• アプリケーションノート

MaxPeak High Performance Surface によりハイスループットプロテオミクスにおける再現性および実験の頑健性の向上が実現

MaxPeak High Performance Surface によりハイスループットプロテオミクスにおける再現性および実験の頑健性の向上が実現

  • Chris Hughes
  • Lee A. Gethings
  • Robert S. Plumb
  • Waters Corporation

要約

頑健で再現性の高い LC-MS は、大規模な臨床プロテオミクス実験に不可欠な要件です。また、使用できるサンプル量から、従来のプロテオミクス実験に比べて、より大きな内径のカラムの使用が適しています。

複雑なトリプシン消化物の品質管理サンプルを、MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを採用した LC システム ACQUITY Premier に 200 回近く注入しました。このシステムは内径 2.1 mm の CSH カラムが装着されており、SYNAPT XS 質量分析計と組み合わせて使用されます。大規模な臨床プロテオミクス試験の中で、大腸菌の消化物の CSH カラムへの注入を、設定した間隔で行いました。この実験で使用する液体クロマトグラフィー(LC)および質量分析計(MS)における特性の再現性と頑健性が優れていることを示すために、生データおよび解析済みデータを使用しています。この情報は、試験の QC、およびより広範な臨床プロテオームコホートへの適用性の両方において重要です。

クロマトグラフィーパラメーターのピーク幅と保持時間の再現性をすべての注入にわたって評価していますが、これには 800 を超えるタンパク質と 100 万を超える個々のペプチドの測定が含まれています。測定したペプチドの強度とタンパク質のシーケンスカバー率の一貫性により、6 週間にわたる実験で、全タンパク質のうちの多くが同定されました。

アプリケーションのメリット

  • HPS テクノロジーにより、金属に吸着される分子種の問題が解消
  • ルーチンで頑健性と再現性のある分析スケールの LC-MS
  • 大規模コホートの臨床プロテオミクス分析に適合

はじめに

サンプル量に制限のない臨床プロテオミクス分野への関心が高まり、従来のナノフローベースのプロテオミクス実験に使用されていたものよりもスケールの大きなクロマトグラフィーの利用に関して様々な研究が行われています。スケールの大きいクロマトグラフィーは、熟練ユーザーしか利用できないと考えられている従来のナノスケールプロテオミクス設定1よりも、一般的に使いやすく頑健で、再現性が高くなります。

ウォーターズでは、MaxPeak High Performance Surface(HPS)と呼ばれる新しいクラスのテクノロジーを開発し、これを ACQUITY Premier と呼ばれる新しい液体クロマトグラフィーシステムの開発に適用しました2。このテクノロジーは主に特定の化合物が金属表面に吸着するのを制限して、検出を向上させることを目的としていますが、調査により、分析しているサンプルからの情報が欠落していると、ユーザーがまったく気付いていない可能性があることが示唆されています。この点は、特にノンターゲット創薬分析に当てはまるため、MaxPeak HPS テクノロジーの使用はあらゆる実験手順に適していると言えます。

500 を超えるサンプルをそれぞれ 3 回ずつ注入する大規模な血漿プロテオミクス実験を実施し、この分析の間、8 サンプルごとに大腸菌のトリプシン消化物の品質管理注入を行いました。これらの QC 結果を分析することで、実験全体にわたる再現性と頑健性に関する指標を得ることができます。このアプリケーションブリーフでは、6 週間の試験期間にわたって、クロマトグラフィーと質量分析の両方で優れた再現性と頑健性が認められることを説明しています。

実験方法

サンプルの説明

2 μg の MPDS 大腸菌186003196)のサンプルを、大規模の臨床プロテオミクス実験で分析される血漿トリプシン消化物の注入と注入の間に、4 時間ごとに注入しました。6 週間の実験を通して、大腸菌のサンプルを 180 回以上にわたって注入し、Progenesis QIP、PLGS で解析し、Spotfire データ視覚化ソフトウェアで表示しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier(HPS)

カラム:

ACQUITY UPLC CSH 2.1 mm × 100 mm(HPS)

カラム温度:

55 ℃

サンプル温度:

8 °C

流速:

150 µL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

1 ~ 35% B/16 分、その後再平衡化

MS 条件

MS システム:

SYNAPT XS

イオン化モード:

エレクトロスプレーポジティブイオン

測定モード:

ToF HDMSE

取り込み範囲:

50 ~ 2000Da

コリジョンエネルギー:

ルックアップテーブル 3 を使用して CE ランプをトランスファー

キャピラリー電圧:

2.2 kV

コーン電圧:

30 V

ロックマス溶液:

Glu フィブリノペプチド B(2+、m/z 785.8426)

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

MassLynx v4.2

MS ソフトウェア:

MassLynx v4.2

インフォマティクス:

Progenesis QI for Proteomics (PQIP), PLGS 3.0.3, Spotfire (Tibco)

結果および考察

再現性 – クロマトグラフィー

図 1A には、2 回の注入(30 日間隔で実施)から得られた生データのクロマトグラムを示し、図 1B には 5 ~ 8.5 分の保持時間幅を示しています。図 2 は、同定されたすべてのペプチドのクロマトグラフィーピーク幅の分布で、溶出した大部分のピークの FWHM が 3 秒を超えていることを示しています。更に図 3 には、すべての注入から選択したトリプトファナーゼに関連するプリカーサーイオンの保持時間測定値の頻度を示しています(P0A853、TNAA_ECOLI)。変動係数(CV)は 1% 以下で、実験全体で優れたクロマトグラフィー保持時間の再現性が維持されていることが明らかに示されています。

 図 1.(A)約 30 日間隔で実施した 2 μg の大腸菌の 2 回の注入における生データのベースピークイオン(BPI)クロマトグラム。(B)狭い保持時間幅を拡大した生データの BPI クロマトグラム。 
図 2. 同定されたペプチドプリカーサーイオンのクロマトグラフィーピーク幅の分布。データは、実験全体からの 100 万を超える個々の測定値で構成されています。 
図 3. 選択したトリプトファナーゼに関連する 5 種のプリカーサーイオンの保持時間測定値の頻度。各ペプチドでの測定値の変動係数が記載されています。 

LC-MS の頑健性 – ペプチド強度と質量精度

同定されたタンパク質およびペプチドの PQIP および PLGS の解析から得られるアウトプットの 1 つは、各ペプチドのプロダクトイオン強度の合計であり、強度の頑健性をモニターする手段として使用できます。3 種類の大腸菌関連タンパク質の結果を図 4 に示します。最も強度の高いタンパク質であるトリプトファナーゼ(TNAA_ECOLI)のイオンと、強度のより低い 2 つのタンパク質、リンゴ酸脱水素酵素(P61889、MDH_ECOLI)とアルデヒド・アルコール脱水素酵素(P0A9Q7、ADHE_ECOLI)のイオンが見られます。実験の頑健性に関する更なるエビデンスは、ペプチドプリカーサーの質量精度によって得られます。この結果から、ペプチドの 95% 超が理論値の ± 5 ppm の範囲内で測定されていることが分かります(図 5)。

図 4. 各注入番号における 3 種のタンパク質についてのペプチドプロダクトイオンの強度の合計による、実験全体にわたる強度の頑健性のモニタリング 
図 5. ペプチドプリカーサー質量精度の頻度 

MS の頑健性 – タンパク質のシーケンスカバー率および同定

導出されるパラメーターの 1 つは、各タンパク質のペプチド同定から得られるタンパク質シーケンスカバー率です。タンパク質 TNAA_ECOLI についての実験全体にわたる平均シーケンスカバー率は 76%(CV 2.8%)です(図 6A)。図 6B は、同定されたすべてのタンパク質のシーケンスカバー率を示す分布グラフで、モーダル範囲が 40 ~ 49% であることを示しています。多くのプロテオミクス実験の目標は、様々なサンプル/条件を比較してタンパク質の何らかの制御を測定する前に、まずタンパク質を同定することです。一方、同じサンプルを注入したこの QC 分析では、5 週間の期間中にわたる同定の再現性を評価しました。図 7 は、実験の初期(5 日目)、中期(18 日目)、および後期(38 日目)に対応する 3 回の注入での同定結果を組み合わせて比較したベン図です。この図から、タンパク質の約 76% が実験全体にわたる複数の注入によって同定されることを示唆しています。

図 6.(A)タンパク質トリプトファナーゼのシーケンスカバー率の再現性。(B)実験で同定されたすべてのタンパク質のシーケンスカバー率の分布。 
図 7. 実験の様々な段階での注入による大腸菌タンパク質の同定 

結論

MaxPeak HPS テクノロジーにより、カラムのハードウェア材料への吸着が確実に最小限に抑えられます。分析スケールのクロマトグラフィーのルーチン作業という性質から、サンプルの制限が問題にならない場合の実験手段が示唆されました。これによりハイスループット分析が可能になります。ここでは、MaxPeak High Performance テクノロジーを採用した LC システムとカラムを使用して、大規模プロテオミクス実験で注入した QC サンプルの分析結果を示し、この SYNAPT XS を使用した LC-MS 構成で優れた頑健性と再現性が得られることを示しました。6 週間にわたる LC-MS 試験中にたびたび行った QC サンプルの注入から得られたデータの品質指標により、ペプチド強度とプリカーサーイオン保持時間の再現性が優れていることが示されました。結果として得られるタンパク質同定およびそのシーケンスカバー率も、試験全体を通して維持されていることが分かりました。

参考文献

  1. Lennon, S, Hughes, CJ, Muazzam, A, Townsend, PA, Gethings, LA, Wilson, ID, Plumb, RS.High-Throughput Microbore Ultrahigh-Performance Liquid Chromatography-Ion Mobility-Enabled-Mass Spectrometry-Based Proteomics Methodology for the Exploratory Analysis of Serum Samples from Large Cohort Studies. J. Proteome Res, 10.1021/acs.jproteome.0c00821.
  2. Mathew DeLano, Thomas H. Walter, Matthew A. Lauber, Martin Gilar, Moon Chul Jung, Jennifer M. Nguyen, Cheryl Boissel, Amit V. Patel, Andrew Bates-Harrison, Kevin D. Wyndham.Anal.Chem.2021, 93, 5773−5781.
  3. Distler, U, Kuharev, J, Navarro, P, Levin, Y. Drift Time-Specific Collision Energies Enable Deep-Coverage Data-Independent Acquisition Proteomics.Nature Methods, volume 11, pages 167–170 (2014).

720007221JA、2021 年 4 月

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