本実験では、waters_connect インフォマティクスによりコントロールされる BioAccord LC-MS システム 1 ~ 10 を使用したハイスループットのインタクト質量確認ワークフローの開発について紹介します。より高速なグラジエント LC-MS 分析と強化されたインフォマティクス機能との組み合わせを、タンパク質のターゲット質量のマッチングに展開しました。さらに、色分けしたサンプルプレートを表示して、簡単なカスタム計算を用いた各サンプルの質量確認ステータスを表示できます。質量確認ワークフローを逆相およびネイティブ SEC LC-MS インタクト質量分析に適用し、1 分析あたりの LC の合計分析時間は 2.5 分でした。このワークフローにより、サンプルスループットが懸念事項であるバイオ医薬品の分析における、クローンのスクリーニング、プロセス開発、およびその他の機能のための、LC-MS インタクト質量分析の分析効率が向上するはずです。
バイオ医薬品の開発全体にわたって、モノクローナル抗体(mAb)などのバイオ医薬品の特性解析のための分析支援が不可欠です。質量分析によるインタクト質量分析によって、分子量やサンプルの不均一性などの重要な情報が提供されます。大量のバイオ医薬品サンプル/候補が生成されるため、ハイスループット分析が可能な分析法を使用して、開発の初期段階で製品特性をスクリーニングし(クローンのスクリーニングなど)、プロセス開発にわたる強力な QbD イニシアチブをサポートすることができます。本実験では、waters_connect インフォマティクスによりコントロールされる BioAccord LC-MS システム 1-10 を使用したハイスループットのインタクト質量確認ワークフローの開発について紹介します。より高速なグラジエント LC-MS 分析法を、強化されたインフォマティクス機能と組み合わせてハイスループットのインタクト質量確認分析のためのターゲット質量のマッチング用に展開しました。色分けしたサンプルプレート表示により、簡単なカスタム計算を用いた各サンプルの質量確認ステータスが、迅速に示されます。質量確認ワークフローを逆相およびネイティブの SEC LC-MS インタクト質量分析に適用し、1 分析あたりの LC の合計分析時間は 2.5 分でした。本実験では、6 つの市販のモノクローナル抗体とシステイン結合抗体薬物複合体サンプルを調べました。開発済みのワークフローは、サンプルスループットがきわめて重要な考慮事項であるバイオ医薬品開発の LC-MS インタクト質量分析分野の、分析効率を向上させるプラスの影響を与えるはずです。
逆相 LC-MS 分析法およびネイティブ SEC-MS 分析法はいずれも、よりハイスループットのインタクト質量確認スクリーニングのために開発されました。本実験では、6 種のモノクローナル抗体と 1 つのシステイン結合 ADC サンプルを調べて、質量確認ワークフローを実証しました。分析用に、繰り返しサンプルを 48 バイアルのサンプルプレートに配置しました。
NIST レファレンス mAb(米国国立標準技術研究所)、トラスツズマブ(Genentech、South San Francisco、CA)、インフリキシマブ(Janssen)、レツキシマブ(Biogen-Idec)、ベバシズマブ(Genentech)、アダリムマブ(Abbvie)はすべて、市販品をオリジナルの処方で入手しました。特許で保護されている ADC サンプルは、共同研究を通して入手しました。サンプルは、逆相 LC-MS 分析の前に 50 mM 酢酸アンモニウム(Sigma 431311)で 0.2 mg/mL に希釈し、ネイティブ SEC LC-MS 分析の場合は 50 mM 酢酸アンモニウム(pH ~7.0)で 2.5 mg/mL に希釈しました。LC-MS グレードの水とアセトニトリル(Fisher Scientific Optima)を使用して、移動相およびシステム溶液を調製しました。ギ酸(製品番号 = 85178)は Fisher Scientific から購入しました。
LC 条件(逆相 LC-MS 分析) |
|
---|---|
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
検出: |
ACQUITY RDa 質量検出器 |
バイアル: |
Waters トータルリカバリーバイアル(製品番号 = 186000385C) |
カラム: |
BioResolve RP mAb Polyphenyl カラム、450 Å、2.7 µm、2.1 mm × 50 mm(製品番号 = 186008944) |
カラム温度: |
80 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
4 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.1 % ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
MS システム: |
ACQUITY RDa 質量検出器、BioAccord システム |
イオン化モード: |
ポジティブモード |
取り込み範囲: |
m/z = 400 ~ 7000 |
スキャンレート: |
2 Hz |
キャピラリー電圧: |
1.5 KV |
脱溶媒温度: |
550 ℃ |
コーン電圧: |
70 V |
Intelligent data capture: |
Off(オフ) |
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
検出: |
ACQUITY RDa 質量検出器 |
バイアル: |
Waters トータルリカバリー(製品番号 = 186000385C) |
カラム: |
ACQUITY UPLC Protein BEH SEC カラム、200 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm (製品番号 = 186008471) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
0.2 mL/分 |
移動相 A: |
50 mM 酢酸アンモニウム |
MS システム: |
RDa 質量検出器、BioAccord LC-MS システム |
イオン化モード: |
ポジティブモード |
取り込み範囲: |
m/z 400~7000 |
スキャンレート |
2 Hz |
キャピラリー電圧: |
1.5 KV |
脱溶媒温度: |
400 ℃ |
コーン電圧: |
150 V |
Intelligent Data Capture: |
Off(オフ) |
インフォマティクス: |
waters_connect |
システムコントロールおよびデータ解析: |
UNIFI(バージョン 1.9.4) |
よりハイスループットの質量確認ワークフローを開発するために、高速 LC グラジエントを作成して実験の実行時間を短縮しました。逆相 LC-MS 分析では、2.5 分間のグラジエントを使用しました(標準分析法では 5 % B から 85 % B で合計実行時間が 7 分であったのが、ハイスループット分析法では 1.0 分間のグラジェントで 5 % B から 85 % B で合計実行時間が 2.5 分に短縮されました)。流速は 0.4 mL/分に維持しました。2 つのグラジエントメソッドの TIC(トータルイオンクロマトグラム)の比較が図 2 に示されています。
ネイティブ SEC LC-MS 分析では、LC の流速が 0.075 mL/分 から 0.2 mL/分 に増加され、ネイティブ SEC LC-MS 分析の合計実行時間が 7.0 分から 2.5 分に短縮されました。図 3 に、標準 SEC LC-MS 分析とハイスループット分析法の TUV の比較が示されています。
クローンのスクリーニングによるバイオ医薬品の探索では、非常に多くの場合、質量確認の課題に配列情報は必要ではありません。これは、サンプルが契約分析組織へのアウトソーシングであり、その組織が配列を独占的に維持したい場合にも、一般に見られます。waters_connect プラットホームはこの機能に対応して、データ解析時にターゲット質量を自動質量確認するために、分析メソッドに直接入力できます。図 4 に、逆相 LC-MS 分析実験の解析メソッドで入力された、6 つの抗体の質量が示されています。ソフトウェアライブラリーに存在するまたは追加された翻訳後修飾(PTM)をターゲット質量と組み合わせて、分析法での成分同定に使用できます。
2 つのカスタムフィールドが生成されて、サンプルプレートの各サンプルの質量確認ステータスが表示されました。カスタムフィールド ID_comp は、同定された(マッチした)成分(質量)のステータスを通信するために使用され、もう 1 つのカスタムフィールド ID_count は、同定ステータスを同定された成分(質量)のシグナルレスポンスにリンクするために使用されます。これらのカスタムフィールドは、図 5A に示されているように、この分析法に含まれています。ID_count のレスポンスとカスタムフィールドは、分析メソッド「リミットチェック」(図 5B を参照)で設定され、サンプルプレートの質量確認のステータスが色付け表示されます。UNIFI/waters_connect のカスタムフィールドを使用したインタクト質量分析のデータ解析の詳細な説明は、この参考文献に記載されています11。
メソッドを確立することにより、統合し、自動化したデータ取り込みと解析を用いる合理化された実験を実行できます。図 6 に、BioAccord LC-MS システムでの逆相 LC-MS 実験の自動取り込み前後の、48 バイアルプレート上の各サンプル繰り返しの質量確認ステータスの例を示しています。
いくつかの質量確認サンプルの TIC とデコンボリューションされた質量スペクトルの例が図 7 に示されています。サンプルプレートの緑色のカラーコードは、そのサンプルの位置が、メソッドに含まれているターゲット質量の 1 つに対して質量確認されていることを示します。黄色のカラーコードは、分析法のターゲット質量の 1 つがマッチングされているが、シグナル強度が、リミットチェック設定の警告の最小レベルとフェイルの最小レベルの間にあることを示します。これが発生した場合は、データを手動でレビューすることを推奨します。赤色のカラーコードは、どのターゲット質量もマッチしなかったことを示します。図 7 の場合、このサンプルでは実際のシグナルは得られておらず、可能性のあるマッチはありません。
6 種の抗体サンプルの逆相 LC-MS 分析からの TIC およびデコンボリューションしたスペクトルが図 8 に示されています。高品質のデータが、6 種の抗体について通常 5 ~ 15 ppm の範囲の質量正確度で示されています。
図 9 に、解析済み UV クロマトグラム、および 6 種の抗体サンプルのネイティブ SEC LC-MS 分析から得られた生スペクトルの組み合わせを示しています。多価抗体イオンの m/z エンベロープが(逆相分析法と比較して)高くなっていることが、生スペクトルの組み合わせで認められました。デコンボリューション後の 6 種の抗体すべてで 15 ppm 以内の質量正確度が得られました(図には示されていない)。
分子の複合質量を測定するには、複雑な生体サンプル内の非共有相互作用を維持するために、ネイティブ MS は不可欠です。6 種の抗体サンプルに加えて、システイン結合 ADC サンプルについて、逆相(データは示されていない)とネイティブ SEC LC-MS分析法(図 10)の両方を使用して、比較実験を行いました。予想どおり、軽鎖と重鎖の間、および ADC 分子をまとめる 2 つの重鎖の間の非共有相互作用が維持されたのは、ネイティブアプローチのみでした。これにより、追加のカスタム計算を使用して、インタクト質量レベルで薬物-抗体比(DAR)を正常に測定できます6,11。
本実験では、waters_connect インフォマティクスプラットホームでコントロールされる BioAccord LC-MS システムを使用して、ハイスループットのインタクト質量確認ワークフローの開発に成功しました。逆相 LC-MS およびネイティブ SEC LC-MS インタクト質量確認分析を使用して本ワークフローが実証され、どちらも 1 分析あたりの LC の合計分析時間はわずか 2.5 分でした。色分けしたサンプルウェルディスプレイは、分析結果の迅速な視覚的スナップショットを提供することを示していました。全体として、このより迅速な方法により、バイオ製薬業界内でのよりハイスループットのインタクト質量分析を任務とする分析組織のラボの効率が改善するはずです。
著者らは、本試験での 2 つのカスタムフィールドの作成について、Steve Cubbedge に感謝の意を表します。
720007027JA、2020 年 11 月 改訂