• アプリケーションノート

ACQUITY Premier ソリューションによるデフェロキサミン(鉄キレート剤)の UPLC-MS 分析の改善

ACQUITY Premier ソリューションによるデフェロキサミン(鉄キレート剤)の UPLC-MS 分析の改善

  • Cheryl Boissel
  • Thomas H. Walter
  • Stephen J. Shiner
  • Waters Corporation

要約

金属に吸着しやすい分析種の HPLC 分離は、HPLC 装置およびカラムの金属表面と分析種の間の相互作用に影響されることが知られています。これにより、ピークの広がりやテーリングから、ピーク面積の減少や注入間のばらつきの増大に至るまで、さまざまな影響が生じます。ACQUITY Premier ソリューションでは、新しい表面テクノロジーである MaxPeak High Performance Surfaces を採用することで、これらの影響を軽減しています。ここでは、鉄キレート剤デフェロキサミンの UPLC 分離について、標準の UPLC システムおよびカラムと ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られた結果を比較しています。その結果、ACQUITY Premier ソリューションを使用することでピーク面積が増加し、注入間の再現性が改善することがわかりました。 

アプリケーションのメリット

  • ACQUITY Premier ソリューションでは、デフェロキサミンについて、標準的な UPLC システムおよびカラムと比較してより大きく一貫したピーク面積を実現
  • ACQUITY Premier ソリューションを使用して再現性のある分離を得る際に、コンディショニングや特殊な移動相添加剤は不要に

はじめに

鉄キレート剤は、鉄過剰症の治療に使用されており1、免疫調節作用もあるため、新型コロナウイルス感染症など、微生物感染症やウイルス感染症の治療に有用である可能性があります2,3。これらの薬剤の 1 つにデフェロキサミン(ブランド名 Desferal で販売)があります。HPLC を用いたデフェロキサミンの分析において、クロマトグラフィーシステムにおける鉄との複合体化により、予想外のピークが生じ、保持時間のばらつきが生じることが報告されています4。これらの影響を軽減するために、システムとカラムをデフェロキサミンの溶液でパージし、移動相に EDTA を加えました。これらの手順は効果的ですが、分離に時間がかかって複雑になり、また移動相に EDTA を使用すると、この方法が質量分析検出に適合しなくなります。今回、デフェロキサミンの分析における ACQUITY Premier システムと ACQUITY Premier カラム(以後あわせて ACQUITY Premier ソリューションと呼びます)の評価について説明します。ACQUITY Premier ソリューションでは、新しい表面テクノロジー(MaxPeak High Performance Surfaces)を採用して、金属に吸着しやすい化合物と UPLC システムおよびカラムの金属表面との相互作用を軽減しています5。従来の UPLC システムとカラムを使用して得られた結果との比較を行いました。 

実験方法

サンプル前処理

デフェロキサミンメシル酸塩およびチオ尿素は Millipore Sigma から購入しました。ストック溶液は、それぞれ 10% アセトニトリル/90% 水中に 1 mg/mL、90% アセトニトリル/10% 水中に 2 mg/mL の濃度で調製しました。注入再現性試験の混合試料には、300 μg/mL チオ尿素と 5 μg/mL デフェロキサミンメシル酸塩が、5% アセトニトリル/95% 10 mM ギ酸アンモニウム水溶液 pH 3.00 中に含まれていました。ボイドボリューム(V0)のマーカーとしてチオ尿素を使用しました。新しいカラムに、この混合物を注入量 2 µL で 3 回連続注入しました。検量線の調査では、デフェロキサミンメシル酸塩を、5% アセトニトリル/95% 10 mM ギ酸アンモニウム水溶液 pH 3.00 中に濃度 1、2.5、5、10、20、30 μg/mL になるように調製しました。 

分析条件

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC H-Class QSM(CM 付き FTN サンプルマネージャーを搭載)

ACQUITY Premier H-Class QSM(CM 付き FTN サンプルマネージャーを搭載)

検出:

ACQUITY QDa 質量検出器

カラム:

ACQUITY Premier HSS T3、1.8 μm、2.1 × 50 mm

ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1 × 50 mm

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量:

2 µL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3)

移動相 B:

95/5 アセトニトリル/200 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3)

グラジエント:

2.65 分で 5 ~ 50% B(リニアグラジエント)

注入あたりの実行時間:

5 分

MS 条件

システム:

ACQUITY QDa

質量スキャン範囲:

50 ~ 800 Da

イオン化モード:

ポジティブスキャン

コーン電圧:

15 V

サンプリングレートの目標値:

8 ポイント/秒

キャピラリー電圧:

ポジティブ 1.5 kV

SIR 極性(+):

ポジティブ

チオ尿素の SIR 質量(DA):

77

デフェロキサミンの SIR 質量(DA):

561

グラジエントテーブル

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 FR 4

結果および考察

図 1 に示すように、デフェロキサミンは高極性の強塩基性化合物で、logP は -2.2 です。そこで、HSS T3 カラムをその極性塩基性化合物に対する保持能を活用するために選択しました。デフェロキサミンの UV 吸光度は弱いため、ACQUITY QDa 質量検出器を使用しました。ギ酸アンモニウム(pH 3)を含む水系移動相を用いたアセトニトリルグラジエントを使用して、良好なピーク形状と感度が得られました。図 2B に示すように、標準的な UPLC システムとカラムを使用した場合、デフェロキサミンのピーク面積のばらつきが比較的大きく、10 回の注入にわたる相対標準偏差(RSD)は 16.8% でした。図 3 に示すように、他の金属に吸着しやすい分析種で見られるのと同様に、10 回の注入にわたってピーク面積が徐々に増加しています6。 一方、ACQUITY Premier ソリューションを使用した場合、デフェロキサミンのピーク面積の RSD は 10 回の注入にわたってわずか 2.1% でした。また、平均ピーク面積は、標準のシステムおよびカラムを使用した場合と比較して 62% 高い値でした。この差は、t 検定による信頼性が 95% を超え、統計的に有意であることがわかりました。金属表面との相互作用によるピーク面積の減少は、低質量負荷で最も悪化することが示されているため5、ACQUITY Premier ソリューションと標準の UPLC システムとカラムの両方を使用して、さまざまな負荷(2 ~ 60 ng の範囲)でデフェロキサミンのピーク面積を測定しました。図 4 に示すように、ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られたピーク面積が、最も低い負荷で最も大きく増加したことが結果からわかります。負荷が 2 ~ 5 ng の場合、ピーク面積が標準のシステムおよびカラムと比較して約 60% 高く、負荷が 40 ~ 60 ng の場合、ピーク面積が約 32% 高い結果になりました。 

図 1.  デフェロキサミン(DFO)の化学構造と主要な特性
図 2.(A)ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られたデフェロキサミンメシル酸の 10 回の繰り返し注入を示す重ね描き。(B)標準の UPLC システムと標準のカラムを使用した、同じ分析種の 10 回の繰り返し注入を示す重ね描き。ACQUITY UPLC HSS T3、100Å、1.8 μm、2.1 × 50 mm カラムをこの試験で使用しました。デフェロキサミンメシル酸塩の質量負荷は 10 ng でした。10 mM ギ酸アンモニウム(pH 3.0)水系移動相、流速 0.5 mL/分、温度 30 ℃ で、アセトニトリルグラジエント分離を行いました。デフェロキサミンのピークは、ACQUITY QDa 検出器を用い、SIR ポジティブ m/z 561.0 で検出しました。 
図 3.  デフェロキサミンの連続 10 回の注入について、ACQUITY Premier ソリューションを使用して得られたピーク面積(青色の円)と、標準の UPLC システムおよびカラムを使用して得られたピーク面積(オレンジ色の四角)とを比較したプロット
図 4.  ACQUITY Premier ソリューションを用いて得られたデフェロキサミンのピーク面積を、標準 UPLC システムおよびカラムを用いて得られたピーク面積と比較した場合の相対的な増加を、デフェロキサミンメシル酸のオンカラム質量負荷に対してプロットした結果。分離条件は図 2 の条件と同じです。 

結論

これらの結果から、ACQUITY Premier ソリューションでは、標準的な UPLC システムおよびカラムと比較して、デフェロキサミンについてピーク面積がより大きく、ピーク面積の再現性がより良好であることが示されています。また、ACQUITY Premier ソリューションと標準的な UPLC システムおよびカラムのピーク面積の相対差も、質量負荷の減少とともに増加することが示されました。これらの結果は、ACQUITY Premier ソリューションを使用した場合に、他の金属に吸着しやすい分析種について以前に報告された結果と一致しています。また、このような分析種の分析におけるこのソリューションの価値をさらに実証しています。金属表面への吸着を示す他の分析種の大半とは異なり、デフェロキサミンは塩基性であり、リン酸基やカルボン酸基がないことが注目されます。このことから、酸性基を持たない他の鉄キレート剤でも ACQUITY Premier ソリューションを使用するメリットがある可能性が示唆されます。 

参考文献

  1. Mobarra, N.; Shanaki, M.; Ehteram, H.; Nasiri, H.; Sahmani, M.; Saeidi, M.; Goudarzi, M.; Pourkarim, H.; Azad, M. A Review on Iron Chelators in Treatment of Iron Overload Syndromes. Int.J. Hematol.Oncol.Stem Cell Res.2016, 10(4), 239–247.  
  2. Williams, A.; Meyer, D. Desferrioxamine as Immunomodulatory Agent During Microorganism Infection.Curr.Pharm.Des.2009, 15, 1261–1268. 
  3. Dalamaga, M.; Karampela, I.; Mantzoros, C. S. Commentary: Could Iron Chelators Prove to be Useful as an Adjunct to COVID-19 Treatment Regimens? Metab.Clin.Exp.2020, 108, 154260. 
  4. Cramer, S. M.; Nathanael, B.; Horvath, C. High-Performance Liquid Chromatography of Deferoxamine and Ferrioxamine: Interference by Iron Present in the Chromatographic System, J. Chromatogr. 1984, 295, 405–411. 
  5. Walter, T. H.; Trudeau, M.; Simeone, J.; Rainville, P.; Patel, A. V.; Lauber, M. A.; Kellett, J.; DeLano, M.; Brennan, K.; Boissel, C.; Birdsall, R.; Berthelette, K. Low Adsorption UPLC Systems and Columns Based on MaxPeak High Performance Surfaces: The ACQUITY Premier Solution.Waters White Paper, 720007128EN, Feb. 2021. 
  6. Walter, T. H.; Murphy, B. J.; Jung, M. C.; Gilar, M.; Birdsall, R. E.; Kellett, J. Faster Time to Results for Ultra-Performance Liquid Chromatographic Separations of Metal-Sensitive Analytes.Chromatography Today Feb/March 2021, 40–44. 

720007239JA、2021 年 4 月

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