• アプリケーションノート

チタン被覆 C18 カラムテクノロジーと比較した ACQUITY Premier Peptide C18 カラムのクロマトグラフィー性能の向上

チタン被覆 C18 カラムテクノロジーと比較した ACQUITY Premier Peptide C18 カラムのクロマトグラフィー性能の向上

  • Maureen DeLoffi
  • Jennifer M. Nguyen
  • Gary Izzo
  • Matthew A. Lauber
  • Mike Savaria
  • Waters Corporation

要約

リン酸化翻訳後修飾など、酸性残基が含まれるペプチドでは、多くの場合、ステンレススチールなどの電子不足の金属表面への吸着による化合物のロスが原因で、液体クロマトグラフィー(LC)での回収が困難になります。このようなアプリケーションには、高い耐腐食性を有するチタン製または合金のカラムハードウェアが使用されています。一方、このような材質は金属イオンによるサンプルのロスの原因となり、含有量の少ない、酸性残基および修飾が含まれている化合物またはペプチドの回収が困難になることがあります。

MaxPeak High Performance Surfaces を特徴とする ACQUITY Premier Peptide C18 カラムのような最新テクノロジーを使用することで、金属の影響を受けやすいペプチドの実験がより簡単にできるようになりました。MaxPeak High Performance Surface により、金属と化合物の相互作用や、吸着に関連するサンプルのロスを低減する効果的なバリアが提供されます。このアプリケーションブリーフでは、Waters ACQUITY Premier Peptide CSH C18、1.7 µm カラムと、市販のチタン被覆の正表面電荷 C18、1.6 µm カラムを比較しました。

ここでは、チタン被覆 C18 カラムではできなかった、リン酸化ペプチドおよび推定配列変異の高品質の分離を達成した、ACQUITY Premier Peptide C18 カラムの性能上の利点に焦点を合わせます。これらのリン酸化ペプチドでは、ACQUITY Premier Peptide C18 カラムにより回収率が向上し、ピーク形状が良くなり、サンプルをコンディショニングする必要性が大幅に減少します。さらに、ACQUITY Premier カラムは、高圧下でも充塡ベッドの安定性が高く、ハイスループットアプリケーションに理想的であることが実証されます。

アプリケーションのメリット

  • 代替のカラムハードウェアと比較して、回収率およびピーク形状が向上
  • ピークキャパシティーの増加
  • カラムコンディショニングの必要性が最低限
  • 充塡ベッドの安定性が向上
  • 高圧耐性により、ハイスループットアプリケーションでの高流速送液が可能

はじめに

金属表面への化合物の吸着は、長年にわたってクロマトグラフィーにおける課題となっています。従来の緩和策は、表面の不動態化処理、移動相添加剤の使用、不活性ハードウェア材料の採用です。このような戦略は、ある程度は成功していますが、戦略自体に欠点があります。強酸による表面の不動態化処理や、サンプルおよび/またはマトリックスのコンディショニングのいずれも、時間がかかり、強酸を使用する必要があるため、カラムの寿命に悪影響を及ぼします1。キレート化剤などの移動相添加剤では、化合物の金属への吸着は防げますが、イオン化抑制などの欠点や溶解性の問題があります。また、有効性を保つためには、継続的に使用しなければなりません2。 PEEK カラムあるいは PEEK 被覆のスチールカラムでは、金属表面の代わりに反応しない材質が使用されますが、PEEK のみでは高圧での使用に耐えられず、PEEK の材質は寸法のばらつきが大きく、フリットの透過性が低く、一部の溶媒には適合しません。

従来のステンレススチール製カラムのより生体不活性な代替品として、近年、チタン製ハードウェアを採用したカラムが市販されるようになっています。チタンは耐腐食性があり、一部の化合物に対して不活性です。ただし、その金属性により、化合物の吸着およびサンプルのロスが生じる可能性があります。さらに、メタノール移動相と使用すると、チタンから金属イオンが浸出することが分かっています3

このアプリケーションブリーフでは、チタンで被覆し、チタンフリットで構築されている市販のカラムと、MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーを特徴とする ACQUITY Premier Peptide C18 カラムが比較されています。MaxPeak HPS は、有機/無機ハイブリッド表面テクノロジーであり、それが金属表面と化合物の間の相互作用のバリアとして機能することが分かっています。この実験では、ACQUITY Premier Peptide C18 カラムと比較した場合に、他社製チタン被覆 C18 カラムでは、リン酸化ペプチドの回収率が非常に低いことが実証されました。これらの 2 種のカラムを、4 成分リン酸化ペプチド混合液を使用して、クロマトグラフィー性能の面で比較するとともに、充塡ベッドの安定性試験を通じて、カラム寿命のシミュレーションも行いました。

結果および考察

この研究では、ACQUITY Premier Peptide カラムと市販のチタン被覆カラムの性能の差を実証するために、リン酸化ペプチドアプリケーションを選択しました。リン酸化ペプチドには陰イオンリン酸基が含まれており、金属表面の電子不足部位に吸着されることが知られています4。そのため、Waters MassPREP リン酸化ペプチド標準試料(製品番号:186003285)の回収率を評価することにしました。この混合標準試料には、4 種の合成エノラーゼリン酸化ペプチドが含まれており、そのうちの 1 つには 2 つのリン酸部位(T43pp)が含まれています。

チタン被覆の正表面電荷 C18、1.6 µm、2.1×50 mm カラムおよび ACQUITY Premier Peptide CSH C18、1.7 µm、2.1×50 mm カラムで、0.1% ギ酸をモディファイヤーとして添加した移動相を用いて、分離を実施しました。各カラムの最初の性能を、3 回の繰り返し注入で評価しました。リン酸化ペプチドの回収率は、UV ピーク面積によって測定しました。カラムに圧力サイクルを加え、カラム寿命を加速シミュレーションするストレステスト後のピーク形状、ピークキャパシティ、カラム性能を観察しました。

クロマトグラフィー性能

図 1 に、各カラムでの分離の UV クロマトグラムが示されています。また、図 2 では、T43pp ペプチドの UV ピーク面積と、MassPREP リン酸化ペプチド標準試料中の 4 種のペプチドすべての合計ピーク面積が比較されています。ACQUITY Premier カラムを使用した最初の 3 回の注入では、すべてのピークのピーク回収率がより高く、一貫していました。特に、強酸性リン酸基が原因で回収が最も困難な二リン酸化ペプチド(T43pp)は、チタン被覆カラムを使用した 1 回目の注入では、ほとんど回収されませんでした。T43pp の回収率は、ACQUITY Premier カラムのわずか 5% でした。時間の経過とともにチタン被覆カラムでは改善が見られました。これは公表されているコンディショニング要件であり、T43pp ペプチドの回収率は ACQUITY Premier カラムの 65% 低い一定のレベルで安定しました。 

図 1. 0.1% ギ酸を添加した移動相および(A)正電荷 C18、1.6 µm 固定相が充塡された他社製のチタン被覆、2.1×50 mm カラム、または(B)ACQUITY Premier Peptide CSH C18、1.7 µm、2.1×50 mm カラムを用いた、MassPREP リン酸化ペプチド標準試料の分離から 220 nm で検出された UV クロマトグラム。ACQUITY UPLC H-Class Bio システムで、流速 0.6 mL/分、カラム温度 60 ℃、アセトニトリルの 5 分間の 0.7% ~ 25% のグラジエント、ロード量 200 pmol で分離を行いました。
図 2.(A)ペプチド T43PP の UV ピーク面積および(B)MassPREP リン酸化ペプチド標準試料の合計ピーク面積。ACQUITY UPLC H-Class Bio システムで、0.1% ギ酸を添加した移動相を用いて、正電荷 C18、1.条6 µm 固定相が充塡された他社製のチタン被覆、2.1×50 mm カラム、または ACQUITY Premier Peptide CSH C18、1.7 µm、2.1×50 mm カラムで分析を実行しました。分離件には、流速 0.6 mL/分、カラム温度 60 ℃、アセトニトリルの 5 分間の 0.7% ~ 25% のグラジエント、220 nm での検出、および 200 pmol の質量ロードが含まれました。 

各カラムへの 3 回目の注入からの 4 種のペプチドの合計ピーク面積を比較したところ、チタン被覆カラムでは、ACQUITY Premier カラムの結果よりもピーク面積が 10% 減少していることが観察されました。チタン被覆カラムで 3 回の追加注入を行った後、ACQUITY Premier カラムと比較すると、合計ピーク面積は 14% 低いままでした。全体として、ACQUITY Premier Peptide カラムでは、チタン被覆カラムよりもピークキャパシティが 20% 高くなっています。さらに低含有量のペプチド種は、ACQUITY Premier カラムを使用して、より簡単に確認できました。このようなペプチド種は、合成ペプチドの製造からの、標準品または安定性に関連する分解物における配列変異である可能性があります。ACQUITY Premier カラムでは、クロマトグラム全体でより多くの詳細情報が得られることから、医療用ペプチドの不純物プロファイリングなどの、多数のさまざまな分析法に使用できることが示唆されます。

ACQUITY Premier Peptide カラムは、チタン被覆 C18 カラムより、ピーク形状も優れています。各カラムのテーリング係数の結果が図 3 に示されています。1 回目の注入の平均テーリング係数は、チタン被覆カラムの方が、ACQUITY Premier Peptide カラムよりも 63% 高くなりました。その後 10 回の注入の後、4 種類のペプチドすべてにおける平均テーリング係数は 25% 高くなりました。一方、チタン被覆カラムを使用した T43pp ペプチドのテーリング係数は 54% 高いままでした。これより、追加の注入であるにもかかわらず、ACQUITY Premier Peptide カラムで見られたような低いテーリング係数を得るためには、チタン被覆カラムでは厳しいサンプルコンディショニングが必要なとが示唆されます。

図 3. ペプチド T43PP での USP テーリング係数。ACQUITY UPLC H-Class Bio システムで、0.1% ギ酸を添加した移動相を用いて、正電荷 C18、1.6 µm 固定相が充塡された他社製のチタン被覆、2.1×50 mm カラム、または ACQUITY Premier Peptide CSH C18、1.7 µm、2.1×50 mm カラムで分析を実行しました。分離条件には、流速 0.6 mL/分、カラム温度 60 ℃、アセトニトリルの 5 分間の 0.7% ~ 25% のグラジエント、220 nm での検出、および 200 pmol の質量ロードが含まれました。 

充塡ベッドの安定性

充塡ベッドの安定性の比較も行われました。機械的な充塡ベッドの安定性テストでは、通常の動作パラメーターでのカラム寿命が直接示されるわけではありませんが、カラムの最大性能を評価できます。

この試験では、カラムヘッドに 11,000 psi を超える圧力をかけるために、各カラムに高流速(1.5 mL/分)で送液しました。この流速での送液に加えて、各カラムで送液の停止および再開を何度も繰り返しました。チタン被覆カラムでは、アセナフテンのアイソクラティック分離で測定されたように、200 回弱の圧力サイクルの後、カラム効率とピークテーリングが急速に低下しました。それに対して、ACQUITY Premier Peptide カラムは、1000 回を超えるこのような圧力サイクルを受けた後でも、悪影響はありませんでした。図 4 には、この安定性テストを通してアセナフテンで観察された、プレート効率およびテーリング係数の変化が示されています。これらの結果から、ACQUITY Premier Peptide カラムは、市販のチタン被覆カラムよりはるかに高い圧力に耐えられ、高圧で高流速のハイスループットアプリケーションに適していることが示唆されています。いずれのカラムも許容値の上限は 15,000 psi と定格されていますが、ACQUITY Premier Peptide カラムはチタン被覆カラムと比較して、充塡ベッドの安定性の面で大きな利点が見つかりました。 

図 4. ACQUITY Premier Peptide カラムと他社製チタン被覆カラムで、1000 回の高圧サイクルの充塡ベッドの安定性テストを実施した後の(A)カラム効率および(B)テーリング係数の変化(流速 0.35 mL/分、カラム温度 30 ℃、75% アセトニトリル移動相を用いたアセナフテンのアイソクラティック分離で測定)。 

結論

MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを採用した ACQUITY Premier Peptide カラムにより、リン酸化ペプチドおよび低含有量のペプチド種に対する、回収率の大幅な向上および分離能とピーク形状の改善が可能になりました。MaxPeak HPS の有機/無機ハイブリッドテクノロジーにより、化合物の金属による吸着を妨げるバリアが提供され、サンプル回収率の新たな向上が実現します。チタン被覆カラムでは、複数回の繰り返し注入の後、二リン酸化 T43pp ペプチドの回収率の向上が見られました。これは、サンプルコンディショニングの必要性を示唆しています。ACQUITY Premier カラムでは、試験に用いた 4 種のペプチドすべてにおいて、1 回目の注入から一貫した回収率が示され、このような性能上の制限は観察されませんでした。Waters ACQUITY Premier Peptide CSH C18 カラムでは、リン酸化ペプチドアプリケーションでの煩雑なコンディショニングは不要であり、購入後すぐに準備不要で使用できます。

これらの結果から、MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを採用した ACQUITY Premier カラムは、新しいレベルの不活性に到達しており、リン酸化アミノ酸残基を含むものなど、課題となっているペプチドの吸着を最小限に抑えることができます。このため、創薬の候補物質のリン酸化プロテオミクス研究や、合成ペプチド製剤中の不純物の検出などに適用できる、さまざまな分離で信頼性の高いクロマトグラフィーデータの生成に利用される ACQUITY Premier カラムは、かなり有望であると言えます。

参考文献

  1. Gjerde, D. T.; Hanna, C. P.; Hoang, L.; Hornby, D. DNA Chromatography. Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.: 2002. 
  2. Lough, J.; Mills, M. J.; Maltas, J. Analyte Adsorption in Liquid Chromatography Valve Injectors for Samples in Non-Eluting Solvents. J. Chromatogr.A 1996, 726, 67–75. 
  3. De Pra, M.; Greco, G.; Krajewski, M. P.; Martin, M. M.; George, E.; Bartsch, N.; Steiner, F. Effects of Titanium Contamination Caused by Iron-Free High-Performance Liquid Chromatography Systems on Peak Shape and Retention of Drugs with Chelating Properties.J. Chromatogr.A 2020, 1611, 460619. 
  4. Tuytten, R.; Lemiere, F.; Witters, E.; Van Dongen, W.; Slegers, H.; Newton, R. P.; Van Onckelen, H.; Esmans, E. L. Stainless Steel Electrospray Probe: A Dead End for Phosphorylated Organic Compounds.J. Chromatogr.A 2006, 1104 (1–2), 209–21.

720007022JA、2020 年 9 月

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