デルタ-8 THC 蒸留物の探索に役立つクロマトグラフィー、検出、およびソフトウェアツール
要約
ヘンプ由来の CBD から製造されるデルタ-8 テトラヒドロカンナビノール(Δ8-THC)の使用拡大により、米国で安全性に関する懸念が拡がっています。CBD から Δ8-THC への変換により、複数の副生成物が生じるため、生成する化学成分と、それらが消費者の安全に及ぼす潜在的なリスクの理解を深めるために、特性解析を行う必要があります。
以下の試験により、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、シングル四重極質量分析(MS)検出器を搭載した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、およびサンプル探索を支援する Empower™ クロマトグラフィーデータソフトウェア内のツールを使用した Δ8-THC 蒸留物の分析について説明します。
保持時間と UV スペクトルに基づいて分析した蒸留物サンプル中に、Δ8-THC および Δ9-THC などの既知のカンナビノイドが複数同定されました。一方、UV データには、未同定のピークも検出されました。UV スペクトルから、未知成分と蒸留物中の主要化合物である Δ8-THC の間に構造的類似性がある可能性が示されました。MS 解析では、ソフトウェアにより、複数の未知成分のベースピークとして m/z 315 が示されました。真正標準試料を使用してカンナビノイドのスペクトルライブラリーを生成しました。スペクトルと保持時間を補助に用いてターゲット成分を同定し、スペクトルマッチングによって構造的に関連する未知物質を明らかにしました。
アプリケーションのメリット
- PDA 検出と MS 検出の両方を使用することにより、カンナビノイド検出の信頼性が向上
- PDA スペクトルライブラリーにより、化合物割り当てに対する信頼性が高まり、異性体の同定が可能に
- ピーク純度を使用して共溶出成分の同定が可能に
- プリカーサーイオンのプロダクトイオンへのインソースフラグメンテーションを使用して追加の構造情報を取得
はじめに
大麻の合法化の拡大により、大麻および派生製品の消費メカニズムのイノベーションが推進されてきました。さまざまな摂取経路の安全性が不明であることから、カンナビノイドを正しく同定することの重要性がますます高まっています。デルタ-9 テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)は大麻植物中の主な中毒成分です。異性体の Δ8-THC にも中毒作用があり、大麻の植物中に微量で存在します。消費者向け製品中に含まれる Δ8-THC は、ヘンプ由来の非中毒性カンナビノイドであるカンナビジオール(CBD)から生成します。米国農業改善法(2018 年の米国農場法)の解釈から、Δ8-THC の合法性についてさまざまな議論につながりましたが、Δ8-THC が合法と感じる人も多く、米国での売上高は着実に増加しています。これに対して、ヘンプ由来の合成成分の使用に関する規制は明確に対処しておらず、このことが Δ8-THC の生産および使用の市場拡大につながっています。CBD から Δ8-THC への合成変換により、複数の反応副生成物が生じるため、生じる成分とその安全性プロファイルの化学的な理解を深めるために、特性解析を行う必要があります1-7。
最近、誤った表示や異性体などの未申告の反応副生成物など、Δ8-THC の消費者製品に関連する製品ラベル表示が不正確であることが報告されています4–6。Δ9-THC には、立体化学が異なる複数の二重結合異性体が存在することが知られており、それが大きな分離上の課題になる可能性があります。また、規制対象の Δ9-THC の分析的同定があいまいな場合にも、法的な問題が発生する可能性があります8。
以下の試験により、PDA 検出器およびシングル四重極 MS 検出器を搭載した HPLC、およびサンプル探索を支援する Empower クロマトグラフィーデータソフトウェア内のツールを使用した Δ8-THC 蒸留物の分析について説明します。
結果および考察
10 種類の中性カンナビノイド(図 1)の真正標準混合物の、228 nm での PDA 検出を使用したクロマトグラフィー分離を図 2 に示します。この混合物には、CBD、Exo-THC、Δ8-THC、CBL、CBC など、複数のΔ9-THC の異性体が含まれています。
大麻の蒸留物サンプルの分析後、Empower 解析メソッドで記録された保持時間(tR)に基づいて、複数の化合物(CBD、CBN、exo-THC、Δ9-THC、Δ8-THC)が同定されました。メインの Δ8-THC のピークの後に溶出する 2 つの成分(面積 % 値はそれぞれ 2% および 12%)を波形解析しましたが、この解析メソッドでは同定できませんでした。
Δ8-THC と同定された主成分(tR 5.351 分)は、面積% が 66% と算出されました(図 3)。
4.4 ~ 5.3 分のクロマトグラム領域(tR 5.351 分の Δ8-THC のピークの前のピーク)において、未知成分のピークの UV および MS スペクトルデータが、同定済み成分のスペクトルデータと非常に類似していることがわかりました。同定済みの各成分(Exo-THC、Δ9-THC、Δ8-THC)について、プロトン化イオン [M+H]+ m/z 315 が見られました。tR が 4.512 分、4.754 分、5.229 分の不明な各成分のピークのベースピークも m/z 315 でした。 図 4これらのデータは、成分に構造的な関連性があり、異性体である可能性を示唆しています。
メインの Δ8-THC のピークの後に溶出している 2 つの成分(tR 6.151 分 および 6.530 分)の UV スペクトルは、ベースピークが m/z 315 であるにもかかわらず(図 5)、図 4 で示された 6 つの成分とは大きく異なります。
Empower スペクトルインデックスプロットを使用して、すべての波形解析済みピークの UV スペクトルを単一ビュー内で比較できます(図 6)。最後の 2 つの溶出成分と前の 6 つの溶出成分の間にある明確なスペクトルの違いが図 6 で見られます。
Empower ライブラリー検索機能を使用することで、ピークからの未知スペクトルを、ライブラリーに保存されている PDA または質量スペクトルデータとマッチングすることができます。ライブラリーのスペクトルは、まず真正標準試料を使用して収集され、保存されています。カンナビノイドの PDA スペクトルライブラリーは、酸性成分と中性成分の両方に使用可能な真正標準試料を使用して収集されています。PDA スペクトルと保持時間がライブラリーに記録されています。ライブラリーは、解析メソッドの一部として、手動または自動で検索できます。
解析メソッドに保持時間ウィンドウ 5% を設定してカンナビノイドのライブラリーを検索したところ、1 件のライブラリーマッチが tR 6.151 分および 6.530 分の各未知成分に対して提案されました。
このライブラリーマッチングの結果は、6.151 分の未知成分に対するベストマッチの可能性が(6aR,9S)-Δ10-THC であることを示しています(図 7 で強調表示)。Empower のスペクトルコントラストアルゴリズムを使用して、マッチ 1 の角度が マッチ 1 のしきい値より小さいことが確認されました9~13。マッチ角度が小さいほど、マッチ(一致)の度合いが高くなります。結果画面の PDA トリプルプロットには、未知成分のスペクトルとベストのスペクトルマッチ、およびそれらの間の差が示されています(下のスペクトル、図 7)。スペクトルを視覚的に調べるために、スペクトルを重ね合わせて差異を可視化することができます。図 8 には、6.151 分の未知成分のスペクトルとライブラリーのスペクトルを重ね合わせて表示しており、よく一致していることがわかります。
6.530 分の未知成分についてライブラリー検索した結果、最も近いマッチが(6aR,9R)-Δ10-THC であることが示されました。ただしこの場合、マッチ 1 の角度が マッチ 1 のしきい値よりも大きくなっています。さらに、純度のフラグがあり、これについてさらなる調査が必要になりました。
ピーク純度
純度プロットは共溶出成分の評価に使用できます14-15。 波形解析済みピークの各スペクトルが評価されています。純度プロット(図 9)では、純度 1 の角度が純度 1 のしきい値よりも大きく、不純物が存在することが示されています。M という文字の付いた縦線は、ピーク中で純度角度/純度しきい値の比の値が最大のポイントを示します。この場合、ピークの先端になります。
(6aR,9S)-Δ10-THC および(6aR,9R)-Δ10-THC の真正標準試料と、蒸留物サンプル中の未知成分の tR スペクトルおよび UV スペクトルを比較すると、両者は非常によく類似しており、同定の信頼性がさらに高まりました。
インソースフラグメンテーション
MS データにより、成分の同定の信頼性が高まります。未知成分の同定における信頼性を高めるために、プリカーサーイオンとプロダクトイオンのデータがしばしば併用されます。シングル四重極質量分析計を使用したインソースフラグメンテーション実験により、追加の構造情報が得られます。ただし、タンデム質量分析とは異なり、このフラグメンテーションモードは非特異的であり、化合物が共溶出している場合には、複数の成分に起因するデータが含まれることがあります。
このメソッドでは、2 つのコーン電圧(低値(15 V)と高値(45 V))で 2 つの MS スキャン機能を使用して同時にデータを取り込むように設定できます。高コーン電圧機能では、イオンの加速および脱溶媒ガスや溶媒蒸気などの気体分子種との衝突によるフラグメンテーションが誘導されます。
低コーン電圧実験を使用した蒸留物サンプルの分析において、(6aR,9R)Δ10-THC として同定されたピークのプリカーサーイオン [M+H]+ m/z 315 が観察されました。高コーン電圧実験では、Δ9-THC に代表的な m/z のプロダクトイオンとその異性体が m/z 259、193、135、123 などに見られました。(6aR,9R)Δ10-THC の真正標準試料を、サンプルに検出された tR 6.530 分のピークで比較したところ、高コーン電圧実験で見られたフラグメンテーションパターンの間で優れた一致が見られました(図 10)。
結論
- 蒸留物サンプルでは、ベースピーク m/z 315 の複数の未同定成分が 4.0 分 ~ 7.0 分の領域で溶出することがわかりました。HPLC-PDA-MS データは、これらが Δ9-THC の構造異性体である可能性を示唆しています。
- カンナビノイドの PDA スペクトルライブラリーを使用した PDA スペクトルマッチングに基づく化合物割り当てにより、未知成分を仮同定しました。
- 純度プロットがピーク純度の評価に使用でき、共溶出成分が存在することが示されました。
- (6aR,9S)-Δ10-THC および(6aR,9R)-Δ10-THC の真正標準試料を使用して、tR、プリカーサーイオン、およびプロダクトイオンに基づく同定が確認されました。
- 蒸留物サンプル中に複数の未知成分が検出されました。未知の生物活性や毒性データを有する成分の理解を深め、消費者の安全を確保するには、それらの特性解析を行うことが重要です。
参考文献
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720007692JA、2022 年 8 月