EPA 1633 に準拠したパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の分析、パート 2 :水系マトリックスの分析
要約
US EPA メソッド 1633 は、米国における非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の分析の基本的な分析法になっています。この分析法は、弱陰イオン交換(WAX)固相抽出(SPE)を使用するサンプル前処理とグラファイトカーボンブラック(GCB)クリーンアップを使用したサンプル前処理で構成されています。このアプリケーションノートは、EPA メソッド 1633 を実行するための包括的なソリューションを実証するアプリケーションノートシリーズのうちの 2 番目のノートです。このノートでは、Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極質量分析計と結合した ACQUITY™ Premier BSM FTN LC システムで、PFAS 分析用の Oasis WAX/GCB および LC-MS/MS 分析法を利用した真正水サンプルの前処理および分析に焦点を当てています。
アプリケーションのメリット
- EPA メソッド 1633 に従って、真正水サンプル中の PFAS 分析用のエンドツーエンドのワークフローの紹介
- わずか 250 mL の水サンプルを使用して EPA 1633 の性能基準が満たされるため、サンプルの採取、輸送、保管の要件が低減し、サンプル前処理に要する時間が短縮
- 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジである PFAS 分析用 Oasis WAX/GCB を使用することにより、分散型 GCB での作業に伴う残渣や危険性が低減するだけでなく、サンプル前処理にかかる時間をさらに短縮可能に
- ワークフローの性能は、Waters™ ERA 認定レファレンス物質の適格性評価に容易に合格したことによって実証されている
はじめに
US EPA メソッド 1633 は、2021 年 8 月に初めて導入され、非飲料水マトリックス、土壌、バイオソリッド、組織中の PFAS の基本的な分析法になりました1。 このドキュメントの作成時点では、メソッド 1633 は第 4 版ドラフトの段階にあり、最終バージョンは 2023 年末にリリースされる予定です2。EPA 1633 の最終リリースまでには、メソッドに含まれる各種のサンプルマトリックスについて、複数のラボでバリデーションされている予定です。この分析法では、同位体希釈キャリブレーションおよび定量を利用して 40 種類の PFAS をカバーします。必要なサンプル前処理はサンプルの種類によって多少異なりますが、すべての種類のサンプルについて、WAX カートリッジでの SPE を GCB クリーンアップと組み合わせて使用します。EPA 1633 は、水質浄化法(CWA)および国防総省(DoD)が行うモニタリングおよび修復のためのサンプル分析をサポートするために作成されたものですが、非常に幅広いマトリックスおよび化合物をカバーしているため、その適用範囲が拡張すると期待されます。
このアプリケーションノートは、ウォーターズのテクノロジーの包括的なワークフローを使用した EPA 1633 のサンプル前処理、分析、分析法性能に対処するアプリケーションノートシリーズの第 2 弾です。このアプリケーションノートでは、パート 1 で確立した LC-MS/MS 分析法を利用した真正水サンプルの前処理および分析に焦点を当てます。分析は、Xevo TQ Absolute 質量分析計に結合した ACQUITY Premier BSM FTN UPLC システムで実行されます3。 WAX と GCB を組み合わせたサンプル抽出およびクリーンアップワークフローの使用を、地下水、地表水、廃水(流入水および流出水)で実証しています。
実験方法
サンプル前処理
このアプリケーションノートで説明するサンプルには、現地で採取した地下水と地表水、および米国中東部の市営廃液処理施設から提供して頂いた流入廃水および流出廃水が含まれます。水サンプルはすべて、グラブサンプリングを用いて 250 mL 高密度ポリプロピレンボトルに直接採取しました。サンプルは、EPA 1633 ガイドラインおよびホールド時間に従って、分析するまで冷凍しました。サンプルボトルを、サンプル前処理前(満杯)およびサンプル前処理後(空)に秤量し、各ボトルに採取した正確な容量を決定しました。真正サンプルに加えて、Waters ERA PFAS 含有廃水(項目番号404)認定レファレンス物質(CRM)をサンプルとともに処理しました。
分散型 GCB をクリーンアップ用にサンプルに添加する代わりに、弱陰イオン交換(WAX)吸着剤とグラファイトカーボンブラック(GCB)吸着剤の両方を含む 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジ(製品番号:18601110)である PFAS 分析用 Oasis WAX/GCB をサンプル前処理に使用しました。
完全なサンプル前処理の詳細は図 1 に記載しています。これは EPA メソッド 1633 から直接引用したものです。前述したように、サンプル容量の変更と SPE カートリッジに分散型 GCB ステップを組み合わせるという 2 つの変更を分析法に加えました。Xevo TQ Absolute 質量分析計の装置感度に基づいて、サンプル容量を分析法で推奨されている 500 mL から 250 mL に減らしました。サンプル容量を減らすと、サンプルの輸送および保管のコストが削減できると共に、SPE カートリッジにロードするサンプル容量を半分にすることで、サンプル前処理をより迅速に行うことができます。GCB と WAX を同じカートリッジに組み込むことで、粉末状物質の使用に伴う複雑さが最小限に抑えられ、分析法性能を損なうことなくサンプル前処理のステップ数を減らすことができます。
抽出前にすべてのサンプルに 5 ng/L(サンプル濃度と同等)の抽出内部標準(EIS)をスパイクし、抽出後に必須の非抽出内部標準(NIS)5 ng/L(サンプル濃度と同等)をスパイクしました。各分析種の検量線範囲は付録の表 2 に記載されています。これは、本アプリケーションノートシリーズのパート 1 で紹介したように、取り込まれたデータにより決定された範囲です3。すべての標準試料は、Wellington Laboratories 社から混合物として入手しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY Premier BSM(FTN を搭載) |
バイアル: |
700 µL ポリプロピレン製ねじ蓋バイアル(製品番号:186005219) |
分析カラム: |
ACQUITY Premier BEH™ C18、2.1 × 50 mm、1.7 µm(製品番号:186009452) |
アイソレーターカラム: |
Atlantis™ Premier BEH C18 AX 2.1 × 50 mm、5.0 µm(製品番号:186009407) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
PFAS キット: |
OASIS WAX 150 mg を含む PFAS インストールキット(製品番号:176004548) |
注入量: |
2 µL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
2 mM 酢酸アンモニウム水溶液 |
移動相 B: |
2 mM 酢酸アンモニウムアセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ Absolute |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
イオン源温度: |
100 ℃ |
脱溶媒温度: |
350 ℃ |
脱溶媒流量: |
900 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
MRM メソッド: |
MRM メソッドの詳細については、付録を参照してください |
データ管理
ソフトウェア: |
定量のための waters_connect™ |
結果および考察
水サンプルにおける回収率
EPA 1633 は性能に基づいた分析法であり、分析法に示されている性能基準がすべて満たされているかぎり、変更が可能です。この論文に示した大きな変更の 1 つは、分散型 GCB クリーンアップステップを WAX SPE カートリッジに組み込んだ 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを使用したことでした。GCB は、作業が難しく、正確な測定も困難ですが、2 層カートリッジを使用することで、厄介な分散型固相抽出のステップが不要になります。さらに重要な点として、GCB クリーンアップステップを SPE 抽出に組み入れることで、サンプル前処理プロセスにかかるラボでの貴重な時間を節約できます。さらに、前処理ステップが少ないため、意図しない PFAS サンプル汚染が導入される可能性が低くなります。
このアプローチの同等性を証明するために確立する必要がある重要な性能基準の 1 つは、第 4 版ドラフトメソッド 1633(同ドキュメント内の表 6 を参照)にある抽出内部標準(EIS)および非抽出内部標準(NIS)の回収率の許容範囲です1。地下水、地表水(有機物含量が高い)、流入廃水(沈降のみ)、流出廃水(完全に処理された放出水)についての 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジの個々の回収性能を、それぞれ EIS および NIS について表 1 に記載しています。表 1 に報告しているデータは、各マトリックス種類の 5 回繰り返し抽出の平均回収率と %RSD です。抽出した 20 サンプルにおけるすべての EIS の平均回収率は 91.2% で、平均 RSD は 9.2% でした。
図 2 に、すべての種類の水サンプルにわたる平均回収率を、EPA 1633 の表 6(ドラフト 4)の許容回収率と直接比較しています。水サンプルにおける回収率は、各化合物の回収率の許容範囲内に十分収まっており、すべてのケースで最小回収率レベルを大幅に上回っています。このことは、より複雑な水マトリックスにおいても、このカートリッジが分散型 GCB を使用する場合と同等の性能を発揮し、目的に適合していることを示しています。
認定レファレンス物質
顧客サンプル中の PFAS の定量には分析の正確性が重要です。Waters ERA からの認定レファレンス物質(CRM)を、ワークフローの正確性のベンチマークとして、真正サンプルとともに処理しました。PFAS 含有廃水 CRM は、すべての EPA 1633 分析種について認定されており、分析法性能を評価するための代表的なレファレンス物質になります。これにより、PFAS を含まないサンプルがないと、複雑になる可能性がある未知のマトリックスサンプルへのスパイクが不要になります。図 3 に、廃水 CRM の 3 回繰り返し抽出および分析の平均定量結果を示します。赤色の点線および破線は、CRM の最小および最大の認定値の範囲を示しています。青色の実線は認定値を表しています。灰色の実線は、サンプル分析中に測定された平均実験定量値を表しています。EPA 1633 の 40 種のターゲット PFAS はすべて、許容される最小および最大濃度の範囲内に収まっており、平均真度 92% で真度範囲 73 ~ 112% という定量結果になりました。これにより、ウォーターズのソリューションを使用したサンプル前処理、分析、データ解析ワークフローの正確性について、高い信頼性が実証されます。
真正水サンプル中の PFAS の分析
この紹介したワークフローを使用して、地下水、地表水、流入廃水、流出廃水中の 40 種のターゲット PFAS 分析種を検出および定量しました。LC グラジエントメソッドは、潜在的な干渉物質であるコール酸と PFOS が最低 1 分間分離するように設計されています2。 コール酸は消化を助けるために生成されることから、廃水サンプル中に大量に存在する可能性があります。図 3 に、流入廃水および流出廃水のサンプル中にコール酸が存在すること、および PFOS が干渉物質から正常に分離されていることが示されています。
表 2 に示したように、すべてのサンプルで PFAS が検出されました。各サンプルは、5 回繰り返しで採取および抽出し、平均計算濃度を、繰り返しに関連する %RSD とともに報告しています。地下水では、検出可能な PFAS が最も少なく、9 種の PFAS が定量限界(LOQ)を超えて検出されて、その範囲は 0.11 ~ 7.03 ng/L でした。地表水サンプルの PFAS の範囲はこれよりわずかに広く、12 種が LOQ を超えるレベルで検出されて、0.17 ~ 15.4 ng/L の範囲でした。廃水サンプルでは、検出された PFAS の範囲と濃度が最大でした。流入廃水と流出廃水中に検出された PFAS の比較を図 5 に示します。流入廃水では 19 種の PFAS が定量され、流出廃水では 16 種が検出されました。このことは、この場所での水処理は一部の PFAS の除去において有効であることを示しています。ただし、濃度を比較すると、ほとんどの PFAS は、流入廃水と流出廃水でほぼ同じ濃度でした。NMeFOSE、3:3 FTCA、7:3 FTCA は処理プラントから放出された流出廃水中に存在せず、5:3 FTCA は、流入廃水の 88.9 ng/L から流出廃水の 3.9 ng/L まで大幅に低減していました。
結論
いくつかの水サンプルについて、EPA 1633 手順を使用して、サンプル前処理および分析を行いました。分散型 GCB を使用して 2 つの別々のステップで抽出とクリーンアップを行う代わりに、PFAS 分析用 Oasis WAX/GCB は、WAX と GCB の両方を含む 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを使用してサンプルの抽出とクリーンアップを行いました。このカートリッジにより、ユーザーエクスペリエンスが向上し、サンプル前処理ステップにかかる時間が短縮しました。すべての回収率は許容基準の範囲内であり、地下水、地表水、流入廃水、流出廃水を含む 20 回の抽出における EIS の平均回収率は 91.2%、平均 RSD は 9.2% でした。これにより、EPA 1633 に記載されているマルチステップ抽出およびクリーンアップの適切なシングルステップの代替法として、2 層構造の 2 相 SPE カートリッジの同等性が実証されました。さらに、同じメソッドを使用して処理および分析した Waters ERA 廃水認定レファレンス物質は、十分に認定レファレンス値の範囲内に収まっていたことから、メソッドの正確性について、高い信頼性が得られました。EPA 1633 に含まれる 40 種の PFAS について、複雑さが異なる 4 種類の水サンプルを分析したところ、PFAS が 0.1 ~ 88.9 ng/L の範囲ですべてのサンプル中に検出されました。示されているデータから、2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを LC-MS/MS システムと組み合わせることにより、EPA 1633 の水サンプルの分析に関するすべての要件が十分に満たされることがわかります。
参考文献
- US Environmental Protection Agency.Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Aqueous, Solid, Biosolids, and Tissue Samples by LC-MS/MS, Draft 4.July 2023.
- US Environmental Protection Agency.Clean Water Act Analytical Methods: CWA Analytical Methods for Per- and Polyfluorinated Alkyl Substances (PFAS).https://www.epa.gov/cwa-methods/cwa-analytical-methods-and-polyfluorinated-alkyl-substances-pfas#draft-method-1633, Accessed 17 November 2023.
- K Organtini, K Rosnack, P Hancock.Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Accordance with EPA 1633 Part 1: Establishing and Assessing the Method.Waters Application Note.720008117.2023.
付録
720008143JA、2023 年 12 月