DMF を DMSO に置き換えた、GlycoWorks™ RapiFluor-MS™ エコ標識 N 型糖鎖サンプルの前処理
要約
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)は、欧州連合の欧州化学機関による 2023 年の DMF の使用に関する制限事項で強調されているように、ジメチルスルホキシド(DMSO)と比較して使用者および環境に対して大幅に高いリスクがあります。したがって本研究では、GlycoWorks N 型糖鎖迅速糖鎖分析手順の RapiFluor-MS 標識反応ステップおよび最終的なサンプル希釈ステップの両方で、共溶媒としての DMF の DMSO への効果的な置き換えについてご紹介します。低レベルでシアル化されたモノクローナル抗体の N 型糖鎖プロファイル、および高度に分岐し、複数のシアル化を受けている N 結合型オリゴ糖を含む広範なウシフェチュインについて、結果が示されています。さらに、GlycoWorks 手順で DMSO を使用する際の注意事項の一部が紹介されています。
アプリケーションのメリット
はじめに
Waters™ GlycoWorks RapiFluor-MS N 型糖鎖標識キット(例:ユーザーガイド 715004903EN)では、高感度な蛍光検出および MS 検出のために遊離 N 型糖鎖を標識できる迅速で簡便なメソッドを提供しています(図 1)。この手順は、N 型糖鎖の PNGase F による迅速な遊離と、それに続いて得られたグリコシルアミンの RapiFluor-MS(RFMS)による標識で構成されています。次に、反応の副生成物の大部分を、定量的 HILIC-SPE クリーンアップ手順を使用して、RFMS 標識 N 型糖鎖から除去します。この手順は、手動または自動の手順を使用して、サンプルの数に応じて全部で 1 ~ 2 時間かかりますが、幅広いサンプルに適用できます1-3。
2015 年にリリースされた手順の初期バージョンにおいて、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)は、アセトニトリル:水混合液中の RFMS 標識 N 型糖鎖のサンプル共溶媒として有用でした。その結果、DMF が最終サンプルの共溶媒として使用され、無水 DMF が RFMS 標識の可溶化に使用されました。水は RFMS と反応する可能性があるため、無水溶媒による RFMS の可溶化は重要です。
一方、2023 年 12 月の欧州連合の欧州化学機関(echa.europa.eu)による DMF の使用規制の例のように、DMF が分析者と環境の両方に対して有害な影響を及ぼす可能性があることについての理解が進んだことから、DMSO を使用するバージョンの GlycoWorks 手順が DMF に 1 対 1 の代替法として評価されました。このサマリーでは、GlycoWorks 手順において、RFMS 標識ステップで無水 DMF または DMSO を使用し、RFMS 標識して HILIC SPE 精製した N 型糖鎖の共溶媒として試薬グレードの DMF または DMSO を使用する場合の適正な比較に焦点を当てます。
実験方法
GlycoWorks サンプルの前処理および分析は、ユーザーガイド(720005470EN および 715004903EN)に記載されている手順に基づいています。関連する追加の詳細は示したデータとともに記載しています。
結果および考察
RFMS 標識および標識 N 型糖鎖のサンプル希釈
RFMS 標識ステップにおいては、3 つの注意事項があります。まず、標識手順の生成量を最大化し、異なるグリコフォーム間で区別しないことが必要です。また、過剰標識(つまり複数の標識を持つ N 型糖鎖の生成)を、最小限に抑える必要があります。以前の研究により、無水 DMF を使用して RFMS を可溶化する GlycoWorks RFMS 手順で得られた N 型糖鎖プロファイルは正確であり1、DMF の代わりに無水 DMSO を使用しても同等の標識結果が得られることが実証されています(図 2)1。この試験では、モノクローナル抗体(NISTmab™)とウシフェチュインの混合物の分析において、RFMS 試薬を可溶化するのに無水 DMSO または DMF を使用しています。この糖タンパク質混合物を使用して、mAb 中の存在量が多い低分岐の中性型から、フェチュインに存在する高分岐の高シアル化型まで、広範な N 糖鎖をカバーしました。特に、図 2 で比較しているサンプルは、標識ステップの違いをより明確に確認するために、HILIC 分析の前に HILIC-SPE によるクリーンアップを行っていません。
標識手順に DMSO を使用しても、過剰標識された N 型糖鎖の生成は比較的低レベルでした(図 3)。このことは、インタクト mAb 標準試料(製品番号:186006552-1)から生成した一重標識および二重標識の主な FA2 グリコフォームの LC-MS 分析によって実証されました。これらのサンプルは、HILIC-SPE によってクリーンアップし、得られた水系サンプルを、HILIC 分析を行う前に対応する共溶媒を含む溶液で希釈して(ユーザーガイド 715004903EN 参照)、微量レベルの二重標識 FA2 糖鎖の LCMS 検出を最大化しました。
RFMS 標識 N 型糖鎖のサンプルの安定性およびロード
HILIC SPE クリーンアップステップ(ユーザーガイド 720005470EN および 715004903EN 参照)に従って、水系バッファー中に 90 µL のサンプルを作製します。アミド HILIC 分析カラムへのこのサンプルのロード量を最大にするために、サンプルを 310 µL の DMF:ACN 32:68(v:v)混合液で希釈します。ここで、DMF はサンプルの安定性を高めるための共溶媒として使用しています。ただし、24 時間後の分析の前にサンプルを再度混合することを推奨します(ユーザーガイド 715004903EN)。
DMSO は、サンプル希釈ステップにおいて、効果的に DMF を代替できることがわかりましたが、DMSO:ACN 混合液で希釈したサンプルは、アミド HILIC 分析カラムにロードすると、わずかに強溶媒効果を受けやすい傾向が見られました。この試験では、前述の標識試験で使用した NISTmAb とウシフェチュインの混合液から得られた RapiFluor-MS 標識 N 型糖鎖を HILIC SPE で精製し、対応する共溶媒を含む溶液で希釈してから HILIC 分析を行いました。図 4 に示すように、広範な N 型糖鎖の標識手順とサンプル希釈手順の両方で DMF または DMSO のいずれを使用しても、同等の HILIC プロファイルが得られました。さらに、中性(FA2)N 型糖鎖、トリシアル化(A3G3S3)N 型糖鎖、テトラシアル化(A3S1G3S3)N 型糖鎖をカバーする 3 種類の選択したグリコフォームの相対存在量は、定量的に一貫していました。
DMF および DMSO で希釈したサンプルは、6 ℃ で 24 時間にわたり、同等の安定性を示すこともわかりました(図 5)。ただし、定量に大きく影響することはありませんが、希釈溶媒中にいずれかの共溶媒を使用した中性の N 型糖鎖では、24 時間後に HILIC 分析カラムで強溶媒効果を示すことがわかりました。弱く保持された分析種のバンド拡散をもたらす HILIC 分離における強溶媒効果は、充塡された粒子表面の水層の破壊によるもので、注入量を多くしたりサンプルマトリックスの極性が高くなることにより、さらに悪化します。この特異な結果は、低ベッドボリューム(2.1 × 50 mm)のアミド HILIC カラムに対して注入量 4 µL を使用したこと、およびサンプルからの非極性の ACN 成分の、選択的蒸発による喪失の結果である可能性があります。
希釈溶媒に DMSO を含むサンプルの方が、DMF と比較して、強溶媒効果がわずかに大きいこともわかりました(図 5)。これは、DMSO の方がわずかに極性が強く(DMF の誘電率が 38.3 であるのに対して DMSO の誘電率は 47.2)、サンプル中の共溶媒のレベルが高い(25% v/v)ことによる可能性があります。この差の影響は図 6 に明確に見られ、注入量が 5 µL を超えると、DMSO で希釈した中性グリコフォームのピークのショルダーがより顕著になっています。強溶媒効果は、注入量を多くする、またはカラム容量を減らすと発生し始めます。ほとんどの場合、サンプル希釈溶媒中の DMSO の使用は問題ありませんが、HILIC 分析法の注入量を適宜減らすことが必要になることがあります。
結論
DMSO は、Rapifluor-MS 標識 N 型糖鎖 GlycoWorks 手順における溶媒および共溶媒として、DMF に対して「1 対 1」で効果的な代替法となることがわかりました。この試験は、DMF の使用規制が強化されていることからわかるように、DMF がラボの安全性および環境に対して及ぼす有害な影響に関する理解が進んだことに触発されて行ったものです。
無水 DMSO によって、RapiFluor-MS の可溶化およびその後の RFMS 標識が同等に行えることが実証されました。DMSO は、RFMS 標識および HILIC SPE 精製 N 型糖鎖に使用するサンプル希釈溶媒の成分としても有効であることがわかりました。ただし、DMSO で希釈したサンプルは、DMF で希釈したサンプルと比較して、アミド HILIC 分析における最大注入量がわずかに減少します。結果として、DMSO を希釈溶媒の成分として使用する場合は、注入量を適宜減らす必要がある場合があります。
DMF の代わりに DMSO を使用する場合の RFMS GlycoWorks メソッドの信頼性をさらに実証するため、RFMS の可溶化、および HILIC サンプル希釈溶媒の成分として、DMSO を使用する自動化した手順を開発することができました4。この手順には、RapiFluor-MS GlycoWorks 手順を実行する前に、不適合のマトリックス中のサンプルをバッファー交換してサンプルを濃縮する、透析ろ過のステップが取り入れられています。
参考文献
- Lauber, M. A.; Yu, Y.-Q.; Brousmiche, D. W.; Hua, Z.; Koza, S. M.; Magnelli, P.; Guthrie, E.; Taron, C. H.; Fountain, K. J. Rapid Preparation of Released N-Glycans for HILIC Analysis Using a Labeling Reagent That Facilitates Sensitive Fluorescence and ESI-MS Detection.Anal Chem.2015, 87 (10), 5401–5409.
- Koza, S. M.; McCall, S. A.; Lauber, M. A.; Chambers, E. E. Quality Control and Automation Friendly GlycoWorks RapiFluor-MS N-Glycan Sample Preparation.Waters Application Note 720005506, May 2016.
- Zhang, X.; Reed, C. E.; Birdsall, R. E.; Yu, Y. Q.; Chen, W. High-Throughput Analysis of Fluorescently Labeled N-Glycans Derived from Biotherapeutics Using an Automated LC-MS-Based Solution.SLAS Technology.2020, 24 (4), 380–387.
- Hanna, C.M.; Koza, S. M., Yu, Y. Q. Automated RapiFluor-MS™ Labeled N-Glycan Sample Preparation for Protein A Purified Monoclonal Antibodies.Waters Application Note 720007854, February 2023.
720008157JA、2023 年 12 月