• アプリケーションノート

COVID-19 を理解する: ペプチドマッピングによる SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の予備試験

COVID-19 を理解する: ペプチドマッピングによる SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の予備試験

  • Wenjing Li
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation
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要約

SARS-CoV-2 スパイクタンパク質は、新型コロナウイルスのタンパク質ベースのワクチンの有力な候補として注目を集めています。多数の研究により、新型コロナウイルス感染症の回復期にある患者からの中和抗体が、スパイクタンパク質のペプチドおよびペプチドグリカンエピトープの両方に結合することが示されています。したがって、新型コロナウイルスの新しいタンパク質ベースのワクチン候補の開発および QC 分析において、液体クロマトグラフィーおよび質量分析によるペプチドマッピング分析が非常に役立つと考えられます。  

アプリケーションのメリット

  • BioAccord LC-MS システムによる一次配列の堅牢で正確な確認と翻訳後修飾のモニタリング。
  • UNIFI 科学情報システムによる、使いやすく効率的なデータ解析。

はじめに

SARS-CoV-2 は、他のコロナウイルスと同様に、宿主細胞に侵入するためにスパイクタンパク質が不可欠です1。最近 Watanabe らによって行われた特性解析によると、この新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は、66 ヵ所の N 型糖鎖部位で不均一に修飾された約 540 kDa のホモトリマー糖タンパク質です。コンピューターモデルで予測されたタンパク質の O-グリコシル化は、まだ十分には解析されていません2,3。 スパイクタンパク質は、複雑なタンパク質であるにもかかわらず、SARS-CoV-2 のウイルス学に新たな情報をもたらす可能性があるため、複数の分析試験を行う価値があると考えられます。これらの新たな情報は、新型コロナウイルスの新しいワクチン候補のより堅牢な開発および製造につながる可能性があります。前述の糖鎖のように、ペプチドマッピングを用いた組み換えタンパク質の包括的な特性解析とモニタリングが、翻訳後修飾の同定および追跡に幅広く使用されています。ここで、トリプシンによるペプチドマッピングのアプローチを適用し、BioAccord LC-MS システムを使用して組み換え SARS-CoV-2 スパイクタンパク質を分析し、配列情報を確認するとともに部位特異的な糖鎖の不均一性の予備評価を行いました。

図 1. 表面に糖鎖をモデル化した SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質(グレー)。この模式図はカリフォルニア大学サンディエゴ校の Lorenzo Casalino、Zied Gaieb、Rommie Amaro が描いた図です

実験方法

HEK293 セルから発現、精製した組み換え SARS-CoV-2 スパイクタンパク質を 8 M GuHCl で変性し、還元およびアルキル化した後、サイジングメディアで脱塩してから、一晩トリプシン消化を行いました。分注したサンプル 1 つに PNGase F を加え、N 型糖鎖を加水分解して外しました。結果として得られたペプチドを、BioAccord LC-MS システム内の統合ペプチドマッピングワークフローで分析しました。UNIFI でデータを解析し、ペプチド同定を割り当てて、高エネルギー MS フラグメンテーションデータでアミノ酸配列を確認し、翻訳後修飾を同定しました。

LC-MS 条件

LC-MS システム:

BioAccord LC-MS

検出:

ACQUITY TUV

バイアル:

QuanRecovery、96 ウェル

カラム:

ACQUITY UPLC Peptide BEH C18 カラム(製品番号:186003555)

カラム温度:

65 ˚C

サンプル温度:

6 ˚C

サンプル注入量:

10 µL

流速:

0.25 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

イオン化モード:

ESI +

取り込み範囲:

m/z 50 ~ 2000

キャピラリー電圧:

1.2 kV

コリジョンエネルギー:

60 ~ 130 V

コーン電圧:

30 V

グラジエントテーブル

データ管理

UNIFI 科学情報システム

UNIFI 1.9.4

結果および考察

組み換え SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質について、ペプチドマッピングの実験で記載された条件で、約 90% のシーケンスカバー率が達成できました(図 2)。UNIFI でのペプチド同定の一致基準を、プリカーサーについて 15 ppm の質量精度、また 3 以上のフラグメント b または y イオンが見つかることと設定しました。糖ペプチドでは、予測されるグリコシド結合の不安定性のために、ペプチドのバックボーン開裂が稀になるため、基準を 1 フラグメント以上と緩くしました。最終的に、これまで報告されていた N-糖鎖結合部位および O-糖鎖結合部位の 90% 以上が正しく割り当てられました。特に受容体結合部位の遮蔽に関わる高含有量のオリゴマンノース型 N234 糖ペプチドで、特徴的な N 型糖ペプチドが、高い信頼性で同定されました(図 3)。最近の報告により、T323 の O-グリコシル化も確認されました4。 これらのデータは、BioAccord ベースのペプチドマッピングワークフローにより、複雑な組み換え糖タンパク質のグリコシル化部位/グリコフォームをマッピングできる可能性を示しています。更なる(異なる)酵素による処理を用いた今後の研究により、トリプシンベースの調製物から得られる情報の範囲が広がる可能性があります。

図 2. A) トリプシン消化、B) トリプシン消化 + 1 時間の PNGase F 処理、の後に生成した SARS-COV-2 スパイクタンパク質のペプチドマップ。挿入図は、UNIFI による解析で達成したシーケンスカバー率を示しています。
図 3. 高エネルギーフラグメンテーションデータに基づいた、ある N 型糖ペプチドの N234 部位での割り当て。
図 4. 高エネルギーフラグメンテーションデータに基づいた、ある O 型糖ペプチドの T323 部位での割り当て。

結論

新型コロナウイルスワクチンの効果的な開発には、タンパク質抗原の徹底的な特性解析が必要です。期待されるレベルの免疫反応を誘導するには、タンパク質ベースの新型コロナウイルスワクチンの候補が、自然の抗原が持つ構造上の特徴を反映していることが必須となります。新型コロナウイルスに関連するこの分析上の課題を満たすために、BioAccord システムで、使いやすい効率的なペプチドマッピングワークフローを適用しました。BioAccord を使用することで、正確かつ再現性高くシーケンスカバー率を確認し、SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の PTM のプロファイル解析を始めることができました。このアプローチにより、プロセス開発および製造のステージ全体を通じて、グリコシル化、酸化、脱アミド化、切断のモニタリングが可能になりました。

参考文献

  1. Walls AC, Park YJ, Tortorici MA, Wall A, McGuire AT, Veesler D. Structure, Function, and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein. Cell. 2020;181(2):281‐292.e6.
  2. Watanabe Y, Allen JD, Wrapp D, McLellan JS, Crispin M. Site-specific glycan analysis of the SARS-CoV-2 spike [published online ahead of print, 2020 May 4].Science.2020;eabb9983.
  3. Andersen KG, Rambaut A, Lipkin WI, Holmes EC, Garry RF.The proximal origin of SARS-CoV-2.Nat Med.2020;26(4):450‐452.
  4. Shajahan A, Supekar NT, Gleinich AS, Azadi P. Deducing the N- and O- glycosylation profile of the spike protein of novel coronavirus SARS-CoV-2 [published online ahead of print, 2020 May 4]. Glycobiology.2020;cwaa042.

720006909JA、2020 年 5 月

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