異なる LC システムへの移管やラボ間での移管を成功させるには、同じ分析で結果を再現することで性能の同等性を実証することが重要になります。このアプリケーションノートでは、アスピリンの医薬品有効成分(API)類縁物質の分析法の Arc HPLC システムへのシームレスな移行を、分析法の性能の同等性を実証することで示しています。他の同等の HPLC システムで得られたクロマトグラフィー分離の品質、システム適合性、類縁物質の分析結果が Arc HPLC システムで正しく再現されました。
バリデーション済みの分析法を、異なるベンダーの LC システムを使用している他のラボや、CRO および CMO などのパートナーに移管することはよくあります。分析法を移管する際には、品質管理および規制ガイドラインの遵守を確保するために、同一の分析において同等の結果が得られる必要があります1。 更に、最新の装置をラボに導入する場合、バリデーション済みの分析法の性能特性すべてを再現できなければなりません。
特に異なるメーカー製の LC システム間でのクロマトグラフィー分析法の移管は、非常に困難な作業となることがあります。多くの場合、装置のシステム容量が異なるため、グラジエント分析法においてクロマトグラフィー分離の不良やピークの歪みが発生することがあります。そのため、同一の分析でも、複数の装置の間で異なる結果が生成されることがあります。
この文書では、アスピリン API 類縁物質のための HPLC 分析法を Arc HPLC システムに移行するケースを紹介します。クロマトグラフィー分離、システム適合性の結果、および類縁物質の分析結果を調べた結果、性能の同等性が実証されました。Arc HPLC システムにより、分析法が正しく再現され、同等の LC システムで得られた結果と同等のクロマトグラフィー分離および分析結果が得られることを示しています。
Arc HPLC システムは、ルーチン試験に適した頑健で信頼性および再現性の高い最新の装置であり、確立された HPLC 分析法を再現することができます2。
類縁物質およびアスピリン API を含む原液を、希釈液(0.1% ギ酸含有 60:40 水/アセトニトリル)中にそれぞれ 1.0 および 5.0 mg/mL になるように調製しました。この API の原液を希釈液で 0.1 mg/mL になるように希釈し、類縁物質が 10% になるようにスパイクしました。
欧州薬局方が指定するアスピリンおよび類縁物質3を表 1 に示します。
粉砕した錠剤を希釈液(0.1% ギ酸含有 60:40 水/アセトニトリル)中で 10 分間超音波処理し、アスピリンが 1.6 mg/mL になるように溶解しました。抽出後、サンプル試験溶液を 3,000 rpm で 10 分間遠心分離し、希釈液で 0.5 mg/mL になるように希釈しました。溶液を 0.2 µm ナイロンシリンジ(Waters 製品番号 WAT200524)を通してろ過してから分析しました。
LC システム: |
Agilent 1260 Infinity II LC システム、DAD 検出器搭載 Alliance e2695 HPLC システム、2998 PDA 検出器、パッシブプレヒーター付きカラムヒーター/クーラーを搭載 Arc HPLC システム、2998 PDA 検出器、パッシブプレヒーター付きカラムヒーター/クーラーを搭載 |
バイアル: |
LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号 600000670CV) |
カラム: |
XSelect HSS T3、4.6 × 150 mm、3.5 µm (製品番号:186004786) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
15 µL |
移動相: |
A:0.1% ギ酸水溶液 B:0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
洗浄溶媒: |
パージ/サンプル洗浄溶媒:60:40 水/アセトニトリル シール洗浄溶媒:90:10 水/アセトニトリル |
検出器の設定: |
PDA: 210 ~ 400 nm(237 nm で抽出) |
クロマトグラフィーデータソフトウェア(CDS): |
Empower 3 FR4 SR2 |
アスピリンおよび類縁物質の分析は、以前に開発された分析法に基づいて、MS 適合の条件下で実施しました4。 この分析法を、カラムカリキュレーターを用いて粒子径 3.5 μm のカラムにスケーリングし5、Agilent 1260 Infinity II、Alliance e2695、Arc HPLC システムで実行しました。Arc HPLC システムで得られたクロマトグラフィー分離は、Agilent および Alliance HPLC システムでのデータと同等でした(図 1)。Arc HPLC システムでは、すべての分析種の間の USP 分離度が 5.8 以上、ピークテーリング 1.1 ~ 1.2、保持係数 2.0 以上になりました。
更に、類縁物質の相対保持時間(RRT)をシステム間で比較しました。RRT 値は、クロマトグラフィー分離におけるピーク同定の補助として使用されることが多いため、別のシステムに類縁物質の分析法を移管する場合も、その値が同一であることが重要です。この試験では、各類縁物質の保持時間とアスピリンの保持時間の比較により RRT を算出しました。データから、Arc HPLC システムで得られた RRT 値は、Agilent および Alliance システムでの結果と一致していることがわかりました(図 2)。全体的に、Arc HPLC システムでは、分析法を変更することなく、クロマトグラフィー分離の品質が正しく再現されていました。
Arc HPLC システムでの分析法性能を評価するため、USP モノグラフに記載されているアスピリン錠剤の要件に従って、標準混合溶液を 5 回繰り返し注入してシステム適合性を評価し5、他のシステムと比較しました。USP システム適合性要件には、以下が含まれています。
3 つのシステムすべてで得られたシステム適合性結果が、USP 基準を満たしていました(図 3)。更に、Arc HPLC システムで生成された不純物 C のピーク面積と保持時間の RSD は、USP 要件である NMT 4.0% および他の LC システムで得られた結果よりも低いという結果でした。
類縁物質の含有量(% 不純物)については、各類縁物質のピーク面積を、アスピリンのピーク面積に対して比較することにより測定しました。Arc HPLC での錠剤サンプル溶液分析のクロマトグラフィーデータの例を図 4 に示します。分析結果を、アスピリン錠剤の USP モノグラフの不純物分析法で規定されている基準と比較しました5。 コーティング錠中の不純物の USP 許容基準には、サリチル酸(不純物 C)3.0% 以下(NMT)が含まれています。Agilent 1260、Alliance、および Arc HPLC システムで得られた類縁物質の結果は USP 基準を満たしていました(表 2)。
Arc HPLC システムにおいて、Agilent 1260 Infinity II および Alliance HPLC システムで分析した、アスピリン有効成分類縁物質の分析法の再現に成功しました。Arc HPLC システムで得られたクロマトグラフィー分離、相対保持時間、システム適合性および類縁物質の分析結果は合格基準を満たしていました。
全体的に、Arc HPLC システムは、多様なプラットホームからの既存の LC 分析法を容易に受け入れて再現し、分析法の完全性を損なうことなく同等の試験結果が得られました。これにより、既存の分析法を変更して再バリデーションする必要がなくなり、装置の交換時に、分析法の変更とみなされる可能性のある調整が不要になることで、規制ガイドラインへの準拠を維持することができます。Arc HPLC は、強力な性能、高い注入精度、少ないキャリーオーバー、高い背圧耐性を実現する最新の装置です。
720007258JA、2021 年 6 月