で行いました。頑健性試験の結果、Xevo TQ-S cronos は、ルーチン操作でも信頼性が高く、複雑な食品マトリックス中の難しい低分子の極性分析種でさえも、長期にわたる分析にオペレーターの操作を必要としないことが分かりました。この優れた性能には、逆コーン設計(内部コーンを汚染から防ぐ)、直交設計のイオン源、StepWave イオンガイド、T-Wave を使用するコリジョンセルなど、Xevo TQ-S cronos のテクノロジーの特徴が寄与しています。
*ルーチン操作では、S:N 比が向上し、コーンの外側表面でのマトリックスの蓄積が低減するように、イオン源パラメーター(ESI プローブ位置とコーンガス流量)を最適化することを推奨します。
720006701JA、2019 年 10 月