研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
このアプリケーションノートでは、HILIC ベースのアプローチを使用することで、複雑なサンプル前処理や長いクロマトグラフィー分離が不要な FFA のターゲットスクリーニングを実施できる、LipidQuan システムの活用法について説明します。
脂肪酸(FA)は、カルボキシル基(-COOH)とメチル基(-CH3)の両方を持った炭化水素鎖です。従来の命名法では、カルボキシル基に隣接した炭素原子を α、それに続く炭素を β、メチル基の炭素を ω と呼んでいます(図 1)。脂肪酸鎖は 1 つ以上の二重結合を含むか(シス(Z)またはトランス(E)型の不飽和および多価不飽和脂肪酸)、あるいは完全に飽和しています。炭素鎖に 1 つ または複数のメチル分岐がある分枝鎖脂肪酸は、原核生物に一般的に見られますが、牛乳の脂肪や新生児の消化管にも存在が報告されています1,2。
図 1.様々な直鎖脂肪酸の構造および命名法。
ALA に示したように、従来の命名法では、カルボキシル基に隣接した炭素原子を α、それに続く炭素を β、メチル基の炭素を ω と呼んでいます。
遊離(非エステル化)脂肪酸(FFA または NEFA)は、血漿中の脂肪酸全体に占める割合はわずかですが、代謝活性の高い脂質クラスです。血漿中に最も多く見られる FFA は、オレイン酸(18:1)、パルミチン酸(16.0)、そしてステアリン酸(18.0)であり、これらを合計すると FFA 全体の 78% になります。不飽和群に属する脂肪酸の中には、長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)が含まれており、それらはde novo合成できないことから「必須脂肪酸」と呼ばれています。リノール酸(18:2)、アラキドン酸(20:4)、ω-リノレン酸 (18:3 ω-3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、そしてドコサヘキサエン酸(22:6、DCA)などが PUFA の主な例です3。 エイコサノイドは、アラキドン酸および多価不飽和脂肪酸(PUFA)に由来し、局所的に作用する生理活性シグナル伝達脂質です。エイコサノイドには、代謝異常症候群や癌など、多様な疾病に関連する、恒常性および炎症性プロセスを調節する働きがあります5。
ここでは、質量分析(MS)と脂肪酸をクラス別に分離する親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)を組み合わせることで、明確な同定が可能になることを紹介します6。 また、脂質種をクラス別に分離することで、定量に必要とされる安定同位体標識(SIL)スタンダードが少なくなり、コストが節約できるというメリットもあります。このアプリケーションノートでは、HILIC ベースのアプローチを使用することで、複雑なサンプル前処理や長いクロマトグラフィー分離が不要な FFA のターゲットスクリーニングを実施できる、LipidQuan システム(図 2)の活用法について説明します。
健常ヒト血漿プールに、9 つの濃度レベルの安定同位体標識(SIL)スタンダード(SPLASH LIPIDOMIX、Avanti Lipids、Alabaster、AL)をスパイクし、検量線を作成して定量を行いました。SPLASH LIPIDOMIX には FFA の定量に適したサロゲートスタンダードが含まれていませんが、データの質を評価するために直線性データを使用できます。一般的な指標である R2 値(0.95)および検量線からの偏差(CV <30%)が安定して得られています。PG (15:0–18:1) (d7) = 0.5~1500 ng/mL および PC (15:0–18:1) (d7) = 16~8000 ng/mL において直線性を示しました。
また、サンプル前処理に、NIST Standard Reference Material 1950 血漿(Sigma Aldrich、Poole、UK)を 6 サンプル調製し、 5% SIL スタンダードを添加しました。
事前冷却したイソプロパノール(IPA)を用いた簡単な除タンパクによるサンプル前処理を採用しました(1:5、血漿:IPA)。サンプルを 1 分間ボルテックス混合し、-20 °C で 10 分間静置しました。サンプルを再び 1 分間ボルテックス混合した後、4 °C で 2 時間静置し、タンパク質を完全に沈殿させました。抽出したサンプルを 4 °C にて、最大 10,300 g で 10 分間遠心分離した後、上清をガラスバイアルに移し、LC-MS/MS 分析に使用しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class 固定ループ (FL) または フロースルーニードル (FTN) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide 2.1 × 100 mm、1.7 μm |
カラム温度: |
45 °C |
流量: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
95:5 アセトニトリル/水 + 10 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
50:50 アセトニトリル/水 + 10 mM 酢酸アンモニウム |
グラジエント: |
2 分間で B %を 0.1% から 20%、 その後 3 分間で B %を 20% から 80% に変更、 その後 3 分間で再平衡化 |
分析時間: |
8 分 |
注入量: |
1 µL |
MS システム: |
TQ-S micro、TQ-XS、または TQ-S |
イオン化モード: |
ESI (-) |
キャピラリー電圧: |
1.9 kV (-) |
測定モード: |
MRM |
イオン源温度: |
120 °C |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/hr |
脱溶媒流量: |
1000 L/hr |
ネブライザーガス: |
7 bar |
イオンガイドオフセット 1: |
3 V |
イオンガイドオフセット 2: |
0.3 V |
LC 条件、MS 条件、TargetLynx 解析メソッド(保持時間を含む)が含まれる、LipidQuan Quanpedia メソッドファイル(バージョン 1.4)を使用しました。結果データは TargetLynx または Skyline(MacCoss Lab Software、University of Washington)のいずれかを用いて解析しました。
NEFA または遊離脂肪酸の測定は、一般的に GC-MS を使用して行われます7。 通常は分析前に、固相抽出または液-液抽出を用いてサンプルを分画し、誘導 体化試薬により加水分解され、脂肪酸メチルエステル(FAME)が形成されます。このプロトコールは時間がかかり、インタクトな複合脂質を誘導体化するリスクがある上に、揮発性の低い長鎖脂肪酸(>C24)では上手くいかないことがあります。
別の方法として、FFA の分析に逆相(RP)LC-MS を使用することもでき ます。しかし、この分析法の場合もサンプル前処理に時間がかかる上に、使用する毒性を有する有機溶媒の購入および廃棄にコストがかかります。逆相クロマトグラフィーは、鎖長および不飽和度に応じて脂質を分離します。逆相分離の二面性(脂肪アシル鎖長により保持時間が長くなり、脂肪アシル鎖の二重結合により保持時間が短くなること)により、実サンプルの分析が困難になる場合があります。さらに、共溶出する化合物の数が多く、同定が困難になります。
LipidQuan はMRM(ネガティブイオンモード)を用いることで、ヒト血漿に含まれる 24 種の FFA の同定および定量を行います。また、一回の測定で他のリン脂質クラスのデータを同時に取得できます。FFA は HILIC ベースの条件下では、ブロードなバンド(約 0.5 分)として溶出します(図 3)。この分析法は高感度であるため、50 µL のヒト血漿を用いて血中に含まれる標準濃度の脂質が容易に検出されました。また、4 桁を超える直線性が得られました。
データは、LipidQuan 血漿スクリーニング(LipidQuan Quanpedia ファイル v1.4)を使用して取得し、相対定量を行いました。表 1 は CV <30% の脂質種を示しています。購入可能な SPLASH LIPIDOMIX の SIL を使用することで、一般的な指標である R2 値(0.95)および検量線からの偏差(CV <30%)を達成しました。同一の分析における PG (15:0–18:1) (d7) = 0.5~1500 ng/mL および PC (15:0–18:1) (d7) = 16~8000 ng/mL の範囲の検量線を示しています(図 4)。
親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)ベースのアプローチを用いることで、FAME GC-MS に必要な誘導体化や複雑なサンプル前処理が不要になります。さらに、脂質がクラス別に分離されるため、RP LC-MSで直面する共溶出のリスクを最小限に抑えられます。
LipidQuan Quanpedia メソッドファイルを利用することで、遊離脂肪酸の MRM トランジションおよびクロマトグラフィー条件を容易にダウンロードできるようになりました。これにより、LC-MS メソッドの手入力が不要になり、入力エラーの心配もなくなりました。
720006464JA、2019 年 1 月