注入精度は重要な分析法特性であり、そのため、通常は規定分析法のシステム適合性の一部です。最新のインジェクターは、ほとんどの分析法の注入精度要件を満たすように設計されていますが、多くの規定分析法には、仕様を決定するために使用されたベンダーの分析法の条件とは異なる条件を採用している、厳格な要件があります。これらの要因により、システムがシステム適合性要件にルーチンで適合しないことがあります。このアプリケーションノートでは、Arc HPLC システムの注入精度を、特に米国薬局方(USP)モノグラフのシステム適合性要件に焦点を合わせてて説明します。選択したモノグラフは、100% 有機希釈液、厳密な精度要件(RSD ≤ 0.5% など)、および高注入量と低サンプル濃度の組み合わせ、のいずれか 1 つの条件で選択しました。これらの変数のいずれか、またはその組み合わせによって、許容できない注入のばらつきが生じる可能性があります。さらに研究を進め、Arc HPLC システムとこれと同等の HPLC システムの性能を比較し、Arc HPLC システムの注入精度が高いことを実証します。
注入精度は、あらゆる定量的 HPLC 分析法においてきわめて重要です。そのため、多くの規定分析法には、注入精度に関する厳格な要件があります。報告された値は確実に、予想される測定の不確かさの範囲内であり、したがって正確である必要があります。ただし、いくつかの装置および分析法の特性が、いずれかの LC システムでの注入精度に影響を与える可能性があります。これらの特性には、サンプル希釈剤、吸引速度、正確度、吸引メカニズムの範囲などが含まれます。
規定分析法の一般的な特性の 1 つは、製剤や医薬品有効成分の溶解度を高めるために、高度に有機性の希釈液が必要なことです。これらの揮発性希釈液は、時間の経過とともにサンプル濃度が変化する可能性があるため、分析法の再現性や注入精度に影響を与える可能性があります。さらに、有機希釈液と多量注入の組み合わせ(多くの場合低濃度サンプルに使用される)により、注入精度がさらにばらつき、システム適合性基準を満たさなくなる場合があります。
本研究では、複数の HPLC システムを使用して、いくつかの規定分析法の注入精度を評価します。さまざまな分析法は、ルーチンでシステム適合性要件に適合することが非常に困難な課題になる、前述の特性を有しています。以下の例では、Arc HPLC システムオートサンプラーの優れた性能と、装置のメカニズムからの低いばらつきを確保するための設計について実証します。
LC システム: |
Arc HPLC、30 CHC を搭載 |
検出: |
2998(PDA)または 2489(TUV) |
パージ溶媒: |
90:10 水/アセトニトリル |
シール洗浄溶媒: |
90:10 水/アセトニトリル |
ニードル洗浄液: |
50:50 水/アセトニトリル |
シール洗浄時間: |
0.5 分 |
サンプル温度: |
10 ℃ |
フローセル: |
分析用(10 mm) |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 FR3 Hotfix 1 |
注:Arc HPLC システムオートサンプラーは、シリンジと独立した(脱気した)パージ溶媒を使用してサンプルを吸引します。オートサンプラーが注入できる最大容量は、拡張ループと組み合わせたシリンジボリュームによって決まります。標準的な Arc HPLC システムでは、50 µL の拡張ループと 30 µL のニードルを使用しており、100 µL のシリンジで最大容量 60 µL までの高精度の注入が可能になります(ニードルとループの容量の 75%)。
サンプル調製
USP モノグラフ1 に記載されているように、USP アジスロマイシン RS の原液は、7:6:7 のメタノール、アセトニトリル、1.73 mg/mL 無水二塩基性リン酸ナトリウムの水溶液(アンモニアで pH 10 に調整)中に、1 mg/mL の濃度で調製しました。同じ溶媒を使用して、原液をさらに 86 µg/mL に希釈しました。
LC システム: |
Arc HPLC、30 CHC を搭載 |
検出: |
2998(PDA) |
波長: |
210 nm |
カラム: |
XBridge、5 µm、4.6 mm×250 mm(製品番号:186003117) |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
サンプル注入量: |
50 μL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相 A: |
1.8 mg/mL 二塩基性リン酸ナトリウム水溶液(10% リン酸で pH 8.9 に調整) |
移動相 B: |
3:1 アセトニトリル/メタノール |
サンプル調製
USP モノグラフ2 に記載されているように、USP クエチアピンフマル酸塩 RS の標準原液は、移動相中に 0.16 mg/mL で調製しました。次に、原液から標準溶液を、移動相中に 0.08 mg/mL で調製しました。
LC システム: |
Arc HPLC、30 CHC を搭載 |
検出: |
2998(PDA) |
波長: |
230 nm |
カラム: |
XBridge BEH C8、5 µm 4.6 mm×250 mm(製品番号:186003018) |
カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
サンプル注入量: |
50 μL |
流速: |
1.3 mL/分 |
移動相 |
54:7:39 メタノール/アセトニトリル/2.6 g/L 二塩基性リン酸アンモニウム(リン酸でpH 6.5 に調整) |
分析時間: |
15 分 |
サンプル調製
USP モノグラフ3に記載されているように、ロサルタンカリウム RS を 0.25 mg/mL でメタノール中に調製しました。
LC システム: |
Arc HPLC、30 CHC を搭載 |
検出: |
2489(TUV) |
波長: |
254 nm |
カラム: |
XSelect HSS T3、5 µm、4.6×250 mm(製品番号:186004793) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
サンプル注入量: |
13.2 μL |
流速: |
1.32 mL/分 |
移動相 |
2:3 アセトニトリル:0.1% リン酸水溶液 |
分析時間: |
20 min |
* オリジナルのモノグラフでは 4.0×250 mm カラムが指定されていますが、この分析法は 4.6×250 mm にスケーリングされ、注入量と流速がともにスケーリングされています。
本研究では、USP モノグラフを <621> の説明4 に従って実行し、個々の章に従って Arc HPLC システムの性能を評価しました。アジスロマイシンおよびクエチアピンの分析を、個々の USP モノグラフで説明されている条件とサンプル調製法に従って実施しました。ロサルタンカリウムの分析法では、調整が必要でした。具体的には、この USP 分析法では 4.0×250 mm カラムが指定されていますが、このカラムは最新の頑健な充塡剤では入手できませんでした。この分析法では、このカラムを 4.6×250 mm HSS T3 カラムにスケーリングし、これに合わせて流量および注入量を調整しました。
この Arc HPLC システムでの結果により、試験したすべてのモノグラフについて高い精度が実証され、システム適合性基準(該当する場合)の範囲内に十分収まりました。有機不純物であるアジスロマイシンには、注入精度についての USP 要件はありませんでしたが、この分析法の精度は、Arc HPLC システムでの相対標準偏差(RSD)は 0.6% で、実行時間は 93 分でした。
Arc HPLC システムの分析法間注入精度を評価するために、厳格な注入精度要件があるロサルタンカリウムの USP モノグラフを、連続の 3 日間にわたって分析しました。モノグラフのシステム適合性基準には、保持時間、面積 RSD、USP テーリング、および 5 回の繰り返し注入の効率が含まれていました。表 2 に示すように、3 日間それぞれで、すべての値が仕様範囲内でした。特に注目すべき点は、0.5% 以内(NMT)という厳密な要件があるこの分析法の面積 %RSD です。これらの結果により、Arc HPLC システムでのオートサンプラーの非常に再現性の高い注入精度が実証されました。
どの HPLC システムの場合でも、分析法がルーチンでシステム適合性基準を満たすことを確認するには、分析法間の結果がきわめて重要です。他の HPLC システムと Arc HPLC システムの性能を比較するために、分析法間の注入精度を、ロサルタンカリウムモノグラフを用いて評価しました。各サンプルセットには、USP モノグラフの記載に従って、5 回の繰り返し注入が含まれていました。すべての試験は、別々の日に、システムごとに 3 回実施しました。それぞれの日の RSD 値を計算しました。
この試験では、それぞれのオートサンプラーで、サンプル吸引に異なる設計を使用しました。Arc HPLC システムでは、オートサンプラーは、シリンジと独立したパージ溶媒を使用してサンプルを吸引します。別のオートサンプラーでは、別個のパージ溶媒の有無とは無関係に、サンプルを吸引するのに、計量デバイス、シリンジ、またはポンプヘッドが使用されました。どの方法の場合も、最適な性能を確保するために、各オートサンプラーを推奨設定でパージまたはプライムしました。これらのステップは、パージラインやシリンジの不適切な準備や、気泡や脱気されていない溶媒による失敗を低減するために実施しました。
複数の HPLC システムの結果を図 2 に示します。Arc HPLC システムでの注入精度は、同等のシステム(W ~ Z)より優れており、値は仕様を十分に下回っていました。Arc HPLC システムでの 3 セットのデータでは、すべてのシステム適合性要件が満たされていました。テストした他のシステムのうち、システム W だけが 3 セットの注入すべてについてシステム適合性基準を満たしていましたが、システム X、Y、Z は満たしませんでした。さらに、Arc HPLC システムで最も低い %RSD 値を得ました。これらの結果により、Arc HPLC システムが、他の HPLC システムと比較して、これらの狭い精度要件をルーチンで満たす性能があることが実証されています。
Arc HPLC システムは、再現性の高い注入を確保し、厳格なシステム適合性基準を満たすように設計されています。オートサンプラーは、独立した脱気済みパージラインを利用して、再現性のあるピーク面積を確保します。これにより、希釈液が高度に有機性で、注入量が大きい(注入精度に影響を与える可能性がある特性)HPLC 分析法に対しても、高いレベルの再現性が保証されます。
720007043JA、2020 年 10 月