Alliance™ iS Bio HPLC システムを用いたバイオ医薬品の公定 SEC 分析法の最新化
要約
規制当局は分析法のライフサイクル管理により重点を置いているため、ルーチン分析用のシステムとカラムテクノロジーの進歩を組み込んだ分析法の最新化のプロセスは、規制対象の多くのラボが直面する課題となっています。規制対象のラボは多くの場合、数年前にバリデーションされた分析法に依存しています。頑健で効果的な分析法のままであっても、改善のチャンスを特定して評価し、より迅速で頑健、あるいは高感度のテクノロジーに置き換えられる可能性があります。これらの要求に対処するため、Waters™ はバイオ医薬品用の次世代 HPLC である Alliance iS Bio HPLC システムを導入しました。この次世代 HPLC は、バイオ医薬品アプリケーションの頑健な分析用に、バイオイナートな流路と MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用して設計されています。Alliance iS Bio HPLC システムは、日常の作業に用いる頑健で信頼できる主力装置として、従来の HPLC システムのアイデンティティーを維持しつつ、直感的なタッチスクリーンによるコントロール、分析前チェック、Empower™ クロマトグラフィーデータシステム(CDS)内のメソッド最新化ツールなど、いくつかの新しい重要な機能も加えて設計されており、一般的なミスを低減することができます。このアプリケーションノートでは、米国薬局方(USP)General Chapter <129> に記載されている公定 SEC 分析法の移行および最新化による、Alliance iS Bio HPLC システムの利点を評価します。この次世代バイオイナート HPLC システムの導入により、溶媒消費量を大幅に削減し、分析時間を短縮することができます。さらに、Alliance iS Bio HPLC システムは、従来の HPLC システムと比較して、サイズバリアント不純物に対する分離度と感度が向上しています。
アプリケーションのメリット
- 公定 SEC 分析法の最新化により、分析時間と移動相消費量が大幅に削減
- 生体適合性でバイオイナートな材質を採用した Alliance iS Bio HPLC システムは、SEC によるタンパク質分析で使用する高塩濃度の移動相に最適
はじめに
HPLC 分析では、日常の品質管理(QC)戦略の一環として、公定分析法が頻繁に使用されます。しかし、このような分析法は、粒子径の大きいカラムやシステム拡散の大きいシステムが標準であった時代に確立されており、分離能と効率の点でますます時代遅れと見られるようになっています。このことは多くの USP General Chapter に関連しており、結果として、「クロマトグラフィー」というタイトルの USP General Chapter <621> が更新されるに至りました。この更新は、欧州薬局方および日本薬局方との調和を図ったもので、USP モノグラフの流速、カラムサイズ、粒子径の変更を許容しています1。 QC 科学者は、これらの許容される変更を活用することで、調整済みの分析法を再バリデーションする必要なく、最新の HPLC テクノロジーを利用して分析法の性能を高めることができます。
このことと並行して、Alliance iS Bio HPLC システム(図 1)は、バイオ医薬品アプリケーション用に設計された次世代 HPLC プラットホームと言えます。Alliance iS Bio HPLC システムは、生体適合性とバイオイナート性の両方を備えており、バイオ医薬品業界の QC 環境向けに特別に設計されたものです。この装置は、チタン、PEEK、MP35N®、および高塩濃度や酸性の移動相にさらされても腐食されにくいその他の非鉄材料を含む生体適合性材料で構築されています。また、この設計には、サンプル流路内に MaxPeak HPS テクノロジーが取り入れられており、金属表面への分析種の非特異的吸着が解消されています。これらの設計要素を組み合わせることにより、バイオ医薬品のルーチンワークフローにおける金属に吸着しやすい分析種の分析での予測不可能性が排除され、総合的なソリューションが実現します。
この試験の目的は、Alliance iS Bio HPLC システムを使用してサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析法を移行および最新化するメリットを評価することです。USP General Chapter <129> は、公定分析法として選ばれたものであり、モノクローナル抗体(mAb)分析用のさまざまな標準化された分析手順が含まれています。この章では、粒子径 5 ミクロンのカラムで、30 分間のアイソクラティックメソッドを使用した SEC 分析が指定されています2。 Alliance iS Bio HPLC システムの利点を評価するために、公定分析法を、何も変更することなく移行し、従来の HPLC システムと比較しました。この公定分析法は、USP General Chapter <621> に記載されているガイダンスに従って、最新のカラムハードウェアの寸法に合うようにスケーリングおよび変更されています。次に、比較分析を行って、従来のシステムと比較した場合の性能とスループットの向上を評価しました。
実験方法
塩化カリウム(CAS 7447-40-7)は Sigma Aldrich から購入しました。一塩基性リン酸カリウム(CAS 7778-77-0)は Acros Organics から購入しました。二塩基性リン酸カリウム(CAS 7758-11-4)は J. T. Baker から購入しました。モノクローナル IgG システム適合性標準試料および USP mAb レファレンス標準試料は USP から購入しました。USP mAb はすべて 200 µL の移動相に再溶解し、濃度 10 mg/mL で注入しました。
公定メソッド条件
LC システム: |
従来の HPLC システム |
検出: |
λ = 280 nm |
カラム: |
BioSuite™ Diol(OH)カラム、250 Å、5 μm、7.8 mm × 300 mm(製品番号:186002165) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
20 µL |
流速: |
0.50 mL/分 |
移動相: |
水 1 L あたり、二塩基性リン酸カリウム 10.5 g、一塩基性リン酸カリウム 19.1 g、塩化カリウム 18.6 g(0.20 M リン酸カリウムおよび 0.25 M 塩化カリウム)(pH 6.2) |
実行時間: |
30 分、アイソクラティック |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3、FR4 |
最新化した分析法 #1
LC システム: |
Alliance iS Bio HPLC システム |
検出: |
TUV、λ = 280 nm |
カラム: |
XBridge™ Premier Protein SEC カラム、250 Å、2.5 µm、7.8 × 150 mm(製品番号:186009961) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.00 mL/分 |
移動相: |
水 1 L あたり、二塩基性リン酸カリウム 10.5 g、一塩基性リン酸カリウム 19.1 g、塩化カリウム 18.6 g(0.20 M リン酸カリウムおよび 0.25 M 塩化カリウム)(pH 6.2) |
実行時間: |
7.5 分、アイソクラティック |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3.8.0 |
最新化した分析法 #2
LC システム: |
Alliance iS Bio HPLC システム |
検出: |
TUV、λ = 280 nm |
カラム: |
XBridge Premier Protein SEC カラム、250 Å、2.5 µm、4.6 × 150 mm +eConnect(製品番号:186009959RF) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
3.5 µL |
流速: |
0.35 mL/分 |
移動相: |
水 1 L あたり、二塩基性リン酸カリウム 10.5 g、一塩基性リン酸カリウム 19.1 g、塩化カリウム 18.6 g(0.20 M リン酸カリウムおよび 0.25 M 塩化カリウム)(pH 6.2) |
実行時間: |
7.5 分、アイソクラティック |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3.8.0 |
結果および考察
メソッドの移行
QC 環境では、異なるシステムにわたってバリデーション済み分析法の一貫した結果を維持することが優先事項です。このようなラボでは、分析法がシームレスに移行され、新しいテクノロジープラットホームで同等性が実証されることが期待されます。最も簡単な装置の移行では、すべての分析法パラメーターを新しいプラットホームに移し、従来のシステムと比較して装置の性能を評価します。ウォーターズは、分析法移行プロセスを合理化するために、Empower アプリメニューからアクセスできる Intelligent Method Translator App(iMTA)を開発しました。図 2 に示すように、iMTA はさまざまなシステムからのメソッドを変換して、ポンプ、サンプルマネージャー、カラムコンパートメント、検出器の主要なパラメーターを Alliance iS Bio HPLC システム装置メソッドに自動的に変換することができます。古いメソッドパラメーターを新しいシステムにコピーするという手間のかかるプロセスが数クリックに簡素化され、ユーザーによる転記ミスのリスクがなくなりました。
メソッドの移行における Alliance iS Bio HPLC システムの機能を評価するため、USP General Chapter <129> に概説されている SEC 公定分析法を選択しました。これは、システム間で比較できるシステム適合性基準がリストされているためです。ベンチマークとして、メソッドを従来の HPLC システムで L59、5 µm、7.8 mm × 300 mm カラムを使用して実行し、iMTA アプリを使用して Alliance iS Bio HPLC システムに移行しました。図 3 に両方のシステムで得られたクロマトグラムおよび公定分析法のシステム適合性基準を示します。この表形式のデータによれば、いずれのシステムもシステム適合性基準に合格しており、クロマトグラフィープロファイルがシステム間で一貫しています。移行の直接のメリットの 1 つとして、Alliance iS Bio HPLC システムで見られるモノマーと不純物の間の分離の向上が挙げられます。SEC ベースの分析法ではシステム拡散が低いという最新の LC のメリットが浮き彫りになっています。この分離の向上は、低分子種(LMWS)で最も顕著であり、バープロットからわかるように、不純物をより正確に定量することができます。これらの結果により、Alliance iS Bio HPLC システムでは、さらなる分析法の最適化を必要とせずに、公定 SEC 分析法を実行して、同等の結果が得られることが実証されました。
Alliance iS Bio HPLC システムが従来の HPLC システムと異なる特徴的な機能として、規制対象のラボにおけるリスクを低減するように設計された一連のミス低減ツールが挙げられます。これらのツールの内で最も重要なものは、タッチスクリーンコントロールキオスクで設定できる分析前チェックです。図 4 にキオスクのインターフェースのスクリーンショットを示していますが、ユーザーは、データ取り込みが始まる前に、確認用にカスタマイズ可能な項目を選択することができます。これらのチェックには、カラムが装置メソッドにマッチしていることの確認、移動相の溶媒レベルと使用期限の評価、サンプルセット内のすべてのバイアルがオートサンプラー中に存在することの確認などが含まれます。設定可能な分析前チェックのいずれかが失敗した場合、システムは取り込みを一時停止し、送液を停止するため、消耗品のコストが削減されます。これらの分析前チェックにより、Alliance iS Bio HPLC システムでは、分析法を変更することなく、規格外結果や分析のやり直しにつながる一般的な人的ミスを低減することで、従来のシステムと比較して生産性を向上させることができます。
分析法の最新化
分析法のライフサイクル管理に加えられる規制機関からの圧力により、分析法の最新化は、多くの QC ラボが直面するもう 1 つの課題となっています。同様に、USP もそのアプリケーションノートで、USP <621> ガイダンスに準拠した分析法の最新化を認めています3。 次世代 HPLC システムとしての Alliance iS Bio HPLC システムは、スループットと効率を高めるために、最新のカラムハードウェアの寸法に適合するように設計されています。分析法を最新化するには、複数のパラメーターをスケーリングして、システムおよびカラムの型式の間で分離を維持する必要があります。許容される変更は USP General Chapter <621> に記載されていますが、カラム間でメソッドパラメーターを効率的にスケーリングするために、Waters カラムカリキュレーターを使用しました。USP General Chapter <129> の公定分析法を最新化するため、元の分析法と同じ分離能、または長さと粒子径の比が維持された 2 種類の最新の SEC カラムを選択しました。図 5 では、変更を加えたメソッドパラメーターを強調表示しています。これは、両方の最新化済みの分析法用に、Waters カラムカリキュレーターを使用してスケーリングしたものです。
最新のカラムはいずれも XBridge Premier Protein SEC カラムで、粒子径と長さは同じですが、内径(ID)は 7.8 mm および 4.6 mm と異なっていました。これらのカラムは依然として L59 に分類されますが、MaxPeak HPS を、ポリエチレンオキシドポリマーを組み込んだ BEH™ 粒子表面(BEH-PEO)と組み合わせることにより、SEC に新たなレベルの不活性が付与されます4。Alliance iS Bio HPLC システムを使用してスケーリングした両方の分析法を試験し、その結果を公定分析法条件下で従来の HPLC システムで生成されたデータと比較しました。2 種類の USP mAb レファレンス標準試料を 3 種類の分析法を使用して分析し、その結果を図 6 および 7 に示します。各カラム型式には固有の利点があり、特定のユーザーのニーズに基づいて選択することができます。
図 6 で、内径 7.8 mm の XBridge Premier Protein SEC カラム(青線)に焦点を当てると、このカラムでは、カラムの粒子径と長さの減少により、公定分析法の実行時間を 30 分から 7.5 分に 4 倍短縮することができました。内径 7.8 mm のカラムでは、3 種類の分析法のうちで最高の分離が得られ、従来の HPLC システムでは検出されなかった LMWS のピークを分離することができました。これらの結果から、内径 7.8 mm のカラムは、サイズバリアントの正確な定量のために、不純物の分離を向上させることを第一の目的とするユーザーに最適であることが示されました。図 7 では、異なる USP レファレンス mAb 標準試料を使用しており、公定分析法を用いてスケーリングした 2 種類の分析法の選択性がここでも維持されていることがわかります。内径 4.6 mm の XBridge Premier Protein SEC カラム(赤線)に注目すると、公定分析法と比較して、移動相とサンプルの消費量が 6 分の 1 に減少しています。このカラムは、サンプルおよび移動相のコストが気になるユーザーに最適であり、HPLC 分析の運用コストを最も低く抑えることができます。
結論
規制当局は、古くなった分析装置を最新のテクノロジーに置き換えることで分析ワークフローを最新化するチャンスを検討することをラボに推奨しています。実験結果により、Alliance iS Bio HPLC システムでは、公定 SEC 分析法を移行および最新化して、QC 環境における現在および将来のバイオ医薬品のワークフローの両方に対応することができることが実証されました。Alliance iS Bio HPLC システムを XBridge Premier Protein SEC カラムと組み合わせた場合、分離能を向上できると同時に、分析時間を 75% 短縮し、移動相の消費量を 82.5% 削減することができます。また、Alliance iS Bio HPLC システムでは、多くの新しいソフトウェア機能が開発されており、ワークフローの操作が簡単になるとともに、データ取り込み開始前にユーザーにエラー通知が送られます。全体として、このシステムにより、科学者はバイオ医薬品の進歩のペースに合わせることが可能になります。同様に高度な HPLC 装置を利用して、正確で一貫した結果を取得できるようになります。
参考文献
- USP.Chromatography <621>.In: USP-NF.Rockville, MD: USP; Dec 1, 2022.
- Analytical Procedures for Recombinant Therapeutic Monoclonal Antibodies.USP General Chapter <129>.2022.
- Aggregation Analysis Using SE-HPLC and SE-UHPLC Methods in USP Chapter <129>.USP Application Note.2023.
- Kizekai L, Shiner SJ, Lauber MA.Waters ACQUITY and XBridge Premier Protein SEC 250 Å Columns: A New Benchmark in Inert SEC Column Design.Waters Application Note.2022. 720007493.
720008290JA、2024 年 4 月