金属に吸着しやすい分析種の HPLC 分離は、HPLC 装置およびカラムの金属表面と分析種の間の相互作用に影響されることが知られています。これにより、ピークの広がりやテーリングから、ピーク面積の減少や注入間のばらつきの増大に至るまで、さまざまな影響が生じます。ACQUITY Premier ソリューションでは、新しい表面テクノロジーである MaxPeak High Performance Surfaces を採用することで、これらの影響を軽減しています。ここでは、鉄キレート剤デフェロキサミンの UPLC 分離について、標準の UPLC システムおよびカラムと ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られた結果を比較しています。その結果、ACQUITY Premier ソリューションを使用することでピーク面積が増加し、注入間の再現性が改善することがわかりました。
鉄キレート剤は、鉄過剰症の治療に使用されており1、免疫調節作用もあるため、新型コロナウイルス感染症など、微生物感染症やウイルス感染症の治療に有用である可能性があります2,3。これらの薬剤の 1 つにデフェロキサミン(ブランド名 Desferal で販売)があります。HPLC を用いたデフェロキサミンの分析において、クロマトグラフィーシステムにおける鉄との複合体化により、予想外のピークが生じ、保持時間のばらつきが生じることが報告されています4。これらの影響を軽減するために、システムとカラムをデフェロキサミンの溶液でパージし、移動相に EDTA を加えました。これらの手順は効果的ですが、分離に時間がかかって複雑になり、また移動相に EDTA を使用すると、この方法が質量分析検出に適合しなくなります。今回、デフェロキサミンの分析における ACQUITY Premier システムと ACQUITY Premier カラム(以後あわせて ACQUITY Premier ソリューションと呼びます)の評価について説明します。ACQUITY Premier ソリューションでは、新しい表面テクノロジー(MaxPeak High Performance Surfaces)を採用して、金属に吸着しやすい化合物と UPLC システムおよびカラムの金属表面との相互作用を軽減しています5。従来の UPLC システムとカラムを使用して得られた結果との比較を行いました。
デフェロキサミンメシル酸塩およびチオ尿素は Millipore Sigma から購入しました。ストック溶液は、それぞれ 10% アセトニトリル/90% 水中に 1 mg/mL、90% アセトニトリル/10% 水中に 2 mg/mL の濃度で調製しました。注入再現性試験の混合試料には、300 μg/mL チオ尿素と 5 μg/mL デフェロキサミンメシル酸塩が、5% アセトニトリル/95% 10 mM ギ酸アンモニウム水溶液 pH 3.00 中に含まれていました。ボイドボリューム(V0)のマーカーとしてチオ尿素を使用しました。新しいカラムに、この混合物を注入量 2 µL で 3 回連続注入しました。検量線の調査では、デフェロキサミンメシル酸塩を、5% アセトニトリル/95% 10 mM ギ酸アンモニウム水溶液 pH 3.00 中に濃度 1、2.5、5、10、20、30 μg/mL になるように調製しました。
LC 条件 |
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システム: |
ACQUITY UPLC H-Class QSM(CM 付き FTN サンプルマネージャーを搭載) ACQUITY Premier H-Class QSM(CM 付き FTN サンプルマネージャーを搭載) |
検出: |
ACQUITY QDa 質量検出器 |
カラム: |
ACQUITY Premier HSS T3、1.8 μm、2.1 × 50 mm ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1 × 50 mm |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
注入量: |
2 µL |
流速: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3) |
移動相 B: |
95/5 アセトニトリル/200 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3) |
グラジエント: |
2.65 分で 5 ~ 50% B(リニアグラジエント) |
注入あたりの実行時間: |
5 分 |
システム: |
ACQUITY QDa |
質量スキャン範囲: |
50 ~ 800 Da |
イオン化モード: |
ポジティブスキャン |
コーン電圧: |
15 V |
サンプリングレートの目標値: |
8 ポイント/秒 |
キャピラリー電圧: |
ポジティブ 1.5 kV |
SIR 極性(+): |
ポジティブ |
チオ尿素の SIR 質量(DA): |
77 |
デフェロキサミンの SIR 質量(DA): |
561 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 FR 4 |
図 1 に示すように、デフェロキサミンは高極性の強塩基性化合物で、logP は -2.2 です。そこで、HSS T3 カラムをその極性塩基性化合物に対する保持能を活用するために選択しました。デフェロキサミンの UV 吸光度は弱いため、ACQUITY QDa 質量検出器を使用しました。ギ酸アンモニウム(pH 3)を含む水系移動相を用いたアセトニトリルグラジエントを使用して、良好なピーク形状と感度が得られました。図 2B に示すように、標準的な UPLC システムとカラムを使用した場合、デフェロキサミンのピーク面積のばらつきが比較的大きく、10 回の注入にわたる相対標準偏差(RSD)は 16.8% でした。図 3 に示すように、他の金属に吸着しやすい分析種で見られるのと同様に、10 回の注入にわたってピーク面積が徐々に増加しています6。 一方、ACQUITY Premier ソリューションを使用した場合、デフェロキサミンのピーク面積の RSD は 10 回の注入にわたってわずか 2.1% でした。また、平均ピーク面積は、標準のシステムおよびカラムを使用した場合と比較して 62% 高い値でした。この差は、t 検定による信頼性が 95% を超え、統計的に有意であることがわかりました。金属表面との相互作用によるピーク面積の減少は、低質量負荷で最も悪化することが示されているため5、ACQUITY Premier ソリューションと標準の UPLC システムとカラムの両方を使用して、さまざまな負荷(2 ~ 60 ng の範囲)でデフェロキサミンのピーク面積を測定しました。図 4 に示すように、ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られたピーク面積が、最も低い負荷で最も大きく増加したことが結果からわかります。負荷が 2 ~ 5 ng の場合、ピーク面積が標準のシステムおよびカラムと比較して約 60% 高く、負荷が 40 ~ 60 ng の場合、ピーク面積が約 32% 高い結果になりました。
これらの結果から、ACQUITY Premier ソリューションでは、標準的な UPLC システムおよびカラムと比較して、デフェロキサミンについてピーク面積がより大きく、ピーク面積の再現性がより良好であることが示されています。また、ACQUITY Premier ソリューションと標準的な UPLC システムおよびカラムのピーク面積の相対差も、質量負荷の減少とともに増加することが示されました。これらの結果は、ACQUITY Premier ソリューションを使用した場合に、他の金属に吸着しやすい分析種について以前に報告された結果と一致しています。また、このような分析種の分析におけるこのソリューションの価値をさらに実証しています。金属表面への吸着を示す他の分析種の大半とは異なり、デフェロキサミンは塩基性であり、リン酸基やカルボン酸基がないことが注目されます。このことから、酸性基を持たない他の鉄キレート剤でも ACQUITY Premier ソリューションを使用するメリットがある可能性が示唆されます。
720007239JA、2021 年 4 月