動物種特異的なゼラチン同定のための完全なディスカバリーワークフロークフロー
要約
ゼラチンは食品や化粧品の両方に一般的に含まれている成分であり、ゼラチンを製造するために使用する動物種は多くの場合、衛生上および宗教上の理由から制限および規制されています。例えば、ゼラチン分析はハラル認証においてますます重要になっています。プロテオミクスは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)による種特異的なペプチドマーカーの測定を用いて、ゼラチンの由来を評価するための代替アプローチになります。今回、頑健なサンプル前処理および超高速液体クロマトグラフィーに MSE モードで動作するエレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型質量分析計を組み合わせることで(UPLC™-QTof-MS E)、ウシおよびブタのゼラチンに対応するペプチドマーカーの同定が可能になりました。ProteinWorks™ eXpress 消化キットは、事前秤量済みの試薬とシンプルでステップごとの使用説明書が含まれる準備不要なキットです。分析法開発を必要とせずにさまざまなサンプルに適用できるため、サンプル前処理がシンプルで迅速になります。このワークフローには、ProteinWorks eXpress 消化キットによるサンプル前処理、ACQUITY™ Premier UPLC カラムによる分離、および UPLC-QTof-MSE による測定が含まれており、最終的にゼラチンの種特異的マーカーを同定するための信頼できるアプローチになります。
アプリケーションのメリット
- ProteinWorks eXpress 消化キットを用いた使いやすいサンプル前処理プロトコル
- ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、最適化した装置メソッドおよび ACQUITY Premier HSS T3 UPLC カラムを用いることにより、特異的ペプチドマーカーを同定および分離
- Progenesis™ QI for Proteomics により、ユニークなペプチドマーカーを測定し、ゼラチンの由来動物種を特定
はじめに
ゼラチンはそのユニークなゲル化特性により、食品および医薬品産業で広く使用されています。ゼラチンは多くの場合、さまざまな動物種に由来するコラーゲンから製造されるペプチドの混合物です。市販のゼラチンの主な原材料は、皮、皮膚、骨などのウシやブタの体の部位です。魚などその他のソースも存在しますが、ウシやブタほど一般的ではありません。
1986 年の牛海綿状脳症(BSE)の発生により、ヒトが消費する製品でのウシゼラチンの使用が制限されました。また、一部の宗教や文化では、ブタ製品の消費を禁止する制限があります。例えば、イスラム教のハラルやユダヤ教のコーシャーの食事規定では、食品にブタ由来のものを含めないことを求めています。一方、ヒンドゥー教の大半の人々はラクトベジタリアン(肉や卵を食べない乳菜食主義者)であり、牛肉は決して食べません1。製造者および輸入業者は、宗教上および規制上のラベル表示要件に製品が適合していることを確認するために、ラボによる分析レポートの提出を求められる場合があります2。そこで、製品にウシやブタ由来のものが含まれないことを保証するためのゼラチン認証が非常に重要です。
酵素結合免疫吸着剤法(ELISA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の手法を使用する DNA ベースの方法、分光法や質量分析を用いた分析法など、ゼラチン認証のさまざまな方法が開発されています3-5。これらの方法にはすべて、それぞれの制限があります。コラーゲンの配列はさまざまな生物種間での相同性が高いため、ELISA では、一部の抗体では種特異性が低く、あまり有効ではないと考えられています。DNA ベースの手法は、さまざまなソース由来のゼラチンを区別できる可能性がありますが、最終製品中に存在するゼラチン DNA の量が少なく、苛酷な加熱やその他の加工処理により DNA がフラグメント化する可能性があるなどの懸念が残ります。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)などの分光法は、ケモメトリックスを用いて分光特性の差に基づいてさまざまなゼラチン由来を区別することができますが、感度が低く、動物種が混ざったゼラチンや製品に使用できるかがまだ判定されていません。この 10 年間で、食品偽装に関する質量分析ベースのタンパク質およびペプチドのプロファイリングが、トレーサビリティーと真正性の評価の分野で一般的になりました6。このアプローチでは、LC-MS による種特異的ペプチドマーカーの測定を利用してゼラチンの由来の評価を行います7-10。DNA とは対照的に、タンパク質のアミノ酸配列はゼラチンの解析において非常に一貫性が高いため、LC-MS ベースの分析法には、1 回の分析で複数のゼラチン分子種を検出できるという利点があります。
このアプローチは、異なる動物種のコラーゲンのタンパク質濃度の違いを利用して、可溶化、還元、アルキル化、トリプシン消化後に、動物種ごとのゼラチンを特異的に検出します。この試験では、ワークフローの最初のステップ、すなわちショットガンプロテオミクスによる、ブタおよびウシのゼラチンのトリプシン消化物からの種特異的なペプチドの初期同定を実証します。UPLC-MSE の新規性は、データインディペンデント取得モードを使用していること、および高コリジョンエネルギーと低コリジョンエネルギーを交互に切り替えることにより、プロダクトイオンとプリカーサーイオンの両方が得られ、情報が豊富なマススペクトルを生成することです。
結果および考察
市販の 6 種類のウシおよびブタのゼラチン標準試料(Sigma Aldrich)を 50 mM の重炭酸アンモニウム(NH4HCO3)で前処理しました。次に、図 1 に示すように、ProteinWorks eXpress 消化キットを使用して 5 ステップからなるプロトコルを行いました。
この分析は、Xevo™ G2-XS QTof 質量分析計と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムで、1.8 µm ACQUITY Premier HSS T3 分析カラム(製品番号: 186009468)を使用して実施しました。
各ゼラチン標準試料について 3 回繰り返しで注入を行いました。LC-MS データ用の創薬分析ソフトウェアである Progenesis QI for Proteomics を使用して生データを分析しました。このソフトウェアを使用して、ゼラチンの由来動物種に特徴的なマーカーを同定しました。ソフトウェアでは、メニューガイド付きのワークフローに従って、クロマトグラフィーのアライメント、データの正規化、ピークピッキングが自動的に実行されます。取得したペプチドデータは EZInfo にエクスポートされ、直交部分的最小二乗判別分析(OPLS-DA)モデルの S プロット(図 2)により、ウシおよびブタのゼラチンに関連する識別化合物が強調表示されます。信頼性と重要性が最も高い特性(図 2 にボックス表示)を選択して Progenesis QI for Proteomics に再びインポートして戻し、アイデンティティーの検証と評価を行いました。FDR 1% 未満、固定修飾(システインのカルバミドメチル化)、可変修飾(メチオニンの酸化)に設定したイオンアカウンティング同定ワークフローを用い、Sus scrofa domesticus(ブタ)およびBos taurus(ウシ)の UniProt データベースを使用したペプチド SGDRGETGPAGPAGPIGPVGAR の同定の例を図 3 に示します。選択したペプチドの標準化した存在量プロファイルを比較すると、選択したものがそれぞれの動物種に固有で特異的であることが分かります(図 4)。最終候補リストに残ったシグネチャーペプチドマーカーは表 1 にまとめており、これをバリデーション後の市販品の定量的 LC-MS/MS 分析のターゲットとして使用できます。
結論
この試験では、UPLC-QTof MS および Progenesis QI for Proteomics を使用した、直感的なプロテオミクスディスカバリーワークフローを用いて、ブタおよびウシ由来のゼラチンの一連のさまざまなペプチドマーカーを測定する方法を実証しています。ユニバーサルなキットを使用することで、プロセスが効率化および簡素化し、このようなプロテオミクス分析法の実施が容易になり、ラボ間および装置プラットホーム間での再現性が確保されます。次のステップは、これらのマーカーのターゲット分析法を作成して、食品成分および最終製品中のゼラチンの由来生物種分類における感度と選択性を検証することです。
参考文献
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720007533JA、2022 年 2 月