• アプリケーションノート

MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier テクノロジーの使用による、リン酸化ペプチドの回収率の向上

MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier テクノロジーの使用による、リン酸化ペプチドの回収率の向上

  • Jacob Kellet
  • Robert E. Birdsall
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

ペプチド中のリン酸基は、液体クロマトグラフィー(LC)システムやカラムハードウェアの金属表面に吸着する可能性があり、ピークのテーリング、回収率の低下、再現性の不良をもたらします。微量レベルで分析を行う場合には、装置のレスポンスの低下や金属に吸着しやすいサンプルの顕著な表面吸着のために、この問題がさらに悪化します。MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)を採用した Waters ACQUITY Premier ソリューションを、微量レベルのリン酸化ペプチドの金属による表面吸着を低減する能力について評価しました。RPLC-MS ベースの手法を使用する場合、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier システムを使用することで、従来のハードウェアと比較して、リン酸化ペプチドの MS 検出器レスポンスが最大 10 倍向上しました。観測された性能向上の一部は、MaxPeak HPS テクノロジーにより、金属に吸着しやすい分析種のテーリングが大幅に減少し、回収率が向上したことが原因で、その証拠はリン酸化ペプチドの面積レスポンス(MaxPeak HPS テクノロジーを採用した表面積に比例して増加)に表れています。この試験では、MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier ソリューションにより、金属に吸着しやすい分析種の回収率、ピーク形状、再現性が向上することで、データの質と生産性が改善できることを実証しています。 

アプリケーションのメリット

MaxPeak High Performance Surfaces を採用した Waters ACQUITY Premier ソリューションにより、従来の LC ハードウェアおよびカラムと比較して、リン酸化ペプチドの回収率、ピーク形状、再現性が大幅に改善しています。

はじめに

吸着現象およびクロマトグラフィー性能に及ぼす影響を低減するための戦略には、引き続き高い関心が寄せられています。吸着によるアーティファクト(ピークテーリングなど)のために、アッセイのばらつきが増大し、定量分析の正確性が低下する可能性があります。サンプルが微量レベルの場合、吸着によるアーティファクトとしてサンプル回収率が低下したり、分析種に対する検出器のレスポンスが悪くなるなど、この問題がさらに悪化します。このような吸着によるアーティファクトは、分析種と金属表面の間の相互作用に起因する場合があります。その根底にあるメカニズムは、電子が豊富な部分を含む分析種がルイス塩基として作用し、LC およびカラムハードウェアの金属表面の電子が少ない活性部位に非共有結合的に吸着するというものです。カルボン酸やリン酸基など、金属に吸着しやすい部分が医薬品の組成に一般的に含まれているため、金属への吸着によるアーティファクトは、製薬業界において特に懸念事項になっています。分析法開発やルーチン調査に伴うリスクやタイミングの悪い遅延を低減する取組みとして、医薬品の組成を正確に反映し、再現性のある結果が得られる、導入可能なソリューションが必要です。 

結果および考察

MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY Premier システムは、分析種/表面間相互作用に起因する吸着による損失に関連する課題に対するウォーターズの回答です。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Waters ACQUITY Premier 製品ラインは、経験と確立された知識に基づき、バリア層を用いて意図的に改変して分析種の非特異的吸着を低減することで、吸着しやすい分析種の、回収率の向上、ピーク形状の改善、良好な再現性を達成しています。この試験の目的は、逆相液体クロマトグラフィー手法を用いた、微量レベルでのリン酸化ペプチド分析における ACQUITY Premier システムのメリットを実証することです。

MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier ソリューションにより、従来の金属表面で構成したシステムと比較して、サンプルの回収率とピーク形状がどのように改善するかを検討するために、3 種類のシステム構成を比較しました。用いた構成は、ステンレススチール製カラムを備えた従来の LC システム、ACQUITY Premier カラムで構成した従来の LC システム、および ACQUITY Premier ソリューション(MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier カラムで構成した ACQUITY Premier システム)です。この試験では Waters MassPREP リン酸化ペプチド標準エノラーゼ(Waters 製品番号:186003285)の一リン酸化ペプチド(配列 VNQIGpTLSESIK、モノアイソトピック質量 1368.6776 Da)を使用して、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier の性能を評価しました。リン酸は、その電子が豊富な構造により金属イオンと複合体を形成するため、MaxPeak High Performance Surfaces テクノロジーを評価するための理想的なプローブとなり、さらにリン酸を含む分析種の分析における ACQUITY Premier テクノロジーの潜在的な影響も確認できます。 

簡単に説明すると、2.0 µL のサンプル(3 pmol/µL)を注入して、1.85% B/分のグラジエント(MP A:H2O、0.1% v/v FA、MP B:MeCN、0.1% v/v FA)を使用した逆相 LC 条件で分離しました。ACQUITY QDa シングル四重極型質量分析計をデータ取り込みに使用し、最大の感度を得るために、選択イオンレコーディング(SIR)モードを使用しました(装置設定は図 1 を参照)。Empower 3.0(FR 4)を使用して、ピーク同定およびデータ解析を行いました。ACQUITY UPLC CSH C18 カラム(製品番号: 186005297)で構成した ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システムを従来の LC システムとし、ACQUITY Premier ソリューション(ACQUITY Premier CSH カラム(製品番号:186009488)で構成した ACQUITY Premier システム)と比較しました。 

図 1.  HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier。A)一リン酸化ペプチド(配列 VNQIGpTLSESIK、平均質量 1369.4 Da)の [M+2H]+2 チャージ状態(m/z = 685.0)の選択イオンクロマトグラム(SIR)を用いて、従来の LC システムおよびカラム(上のパネル)、ACQUITY Premier カラムで構成した従来の LC システム(中央のパネル)、ACQUITY Premier カラムで構成した ACQUITY Premier システム(下のパネル)の MS レスポンスを測定しました。B)リン酸化ペプチドピークの SIR に対応する平均ピーク面積と標準偏差を一連の 3 回繰り返し注入を用いて計算しました。ACQUITY QDa 質量検出器の設定:プローブ温度 = 600 ℃、キャピラリー電圧 = 1.5 kV、コーン電圧 = 10 V、SIR = 685.0 m/z。

図 1A に示すように、ステンレススチール製カラムで構成した従来の LC で分離を行ったところ、オンカラム質量 8 ng のリン酸化ペプチドをロードした場合に、顕著な吸着特性を示し、ピークテーリングと顕著なピークの広がりが見られて、最大シグナルは 1.1 × 106 イオンカウントでした(オレンジ色のトレース)。一方、同じ分離を MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Waters ACQUITY Premier カラムで行うと、ピークテーリングとピーク形状が大幅に改善し、シグナル強度が 8 倍に増大して、最大シグナルレスポンスが 9.3 × 106 イオンカウントになりました(緑色のトレース)。さらに注目すべきことに、ACQUITY Premier ソリューション(ACQUITY Premier カラムで構成した ACQUITY Premier システム)を使用して分離を行った場合、図 1A の紫色のトレースに示すように、ステンレススチール製のカラムを使用した従来のシステムと比較して、MS レスポンスで 10 倍の増大(イオンカウント = 1.1 × 107)が認められました。MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier ソリューションを用いた場合の性能の向上は、吸着しやすい分析種のテーリングなどの金属への吸着によるアーティファクトの低減だけでなく、微量レベルでのサンプル回収率の改善にも起因しています。このことは、図 1B に示すように、表面での相互作用の関数としてピーク面積のレスポンスにより実証されます。この例では、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier カラムでは、サンプル回収率が最大になり、従来の LC システムと比較するとピーク面積が 2 倍増大しました。これは、カラムハードウェア(フリットおよびハウジングなど)の表面積の方が LC システムの表面積と比べて寄与が大きいためです。一方、リン酸化分析種の最大の回収率は、ACQUITY Premier ソリューション(ACQUITY Premier カラムで構成した ACQUITY Premier システム)を使用してはじめて達成され、ACQUITY Premier カラムのみを使用した場合と比較して、リン酸化ペプチドの回収率がさらに 25% 向上しました。これらの結果により、最適なクロマトグラフィー性能を得るために MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier ソリューションを統合型ソリューションとして導入した場合に、金属に吸着しやすい分析種に対する効率的な分析法開発と正確なモニタリングが可能になり、ラボの生産性が向上することが実証されました。 

結論

従来の金属製ハードウェアで構成した LC システムを使用した場合、分析種の非特異的吸着により、サンプルの回収率が低下し、ピーク形状が不良になることがあります。MaxPeak High Performance Surfaces を採用した Waters ACQUITY Premier ソリューションでは、非特異的吸着に関連する課題に対処し、吸着しやすい分析種の回収率、ピーク形状、再現性が向上しています。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier システムにより性能の向上が実現し、これにより、ラボの生産性が高まり、バイオ医薬品の開発と製造において行われるアッセイの再現性、回収率、頑健性を向上させることでリスクを軽減することができます。 

720007198JA、2021 年 3 月

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