Maxpeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した CORTECS™ Premier C18 カラムを搭載した UPLC-MS/MS を用いたスニチニブおよび関連代謝物の迅速高感度分析
要約
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、がんの治療のための細胞増殖経路の変更に使用される一群の低分子医薬品です。具体的には、市販の TKI であるスニチニブは、膵がんを含むさまざまながんの治療に使用できます。今回、スニチニブとその活性代謝物の治療薬物モニタリングを支援する分析法を作成します。MaxPeak™(HPS)テクノロジーを採用した新しい CORTECS Premier C18 カラムを、Waters™ Xevo™ TQ Absolute システムでの MS 検出と組み合わせて利用することでこれが達成できました。この分析法により、スニチニブおよびその活性代謝物の分析において、高感度で直線性のある再現性のある結果が得られます。
アプリケーションのメリット
- Max Peak を採用した CORTECS Premier C18 カラムは、従来のステンレススチール製システムおよびカラムと比較して、シグナルの高さおよび面積が 5 倍大きい
- クロマトグラフィー分離を 2 分以内で達成する
- 治療用投与量の範囲にわたる動的で高感度の直線性
はじめに
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、生体におけるシグナル伝達経路を変更して細胞増殖を改変する一群の低分子医薬品です。TKI は、がんの治療に適用され、腫瘍の増殖と転移の予防に役立ちます。スニチニブは、がんの治療に利用できる多くの TKI の 1 つです1。 スニチニブは、すい臓がんなどのさまざまながんに対する有効性について承認済みで、患者の全生存率を向上させています2。 薬物が体に吸収される際には、親薬物の代謝物が生成することがあります。スニチニブの場合、主要な活性代謝物は N-デスエチルスニチニブであり、高濃度では毒性を引き起こすことが報告されています3。 したがって、安全で効果的ながん治療を確保するには、スニチニブおよびその代謝物の治療薬物モニタリング(TDM)を支援する分析法は、高い信頼性と感度を持つことが必要です。
スニチニブの TDM に必要な感度を考慮して、新規の MaxPeak HPS テクノロジーを採用した新しい CORTECS Premier C18 カラムを適用しました。MaxPeak HPS テクノロジーは、クロマトグラフィーのレスポンス低下につながる、金属と分析種の望ましくない相互作用を低減することが示されています4.5。 さらに、MaxPeak HPS テクノロジーは、TKI に対して試験されており、これらの化合物の分析において、肯定的な変化が見られています6。
今回、スニチニブとその主要活性代謝物を 2 分以内で分離および定量する分析法を開発します。この分析法は、文献に記載されている治療範囲をカバーしており、スニチニブ分析の臨床分野に適用できます。さらに、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した CORTECS Premier C18 カラムがこの分析法のクロマトグラフィーにもたらすメリットについて紹介します。
実験方法
ストック溶液および標準溶液の調製は、TKI のバイオアナリシスアッセイについて実施されたメタ分析に基づいて設計しました7。
ストック標準溶液の調製
スニチニブは Selleck Chem(テキサス州ヒューストン)から購入しました。N-デスエチルスニチニブ塩酸塩は、Sigma Aldrich(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から購入しました。スニチニブ-d10 および N-デスエチルスニチニブ-d5 は、Toronto Research Chemicals(オンタリオ州トロント)から購入しました。ストック溶液は、4 mL のアンバー色のバイアル中に、10 µg/mL になるように個別に調製し、100% ジメチルスルホキシド(DMSO)で希釈しました。調製時には、すべての塩要因を考慮しました。ストック溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存しました。DMSO の物理的特性のため、ストック溶液は低温保管庫中で固化しました。バイアルをホイルでラップし、35 ℃ に設定したインキュベーター中で約 1 時間かけてゆっくり解凍しました。スニチニブには光感受性が認められたため、ホイルを使って暗黒条件下で調製しました8。 標準溶液の調製を行う前に、解凍したストック溶液を周囲温度に平衡化させました。
システム適合性標準試料の調製
ストック溶液を脱イオン水(希釈液)中 50% メタノールで希釈しました。重水素化スタンダードを、合計容量の 1% で濃度 1 ng/mL になるように血漿に個別にスパイクします。重水素化標準試料を使用することで、各分析種の定量目的のための内部標準(IS)の役割を果たしました。スニチニブと N-デスエチルスニチニブを等濃度で含む混合標準試料を、濃縮中間ストック溶液を使用して調製し、次にこれらを IS を含む血漿に、合計容量の 4% になるようにスパイクしました。スパイクを行った血漿キャリブレーション標準試料に対し、除タンパクを行いました。反応は、1.5 mL 遠心チューブ内で、血漿量の 3 倍の 100% アセトニトリルを用いて行いました。除タンパク反応のチューブを約 5 秒間ボルテックスしました。次に、15,000 rpm、4 ℃ で 5 分間遠心分離しました。最後に、低容量のアンバー色の HPLC バイアル内で、上清 100 µL を希釈液 100 µL と混合しました。
直線性および定量限界測定用標準溶液の調製
ストック溶液を脱イオン水(希釈液)中 50% メタノールで希釈しました。重水素化標準試料を、合計容量の 1% で濃度 1 ng/mL になるように血漿に個別にスパイクしました。重水素化標準試料を使用することで、各分析種の定量目的のための内部標準(IS)の役割を果たしました。濃縮中間ストック溶液を使用して個々の検量線のポイントを作成し、これらを IS を含む血漿に合計容量の 4% になるようにスパイクしました。スパイクを行った血漿キャリブレーション標準試料に、上記と同様の除タンパクを行いました。
LC 条件
MS 条件
データマネジメント
表 1
結果および考察
分離法の結果
この分析法は、スニチニブ、N-デスエチルスニチニブ、および関連する重水素化標準試料の保持と分離において、10 回の注入後にも再現性がありました。IS に対して補正した分析種の面積および保持時間の %RSD は < 5% でした(表 2 および表 3)。下の 10 回注入のクロマトグラムの重ね描きにより、分析法の性能が明確にわかります(図 1a および 1b)。
図 1b. TKI 混合標準試料の 10 回の注入にわたる NDSUN の定量の MRM トランジションのクロマトグラムの重ね描き
この分析法をステンレススチール製システムで使用した場合と比較したところ、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した CORTECS Premier C18 カラムの TKI 分析における改善点が浮き彫りになりました。各装置構成に、システム適合性標準試料を 10 回注入しました。以下に、両システムの結果を比較しています(表 4 および 5、図 2a および 2b)。
図 2a. MaxPeak Premier HPS システムセットアップ(赤色)および従来のステンレススチール製システムセットアップ(緑色)を使用した SUN の定量における MRM トランジションのクロマトグラム重ね描きの例
図 2b. MaxPeak Premier HPS システムセットアップ(赤色)および従来のステンレススチール製システムセットアップ(緑色)を使用した NDSUN の定量における MRM トランジションのクロマトグラム重ね描きの例
MaxPeak Premier HPS システムセットアップでは、従来のステンレススチール製システムおよびカラムと比較して、シグナルの高さおよび面積が 5 倍増加しました。これらの増加により分析種の検出感度が向上するため、TKI 試験においてメリットになります。
直線性の結果
SUN および NDSUN について直線性試験を行ったところ、この分析法は定量に適していることが実証されました。直線性の範囲は、スニチニブについて実施した TDM 試験を参照することによって確立されました。スニチニブの治療における血漿中濃度範囲は、The British Journal of Clinical Pharmacology により、「持続投与で 37.5 ~ 60 ng/mL、間欠投与で 50 ~ 80 ng/mL」であると提唱されています9。 したがって、SUN と NDSUN の両方について、0.1 ng/mL ~ 100 ng/mL の血漿濃度範囲がカバーできました。これらの範囲では、文献に記載されている以前の SUN についての TDM 分析法と比較して、より低い定量限界が達成されています10,11。 SUN および NDSUN についての曲線を以下に示します(図 3a および 3b)。
図 3a. 血漿中 0.1 ng/mL ~ 100 ng/mL にまたがる SUN の 10 点検量線。曲線の R2 値は >0.997 でした。
図 3b. 血漿中 0.1 ng/mL ~ 100 ng/mL にまたがる NDSUN の 10 点検量線。曲線の R2 値は >0.994 でした。
定量限界の測定結果
SUN と NDSUN について、曲線の最低点で 6 回注入して、低濃度の定量限界(LLOQ)の再現性を確立しました。米国食品医薬品局によると、現行のバイオアナリシスアッセイのバリデーションガイドラインでは、LLOQ の正確度および精度は +/- 20% RSD 以内であるべきと推奨されています12。 表 6 と 7、および図 4a と 4b から、この分析法の LLOQ の測定結果が明確にわかります。
図 4a. ブランク血漿の注入と比較した SUN の LOQ の MRM トランジションの重ね描きクロマトグラムの例
図 4b. ブランク血漿の注入と比較した NDSUN の LOQ の MRM トランジションの重ね描きクロマトグラムの例
結論
今回、CORTECS Premier C18 カラムと MaxPeak HPS テクノロジーを採用したシステムを使用することにより、従来のステンレススチール製クロマトグラフィーセットアップと比較して、TKI の分析が改善されました。MaxPeak HPS テクノロジーを使用することで、SUN と NDSUN のピークの高さと面積が 5 倍増加しました。さらに、この分析法により、2 分以内で再現性のある結果が得られると同時に、リニアダイナミックレンジ全体にわたって TDM が可能になります。
参考文献
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720007845JA、2023 年 1 月