研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
このアプリケーションノートでは、標準化したプロトコルを使用して、複数の脂質クラスに属する 100 種の認証済み標準試料で構成されるサンプルセットについて、RT および CCS の情報を取得し、Broeckling ら による予測 TWCCSN2 モデルをバリデーションします。
脂質は重要な生体分子としてよく知られており、シグナル伝達、膜へのアンカリング、エネルギー貯蔵など、さまざまな分子機能で多様な役割を果たします。リピドームに関する知見を得るために、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC-MS)などの分析テクノロジーはルーチン分析手段となっており、これによって包括的でハイスループットで頑健なソリューションが提供されます。高分解能戦略を使用した探索ベースのワークフローにより、複雑なサンプルのプロファイリングが可能になり、多数の脂質の同定候補を提供します。探索リピドミクスにとって大きな障害は、データベース検索から対象の脂質を正確で確実に同定する能力です。保持時間(RT)や衝突断面積(CCS)などの追加の生理化学的特性や診断 MS/MS 情報を検索スペースに組み込むことで、返される識別情報の信頼性を高めることができます。
CCS は、脂質分子種の化学構造や 3 次元立体配座に密接に関連する重要な物理化学的特性ですが、サンプルマトリックスの種類や複雑さとは無関係です1。このため CCS 値は、RT や m/z などの他の分子識別子に加えて、直交する特性として使用することで、脂質同定の特異性を高めることができます1。in-silico で、および実験で導出したいくつかの CCS データベースが、Paglia ら によって報告されているように、これまでに公開されていますが1、偽陽性率が高く、多くの場合、同定に生物学的関連性が欠けています。CCS データベースに実験的に測定された CCS 値を追加するのが理想的ですが、市販されている脂質標準試料の数が限られているため、十分な対象範囲を得るには in-silico 測定が必要です。
本研究では、標準化したプロトコルを使用して、複数の脂質クラスに属する 100 種の認証済み標準試料で構成されるサンプルセットについて、RT および CCS 情報を取得し、Broeckling ら による予測 TWCCSN2 モデルをバリデーションしました2。実験的に得られた測定値と予測値の間に強い相関関係が確立されたことにより、ライブラリーの残りの脂質に in-silico CCS 値を入力できました。フラグメントイオンの情報もライブラリーに追加され、複数の付加イオンの種類が説明されます。ヒト血漿および組織(心臓および肝臓)からの抽出物を、内因性分子種を同定するための追加の試験サンプルとして使用しました。
CCS 予測ツールの正確度を評価するために、さまざまな脂質の標準試料を取り込みました。これらは 14 クラスにわたる 69 種の個別の脂質で構成されており(Avanti Lipids、米国アラバマ州)、これらは逆相(RP)クロマトグラフィーで明確に異なる挙動を示す(共溶出を防ぐため)7 種以下の脂質/混合物を含むサンプルグループに分けて、IPA に溶解させました。サンプルは、標準試料のカスタム混合試料として、3 つの濃度レベルで 3 回繰り返して注入しました。さらに、Odd Chain LIPIDOMIX、Light Splash LIPIDOMIX、Differential Ion Mobility System Suitability LIPIDOMIX、Ceramide LIPIDOMIX、Splash LIPIDOMIX、Deutrated Ceramide LIPIDOMIX を、IPA で 1:10 および 1:100 に希釈して、繰り返し注入しました(n = 3)。
追加のクラスベースの脂質抽出物(PS、PE、PG、Cer、SM 混合物)を 0.1 mg/mL および 0.01 mg/mL に調製し、技術的な 3 回繰り返しとして取り込みした。これらを使用して、選択した脂質の生物学的関連性を確認し、信頼性を高めました。ライブラリーの有用性を評価するために、ヒトの血漿、肝臓、心臓組織からの抽出物をスクリーニングしました。
LC システム: |
ACQUITY Premier UPLC |
カラム: |
ACQUITY Premier CSH C18、2.1 × 100 mm、1.7 µm |
カラム温度: |
55 ℃ |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル/水/1 M ギ酸アンモニウム(600/390/10)(A)および 0.1% ギ酸含有 IPA/アセトニトリル/1 M ギ酸アンモニウム(900/90/10)(B) |
分析時間: |
12 分 |
注入量: |
1~4 μL |
MS システム: |
SYNAPT XS |
イオン化モード: |
ESI(+/-) |
キャピラリー電圧: |
3 kV (+);2.5 kV (-) |
測定モード: |
HDMSE |
取り込み範囲: |
50 ~ 1200 Da |
コリジョンエネルギー: |
直線ランプ(トランスファー CE) 25 ~ 45 eV |
コーン電圧: |
30 V |
ソース温度: |
120 ℃ |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
脱溶媒流量: |
1,000 L/時間 |
ヘリウムセルのガス流量: |
180 mL/分 |
IMS のガス流量(窒素): |
90 mL/分 |
IMS 波速: |
900 m/秒 |
IMS 波高: |
40 V |
MassLynx、UNIFI、Progenesis QI
カスタム混合物に含まれている、および市販されている 100 種を超える個別の脂質を使用して、in-silico CCS 予測をバリデーションしました2。 脂質標準試料は、すべての主要な脂質クラスをカバーし、脂質構造の広い断面積を確保するように選択しました。測定した脂質標準試料の平均 CCS 測定値は、以下のパーセンテージの差を計算することで予測値と比較します。
CCS の測定値と in-silico予測値を比較した結果、すべてのクラスで高い相関性が認められました。図 1 に、3 つの脂質クラスの例が示されており、r2 > 0.96 の優れた直線性が得られたことが強調されています。
飽和しているピーク、CCS の測定値と予測値の間の誤差が 5% 以上のピーク、および保持時間の偏差が 0.1 分以上のピークを除外しました。偽陽性のヒットを減らすために保持時間を補正後、実験データの 96.8%(陽イオン)および 95.5%(陰イオン)が、その in-silico 値と比較したところ、CCS の許容誤差である ± 5% 以内に収まることがわかり、以前に報告されたデータによる試験結果が確認されました2。
計 32 種および 16 種の脂質クラスが、それぞれ陽イオンおよび陰イオンの CCS 値とともに示されています。CCS の分布は、143 ~ 349 Å(陽イオン)および 124 ~ 334 Å(陰イオン)の範囲です。陽イオンに対応する脂質クラスのサブセットについての CCS の分布例が、図 2 に示されています。
化合物を確実に正確で高い信頼性で同定するためには、包括的で適切にキュレーションされたデータベースを利用できることが重要です。そのため、ここで紹介する包括的な脂質データベースは、これらのニーズに対応するために、3,200 の脂質のエントリーで構成されており、ポジティブ ESI とネガティブ ESI の両方に共通の付加イオンのほとんどが含まれています。図 3 に両イオン化モード間での脂質のエントリーの分布が示されており、図 4 には両イオン化モードでの付加イオンが示されています。示している 3,200 種の脂質のうち、43% のエントリーは両方のイオン化モードで示されています。これには、識別情報の信頼性が高くなる利点があります。例えば、リン脂質を検討する際に、ヘッドグループと脂肪酸のアシル鎖の両方を特性解析する能力が可能になります。
ライブラリーの生成に使用したクロマトグラフィー分析法は、12 分のサイクル時間で構成されており、この分析法は、以前に大規模なリピドミクス試験で、特異的かつ頑健で、再現性が高いことが実証されています3。 さらに、この方法では、ACQUITY Premier システムのハイブリッド表面テクノロジーの利点も活用されます。このテクノロジーでは、リン酸化脂質分子種およびカルボキシル化脂質分子種の感度と回収率が、大幅に向上します(アプリケーションノート 720007092JA)。CCS のバリデーションに使用した 100 種の脂質標準試料に関連する保持時間の値も確認に使用し、データベースに追加しました。血漿抽出物のクロマトグラフィーの例が、実験的に測定した脂質標準試料の RT の分布とともに、図 5 に示されています。
ライブラリーの有用性を示すために、さまざまな内因性マトリックスについてデータベース検索を行いました。ライブラリーは柔軟性が最大限になるように構築されており、Progenesis QI または UNIFI 解析ソフトウェアを用いて検索できます。図 6 に、Progenesis QI 検索を用いた内因性 TG (44:2)の同定が示されています。ウォーターズの脂質プロファイリングライブラリーの検索結果を LipidMaps の検索結果と比較すると、ウォーターズの脂質ライブラリーを使用した場合に、フラグメントイオンスコアが 42% 高く、全体的な同定スコア(CCS および MS/MS を含む)が 17% 高い結果でした。同定スコアに認められたこの増加は、CCS および MS/MS の情報によって得られた特異性の向上によるものです。図 7 に、CCS を展開することが、どのようにデータベース検索後に返される多数の識別情報をフィルタリングする役に立つかが、強調されています。
同様に、Odd Chain LIPIDOMIX をスパイクしたヒト血漿に対応するデータを、UNIFI を使用して解析しました(図 8)。SM(d18:1/12:0) に関連する MS/MS が、陽イオンデータと陰イオンデータの両方について示されており、ライブラリーで一致したフラグメントイオンが明確にマークされています。
720007317JA、2021 年 7 月