• アプリケーションノート

MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーによる感度の向上およびダイナミックレンジの実証:ヌクレオチド検出でのケーススタディ

MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーによる感度の向上およびダイナミックレンジの実証:ヌクレオチド検出でのケーススタディ

  • Moon Chul Jung
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation

要約

金属の影響を受けやすい酸性分析種は、LC-MS による堅牢で高感度のアッセイにおいて難関です。金属表面への親和力を変化させて分析種のロスを軽減する試みが数多く行われてきましたが、非常に高感度の UPLC-MS 分析に適合する汎用性のあるソリューションは、まだできていません。アデノシンヌクレオチドをモデル分析種として使用し、HPS テクノロジーを使用した Waters ACQUITY PREMIER LC システムによって、高感度の MS 検出による高効率の UPLC 分離の利点を損なうことなく、金属-分析種間相互作用に対して優れた保護効果が得られることを実証しました。 

アプリケーションのメリット

  • このケーススタディでは、いつどのようにしてクロマトグラフィーの表面が分析種の検出に大きな影響を与えるのかを説明しています。
  • MaxPeak High Performance Surfaces を使用した Waters ACQUITY PREMIER LC システムおよびカラムにより、ヌクレオチドおよびそのアナログなどの金属の影響を受けやすい分析種の回収率およびピーク形状が飛躍的に改善できます。

はじめに

ヌクレオチドは DNA および RNA の基本構成要素であり、代謝において中心的な役割を果たします。このため、これらの分析および定量は、生物学的機能および活動を理解するために極めて重要です1,2。 長年にわたり、ヌクレオチドとそのアナログの研究はますます注目を集めてきました。一つの非常に重要な例として、ヌクレオチド型の分子は、C 型肝炎4、特定のウイルス性がん5、エボラ6、また最近の SARS-CoV-2(新型コロナウイルス感染症)などのウィルス性感染症3 の治療に用いる RNA ポリメラーゼ阻害剤として、試験および適用が行われています7

ヌクレオチドの LC-MS 分析の課題の一つとして、回収率の低下を引き起こす金属表面(特にステンレススチールや腐食したステンレススチール)との親和性が挙げられます8,9。 このようなロスは分析種の濃度が低い場合に深刻であり、分析感度に悪影響を与えます。これらの望ましくないロスを避けるため、多くのさまざまな回避策が取られてきました。一部の研究では、ポリマーやシリカベースのコンポーネントを装着した、金属を使用しない LC-MS 装置がテストされましたが、最新の 2 µm 以下の粒子を用いる UPLC 分析法には対応できないことが判明しました9。 別の研究では、金属キレート添加剤を移動相に添加することにより、金属-分析種間相互作用を抑制することにある程度成功しています。ただし結局は、これによって分析法開発のオプションが狭まってしまいました10

この目的のため、ウォーターズは、LC 装置とカラムの両方に不活性表面を提供する MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーを開発しました11。 このアプリケーションノートでは、試験する分析種としてアデノシンおよびそのリン酸化誘導体を使用して MaxPeak HPS テクノロジーの利点を実証し、これによって、クロマトグラフィーの表面が分析種の検出に著しく影響するタイミングおよび方法についてのケーススタディを説明します。

実験方法

サンプル前処理:

ATP、ADP、AMP、およびアデノシンの混合水溶液

LC 条件

システム:

ACQUITY PREMIER UPLC、ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

タンデム四重極 MS

バイアル:

TruView バイアル

カラム:

ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1 × 50 mm、標準ステンレススチールハードウェア(製品番号:186003538)

ACQUITY PREMIER HSS T3、1.8 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009467)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

20 °C

注入量:

1 μL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

10 mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH 6.8)

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエント

時間(分)

流速(mL/分)

%A

%B

カーブ

初期条件

0.5

98.8

1.2

-

0.2

0.5

98.8

1.2

6

0.8

0.5

81.0

19.0

6

0.9

0.5

81.0

19.0

6

1.0

0.5

98.8

1.2

6

3.0

0.5

98.8

1.2

11

MS 条件

システム:

Xevo TQ-XS

イオン化モード:

ネガティブエレクトロスプレー(ES-)

取り込み範囲:

SRM:下表を参照

キャピラリー電圧:

-0.3 kV

コリジョンエネルギー:

下表を参照

コーン電圧:

下表を参照

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

MassLynx、v4.2

MS ソフトウェア:

MassLynx、v4.2

インフォマティクス:

N/A

結果および考察

通常の逆相 LC-MS 条件およびタンデム四重極型質量分析計を使用して、アデノシンとそのリン酸化誘導体であるアデノシン-5’-三リン酸(ATP)、アデノシン-5’-二リン酸(ADP)およびアデノシン-5’-一リン酸(AMP)(表 1)を分析しました。図 1 に上記 4 種類の化合物の分離の例を示しています。サンプルをステンレススチール製コンポーネントおよびカラムで構成される標準の LC-MS システムに注入すると、高度にリン酸化された ATP および ADP は、分析中に完全に失われました。一方、単一のリン酸化を受けた AMP では、著しくテーリングする、かろうじて検出できるピークとして観察されました(図 1a)。同じサンプルを、ACQUITY PREMIER システムを使用して ACQUITY PREMIER カラムに注入すると(図 1c)、アデノシンを含む 4 種類の化合物すべてが容易に検出され、顕著にテーリングが少なく、十分なピーク面積が得られました。ピーク面積およびピーク形状の著しい改善は、独自の MaxPeak High Performance Surfaces による金属-分析種間相互作用の効果的な抑制によるものです。これら 2 つのクロマトグラムを、ステンレスチールの LC システムを使用し、ACQUITY PREMIER カラムにサンプルを注入する中間的なケースと比較することは興味深いと思われます(図 1b)。ATP および ADP について検出可能なピークが観察されたましたが、それらのピークは、ACQUITY PREMIER LC およびカラムで得られたピークよりかなり小さいものでした(図 1c)。一方、AMP のロスは ATP や ADP の場合より少なかったですが、ピーク形状が著しく歪んでおり、波形解析が困難でした。この結果から、金属-分析種間相互作用は、特定の分析種において非常に問題が大きく、このような状況では不活性なクロマトグラフィーの表面を使用することが重要であることが実証されました。 

表 1. 試験した化合物。log P および pKa は、ヒトメタボロームデータベースからの値で、ChemAxon アルゴリズム(http://hmdb.ca/)を使用して計算されたものです。 
図 1. ATP、ADP、AMP、およびアデノシン(各 20 pg/µL)を含む混合液 1 µL を注入した場合のクロマトグラムの例 

これらの不活性 LC 表面の重要性をさらに実証するため、これら 4 種類の化合物の検量線を log-log スケールでプロットし(図 2a)、対応する数値結果を表 2 にまとめています。ATP および ADP が、直線的な検量線を得るに際して最大の課題となっています。これらの化合物を標準の LC システムおよび標準のカラムを使用して分析すると、比較的高濃度である 2000 pg/µL(カラムロード 2 ng)でもピークが観察されませんでした。標準のステンレススチール製カラムを ACQUITY PREMIER カラムに交換することによって、ATP および ADP の検出が可能になりましたが、キャリブレーション範囲は、ACQUITY PREMIER カラムを装着した完全に不活性な ACQUITY PREMIER システムを使用した場合と比較して、かなり狭くなっていました。分析種のロスは検出下限に直接影響していました。一例として、ATP や ADP より酸性度が低い化合物である AMP の場合が挙げられます。テストしたシステムとカラムの組み合わせ 3 種すべてにおいて、AMP には ATP や ADP ほどの吸着によるロスは生じませんでしたが、検出感度は依然としてかなり変動していました。標準 UPLC とカラムを使用すると、AMP の検出下限が 1 桁高くなり(表 2)、検量線の傾きが小さくなりました(図 2b)。ACQUITY PREMIER LC を ACQUITY PREMIER LC カラムと共にに使用すると、4 つの分析種すべてについて最高の感度が得られ、pg/µL 未満の濃度での定量が可能となり、3 桁を超えるキャリブレーション範囲が確立できました。

図 2. a)4 化合物の log-log 検量線、および b)AMP の直線的な検量線
表 2. サンプルを異なるカラムおよびシステムに注入した場合の 4 化合物のキャリブレーション範囲とその直線性。すべての検量線は 1/x の重み付けをして判定しました。 

金属の影響を受けやすいリン酸基を含まないアデノシンでは、LC システムおよびカラムの選択とは無関係に、同等の検量線および 3 桁にわたるキャリブレーション範囲が得られました。このことは、リン酸を含む化合物で観察された感度の差は、厄介な分析種-金属間相互作用によるものであり、ACQUITY PREMIER テクノロジーによって、リン酸化分子に関連するバイアスやよくある問題を回避し、ATP、ADP、およびAMP を定量できることを示唆しています。

ヌクレオチドは非常に極性の強い分析種であり、目的に適合したクロマトグラフィー分析法を開発するにあたり、頑健な定量が必要な場合は特に、このことに格別の注意を必要とします。HSS T3 および酢酸アンモニウム移動相を使用する RPLC 分析法を用いて、不活性なクロマトグラフィーの表面の効果についてのケーススタディを行いました。採用した分離手法では、個々のアデノシンヌクレオチドは保持されませんでした。実際、ATP はボイドの付近で溶出しています。したがって、この抽出法は複雑なサンプルマトリックスを扱うには十分に堅牢ではない可能性があります。一部の移動相イオン対の添加や、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)および陰イオン交換逆相カラムテクノロジーの形で MaxPeak High Performance Surfaces を使用することを検討することは価値があるかも知れません。 

結論

ステンレススチール製コンポーネントでできた標準の LC システムとカラムを使用してアデノシンヌクレオチド(ATP、ADP、ADP など)を分析することは困難であることがわかりました。この問題は、これらの化合物が、曝露した金属表面に強い親和性を持つことに起因している可能性があります。2 つまたは 3 つのリン酸基を含む分析種に、最もひどく影響が認められました。標準の LC およびカラムでは、ATP および ADP は、サンプル濃度 2 ng/µL 以下では完全に失われました。単一のリン酸基を含む AMP では、ロスが比較的軽微でした。しかしながら、分析感度が損なわれていました。

このケーススタディから分かるように、ACQUITY PREMIER システムを ACQUITY PREMIER カラムと共に効果的に使用して、頑健な定量を妨げることがある、金属吸着の課題の一部を克服することができます。このテクノロジーにより、目的に適合する RPLC 分析法、HILIC、混合モードクロマトグラフィーのいずれに基づく手法を採用しても、ヌクレオチド定量における新しいレベルの性能が実現します。

参考文献

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  11. Lauber, M.; Walter, T. H.; Gilar, M.; DeLano, M.; Boissel, C.; Smith, K.; Birdsall, R.; Rainville, P.; Belanger, J.; Wyndham, K. Low Adsorption HPLC Columns based on MaxPeak High Performance Surfaces.Waters White Paper, 720006930EN, 2020.

720007053JA、2020 年 11 月

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