このアプリケーションブリーフでは、モノクローナル抗体(mAb)のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析法の業界標準 HPLC システムから Waters Arc HPLC システムへの移管を説明しています。同等の保持時間、モノマー面積割合、高分子量分子種、低分子分解物、および再現性が両システムで得られました。
サイズ排除クロマトグラフィーは、バイオ医薬品業界で、バイオ医薬品を評価するために使用される一般的な LC 分析法の一つです。SEC 分析法では一般に高塩濃度が使用されるため、バイオイナートシステムまたは生体適合 LC システムが好まれることがありますが、装置の可用性のために、必ずしもこれらのシステムが使用できるわけではありません。ステンレススチールの LC システムは、分析終了時にシステムをフラッシュ洗浄するなどの適切な手入れを行うことにより、SEC セパレーションに使用することができます。
本研究では、モノクローナル抗体(mAb)バイオ医薬品であるトラスツズマブの SEC 分析法の、業界標準 HPLC システムから Arc HPLC への移管を実証します。高分子量(HMW)分子種を含むタンパク質凝集体は、好ましくない免疫原性作用および有効性の低下と関連していることがわかっています1。そのため、SEC 分析法は、装置とは無関係に、HMW 分子種を、他の分解物と共に再現性よく定量できることが重要です。この研究では、SEC 分析法を、標準 HPLC システムと Arc HPLC システムの間で移管できることを説明します。
タンパク質凝集体または HMW 分子種は、バイオ医薬品の安全性および有効性に影響する可能性があります1。 mAb およびその他のタンパク質ベースの薬物の製品ライフサイクルで、SEC は、HMW および低分子量(LMW)分解物の両方の存在をモニターするために使用される、一般的な分離法です。通常、LMW 分解物は、非酵素的なペプチド結合の加水分解によって生じます2。
トラスツズマブは乳がんの治療に使用される抗 HER2 IgG1 mAb です3。 トラスツズマブ(有効期限後)の SEC 分析を、2 つの HPLC システム(業界標準 HPLC システムおよび Arc HPLC システム)で実施しました。2 つのシステムの間で、保持時間および分解能が同程度の同等なクロマトグラフィープロファイルが観察されました(図 1)。両方のクロマトグラムで、単一の HMW のピークと 1 つの LMW のピーク(「LMW2」とラベル付け)がメインのモノマーピークからベースライン分離されていました。モノマーピークに隣接して、部分的に分離されたショルダーピーク(「LMW1」とラベル付け)が観察されました。分析法の移管可能性を考慮して、モノマーピークはこのショルダーを含むように波形解析しました。
表 1 と表 2 に、5 回の繰り返し注入についての平均保持時間(RT)およびピーク面積 % が、対応する標準偏差および % RSD と共に示されています。3 つのピークそれぞれの 5 回の注入にわたる平均 RT、およびこれら 2 つのシステムについての % RSD は同等でした。保持時間のシフトは約 0.02 分で、すべてのピークの RT の再現性は 0.1% RSD 以内でした。
SEC 分離の最も重要な目標の一つは、凝集体(HMW 分子種)の割合を測定することです。凝集は、好ましくない免疫原性反応および有効性の低下を引き起こすことから、タンパク質医薬品の開発における主要な課題です。表 2 に、モノマーピークおよび HMW 分子種と LMW2 分子種のピーク面積割合と再現性がまとめられています。面積 % を比較すると、HMW、モノマー、LMW2 の差は 0.01% 以内であり、両システムにわたるすべての分析種の % RSD は 2% 以内であることがわかります。
図 1 では、標準 HPLC システムよりも Arc HPLC システムの方で、メインのモノマーピークとショルダーピーク LMW1 の間の谷がわずかにより深いことが目視で観察されます。ピーク高さの 50% でのピーク幅(σ での幅)およびピーク高さの 4.4% でのピーク幅(5σ での幅)を比較すると、Arc HPLC システムの方が標準 HPLC システムよりピーク幅がわずかに狭くなっています(表 3)。Arc HPLC システムのモノマーピークでは、テーリングファクターもわずかにより低くなっていました。全体として、Arc HPLC システムでのモノマーと LMW1 の間のピークバレー比(p/v)は 1.32 で、HPLC システムでは 1.02 です。Empower クロマトグラフィーデータシステム(CDS)は、モノマーと LMW1 のピークの間の谷で線を引いて波形解析し、LMW1 の面積 % を求めることができます。LMW1 の面積 % は、標準 HPLC システムでは 1.58% 、Arc HPLC システムでは 1.00% でした。一方、モノマーと LMW1 の合計は同じままでした(図 2)。クロマトグラフィー性能はシステムごとに異なることがありますが、このケーススタディでは、SEC 分析において、Arc HPLC システムは、標準 HPLC システムと比較して(より優れているとは言えなくても)同等の性能を達成できることが実証されました。
トラスツズマブの SEC 分析法が、業界標準 HPLC システムから Arc HPLC システムに正常に移管されました。両システムでの保持時間の差は 0.02 分以内でした。重要品質特性である HMW 分子種の割合の差は、両システムの間で 0.01% 以内でした。面積 % の再現性は、すべての分子種について 2% RSD 以内でした。さらに、Arc HPLC システムでは、標準 HPLC システムよりわずかに狭いピークが得られ、メインのモノマーとショルダーピーク LMW1 の間の p/v レシオがより大きくなりました。
720006962JA、2020 年 7 月