• アプリケーションノート

EPA 1633 に準拠したパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の分析、パート 3:土壌および組織の分析

EPA 1633 に準拠したパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の分析、パート 3:土壌および組織の分析

  • Kari L. Organtini
  • Kenneth J. Rosnack
  • Chelsea Plummer
  • Peter Hancock
  • Oliver Burt
  • Waters Corporation

要約

US EPA メソッド 1633 は、米国における非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の分析の基本的な分析法になっています。この分析法は、弱陰イオン交換(WAX)固相抽出(SPE)を使用するサンプル前処理とグラファイトカーボンブラック(GCB)クリーンアップを使用したサンプル前処理で構成されています。このアプリケーションノートは、EPA メソッド 1633 を実行するための包括的なソリューションを実証するアプリケーションノートシリーズの第 3 弾です。このノートでは、Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極質量分析計と結合した ACQUITY™ Premier BSM FTN LC システムで、2 層構造の 2 相 SPE カートリッジおよび LC-MS/MS 分析法を利用した土壌および魚の組織サンプルの前処理および分析に焦点を当てています。

アプリケーションのメリット

  • EPA メソッド 1633 に従った土壌サンプルおよび魚の組織サンプル中の PFAS 分析用のエンドツーエンドのワークフローの紹介
  • WAX および GCB を含む 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを活用することにより、分散型 GCB での作業に伴う残渣や危険性が低減するだけでなく、サンプル前処理にかかる時間をさらに短縮可能に
  • 固体および組織について EPA 1633 の性能基準が満たされており、使用したワークフローの同等性を実証
  • ワークフローの性能は、Waters™ ERA 認定レファレンス物質の適格性評価に容易に合格したことによって実証されている

はじめに

US EPA メソッド 1633 は、2021 年 8 月に初めて導入されて以来、非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の基本的な分析法となっています1。 EPA 1633 の最終バージョンは 2024 年 1 月にリリースされ、分析法に含まれるサンプルマトリックスの種類ごとに、複数のラボでバリデーションされています2。 この分析法では、同位体希釈キャリブレーションおよび定量を利用して 40 種類の PFAS をカバーします。必要なサンプル前処理はサンプルの種類によって多少異なりますが、すべての種類のサンプルで、弱陰イオン交換(WAX)カートリッジでの固相抽出(SPE)をグラファイトカーボンブラック(GCB)クリーンアップと組み合わせて使用します。EPA 1633 は、水質浄化法(CWA)および国防総省(DoD)が行うモニタリングおよび修復のためのサンプル分析をサポートするために作成されたものですが、非常に幅広いマトリックスおよび化合物をカバーしているため、その適用範囲が拡張すると期待されます。

このアプリケーションノートは、ウォーターズのテクノロジーの包括的なワークフローを使用した EPA 1633 のサンプル前処理、分析、分析法性能に対処するアプリケーションノートシリーズの第 3 弾です。このアプリケーションノートでは、Part 1 で確立した LC-MS/MS 分析法を利用した真正の土壌および組織サンプルの前処理および分析に焦点を当てます。分析は、Xevo TQ Absolute 質量分析計に結合した ACQUITY Premier BSM FTN UPLC システムで実行されます3。 WAX および GCB を組み合わせたサンプル抽出およびクリーンアップワークフローの使用が、土壌と魚の組織で実証されています。

実験方法

サンプル前処理

このアプリケーションノートで説明するサンプルには、土壌と魚の組織が含まれます。地元の市場で調達した鮭を、魚の組織マトリックスとして使用しました。魚の組織は、サブサンプリングする前に、ブレンダーを使用して均質化しました。土壌は、ERA が作成したカスタム土壌レファレンス物質で、現在提供されている PFAS 含有土壌 CRM と同様のものでした(項目番号 603)。濃度既知の 40 種の EPA 1633 の PFAS が含まれています。サンプルは、EPA 1633 ガイドラインおよびホールド時間に従って、分析するまで冷凍しました。

分散型 GCB を使用する代わりに、サンプルクリーンアップに必要な WAX 吸着剤と GCB 吸着剤の両方を含む、PFAS 分析用 Oasis GCB/WAX 2 相 SPE カートリッジ(製品番号:186011112)を使用しました。土壌および組織の分析では、WAX 吸着剤の上に GCB を充塡することにより、WAX SPE の前にサンプルを GCB でクリーニングする EPA 1633 の手順が再現されます。

完全なサンプル前処理の詳細を図 1 および 図 2 に記載しています。これらは EPA メソッド 1633 から直接引用したものです。図 1 では、土壌/固体および組織に使用する 2 種類の抽出手順の詳細を説明しています。図 2 では、すべての種類のサンプルに使用できる SPE 手順の詳細を説明しています。前述したように、分散型 GCB ステップを SPE カートリッジに組み込むことで、粉末状 GCB 物質の使用に伴う複雑さが最小限に抑えられ、分析法性能を損なうことなくサンプル前処理のステップ数を減らすことができます。

土壌サンプルには、抽出前に 0.25 ~ 2 ng/L(サンプル濃度と同等)の抽出内部標準(EIS)をスパイクし、抽出後に必須の非抽出内部標準(NIS)0.25 ~ 1.0 ng/L(サンプル濃度と同等)をスパイクしました。組織サンプルには、抽出前に 0.625 ~ 5 ng/L(サンプル濃度と同等)の抽出内部標準(EIS)をスパイクし、抽出後に必須の非抽出内部標準(NIS)0.625 ~ 2.5 ng/L(サンプル濃度と同等)をスパイクしました。個々の濃度は、Wellington 標準試料混合物の各成分の濃度によって異なります。各分析種の検量線範囲(バイアル内等価濃度)は付録の表 2 に記載されています。これは、本アプリケーションノートシリーズのパート 1 で紹介したように、取り込まれたデータにより決定された範囲です3。すべての標準試料は、Wellington Laboratories 社から混合物として入手しました。

図 1.  土壌および組織に使用した抽出手順の完全なメソッドの詳細。EPA メソッド 1633 から引用しました。
図 2.  土壌および組織に使用した SPE 手順の完全なメソッドの詳細。EPA メソッド 1633 から引用しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier BSM(FTN を搭載)

バイアル:

700 µL ポリプロピレン製ねじ蓋バイアル(製品番号:186005219)

分析カラム:

ACQUITY Premier BEH™ C18、2.1 × 50 mm、1.7 µm(製品番号:186009452)

アイソレーターカラム:

Atlantis Premier BEH C18 AX 2.1 × 50 mm、5.0 µm(製品番号:186009407)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

10 ℃

PFAS キット:

OASIS™ WAX 150 mg を含む PFAS インストールキット(製品番号:176004548)

注入量:

2 µL

流速:

0.3 mL/分

移動相 A:

2 mM 酢酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

2 mM 酢酸アンモニウムアセトニトリル溶液

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ Absolute 質量分析計

イオン化モード:

ESI-

キャピラリー電圧:

0.5 kV

イオン源温度:

100 ℃

脱溶媒温度:

350 ℃

脱溶媒流量:

900 L/時間

コーンガス流量:

150 L/時間

MRM メソッド:

MRM メソッドの詳細については、付録を参照してください

データ管理

ソフトウェア:

定量のための waters_connect™

結果および考察

土壌サンプルおよび組織サンプルにおける回収率

EPA 1633 は性能に基づいた分析法であり、分析法に示されている性能基準がすべて満たされているかぎり、変更が可能です。この論文で示した唯一の変更点は、分散型 GCB クリーンアップステップを WAX SPE カートリッジに組み込んだ 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを使用したことでした。GCB は、作業が難しく、正確な測定も困難ですが、2 層カートリッジを使用することで、厄介な分散型 GCB ステップが不要になります。さらに重要な点として、GCB クリーンアップステップを SPE 抽出に組み入れることで、サンプル前処理プロセスにかかるラボでの貴重な時間を節約できます。さらに、前処理ステップが少ないため、意図しない PFAS サンプル汚染が導入される可能性が低くなります。この研究では、WAX の上に GCB を積み重ねたカートリッジを使用することで、WAX カートリッジにサンプルがロードされる前に GCB クリーンアップが行われる EPA 1633 のワークフローを再現しました。

このアプローチの同等性を証明するために確立する必要がある重要な性能基準の 1 つは、ターゲット分子種(ネイティブ)および抽出内部標準(EIS)の回収率の許容範囲です(同ドキュメント内の表 7 を参照)1。 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジの土壌および魚の組織における個別の回収率を、各 EIS について表 1 に記載しています。表 1 で報告しているデータは、各種類のマトリックスの 3 回繰り返し抽出から得れた平均回収率と %RSD です。土壌サンプルおよび組織サンプルから抽出したすべての EIS の平均回収率はそれぞれ 81% および 85% で、土壌および組織の平均 RSD はそれぞれ 2.8% および 9.2% でした。

図 3 に、各種類のサンプル中の EIS の平均回収率を、EPA 1633 の表 7 の許容回収率と直接比較しています。この試験で分析した土壌および魚の組織中の PFAS はすべて、各化合物の回収率の許容範囲内に十分収まっており、いずれのケースも最小回収率のレベルを大幅に上回っていました。このことは、2 層構造の GCB/WAX SPE カートリッジが、分散型 GCB を使用する場合と同等の性能を発揮し、目的に適合していることを示しています。

表 1.  土壌および魚の組織に 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを使用した場合の抽出内部標準(EIS)の平均回収率(n = 3)
図 3.  土壌(上)および魚の組織(下)からの抽出内部標準(EIS)の平均回収率。実験値(青色)を、EPA メソッド 1633 で許容されている最小回収率(オレンジ色)および最大回収率(灰色)と比較しています。各サンプルマトリックスについての繰り返し数 n = 3。グラフのスケールから外れているバーにラベル付けしています。
図 4.  土壌(上)および魚の組織(下)中のターゲット PFAS 分析種の平均回収率。実験値(青色)を、EPA メソッド 1633 で許容されている最小回収率(オレンジ色)および最大回収率(灰色)と比較しています。各サンプルマトリックスについての繰り返し数 n = 3。グラフのスケールから外れているバーにラベル付けしています。

土壌の認定レファレンス物質の分析

顧客サンプル中の PFAS の定量には分析の正確性が重要になります。ワークフローの正確性を実証するために、Waters ERA のカスタム認証レファレンス物質(CRM)を解析しました。PFAS を含まない既知のサンプルで分析法の性能を評価するために、分析したレファレンス物質には、代表的な土壌マトリックス中に 40 種の EPA 1633 PFAS 化合物すべてを含めました。図 5 に、土壌 CRM の 3 回繰り返し抽出および分析の平均の定量結果を示します。赤色の点線および破線は、CRM の指定濃度(青色の実線)の ±20% を示し、灰色の実線は、サンプル分析中に測定された平均の実験定量値を表しています。EPA 1633 の 40 種のターゲット PFAS はすべて、濃度範囲の±20% 以内に収まっており、平均真度 97% で真度範囲 85 ~ 120% という定量結果になりました。これにより、ウォーターズのソリューションを使用したサンプル前処理、分析、データ解析ワークフローの正確性について、高い信頼性が実証されます。

図 5.  カスタム Waters ERA PFAS 含有土壌 CRM 中の 40 種の EPA 1633 ターゲット分析種すべての定量値。赤色の線は CRM の認証値範囲の ±20% を表しています。青色の線は認証値を表しています。灰色の実線は、平均の実験定量値(n = 3)を表しています。

結論

土壌サンプルおよび魚の組織サンプルについて、EPA 1633 手順を使用して、サンプル前処理および分析を行いました。分散型 GCB を使用して 2 つの別々のステップで抽出とクリーンアップを行う代わりに、WAX と GCB の両方を含む Oasis GCB/WAX 2 層 SPE カートリッジを使用してサンプルの抽出とクリーンアップを行いました。このカートリッジにより、ユーザーエクスペリエンスが向上し、サンプル前処理にかかる時間が短縮しました。回収率はすべて許容基準の範囲内であり、土壌および魚の組織の平均の EIS 回収率はそれぞれ 81% および 85% でした。土壌と組織の平均 RSD はそれぞれ 2.8% と 9.2% でした。これにより、EPA 1633 に記載されているマルチステップ抽出およびクリーンアップの適切なシングルステップの代替法として、2 層構造の 2 相 SPE カートリッジの同等性が実証されました。さらに、同じメソッドを使用して処理および分析した Waters ERA 土壌レファレンス物質は、十分に認定レファレンス値の範囲内に収まっていたことから、メソッドの正確性について、高い信頼性が得られました。示したデータから、PFAS 用 Oasis GCB/WAX SPE カートリッジを LC-MS/MS システムと組み合わせることにより、EPA 1633 の固体および組織の分析に関するすべての要件を容易に満たせることが実証されました。

参考文献

  1. US Environmental Protection Agency.Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Aqueous, Solid, Biosolids, and Tissue Samples by LC-MS/MS. January 2024.
  2. US Environmental Protection Agency.Clean Water Act Analytical Methods: CWA Analytical Methods for Per- and Polyfluorinated Alkyl Substances (PFAS).https://www.epa.gov/cwa-methods/cwa-analytical-methods-and-polyfluorinated-alkyl-substances-pfas#documents Accessed 31 Jan, 2024.
  3. K Organtini, K Rosnack, P Hancock.Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Accordance with EPA 1633 Part 1: Establishing and Assessing the Method.Waters Application Note 720008117.2023

付録

付録表 1.  Xevo TQ Absolute MS での水サンプル中の EPA 1633 化合物の PFAS 分析に使用した MS 分析法条件
付録表 2.  Xevo TQ Absolute MS での水サンプル中の EPA 1633 化合物の PFAS 分析に使用した検量線の範囲

720008230JA、2024 年 2 月

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