このアプリケーションノートでは、他社製の HPLC システムから ACQUITY Arc システムへ、Arc Multi-flow path テクノロジー(パス 1)を用いて分析法移管を行いました。
このパスは、分析法移管のために標準的な HPLC システムのデュエルボリュームを再現できるように設計されています。その結果、保持時間の % 偏差は 5% 以内となりました。更に、グラジエント SmartStart 機能によりグラジエントテーブルを変更せずにグラジエント初期組成でのホールド時間を調整し、保持時間の微調整を行いました。この二つの機能を併用することで、わずか 2 回の注入で ACQUITY Arc システムへの分析法移管ができました。ACQUITY Arc システムを用いた分析法移管の簡単な手順:
Arc Multi-flow path テクノロジーにより、デュエルボリュームの異なる 2 つの流路を選択可能
グラジエント SmartStart により、注入と同期してグラジエント開始を調整可能
分析法移管を直感的に行うために、グラジエント開始の調整は容量だけでなく時間でも設定可能
分析法を移管した場合、保持時間が変動します。保持時間は、デュエルボリュームやミキシング効率といったシステムおよびポンプの特徴の違いの影響を受けます。多くの実験室では、特にバリデーション済みの分析法は調整を行わずに運用することが求められます。調整が必要な場合は、規制に合うように考慮することになります。デュエルボリュームについては、USP モノグラフの Chapter <621> にて“If adjustments are necessary, change in ... the duration of an initial isocratic hold (when prescribed), and/or dwell volume adjustments are allowed”(調整が必要となる場合は、初期組成のホールド時間(定義されている場合)およびデュエルボリュームの調整は認められる)と記載されています1。デュエルボリュームの値はグラジエントテーブルに入力することで調整できますが、この方法では計算とグラジエントテーブルの変更が必要になり、時間と労力を要します。ここで、ソフトウェア内にグラジエント開始から注入までの時間を調整する機能があると、グラジエント初期組成のホールド時間を調整することができます。この機能により、ACQUITY Arc システムはグラジエントテーブルを変更することなく、デュエルボリュームの異なるシステムを再現することができます。
また、ソフトウェアには時間の単位で調整値を入力できるため、保持時間の差を用いて初期組成のホールド時間を調整することができます。
20 µL の分取クロマトグラフィースタンダード(製品番号 186006703)、100 µL の ACQUITY UPLC MS スタートアップ溶液キット(製品番号 700002741)Solution 2 を、880 µL の 70% アセトニトリル水溶液にてシンチレーションバイアルに調製しました。最終的な各成分の濃度は下に記載しています。
LC システム: |
ACQUITY Arc システム、パス 1 CH30-A アクティブプレヒーター付 |
検出器: |
2998 PDA 検出器、低拡散フローセル |
カラム温度: |
30 ℃ |
カラム: |
XSelect CSH C18、5 μm、4.6 x 250 mm |
注入量: |
10 µL |
流量: |
2.0 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% (v/v) ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% (v/v) ギ酸含有アセトニトリル |
ニードル洗浄溶媒: |
50% アセトニトリル水溶液 |
パージ溶媒: |
10% メタノール水溶液 |
シール洗浄溶媒: |
10% メタノール水溶液 |
検出波長: |
260 nm |
サンプリングレート: |
5 Hz |
タイムコンスタント: |
標準 |
グラジエント: |
15 - 35% B(3 分)、35 - 95% B(2 分) |
Agilent システム: |
Agilent 1260 バイオイナートクォータナリ LC システム(クォータナリポンプ:G5611A;HiP ALS:G5667A; カラムコンパートメント:G1316C、DAD、VL+:G1315C) |
データ管理 |
Empower 3 FR2 SR2 |
Agilent 1260 クォータナリー LC システムにて、2 種類の主成分と 5 種類の微量成分を含むサンプルの分析を行いました。分析条件とカラムを変更することなく、分析法は Agilent 1260 システムから ACQUITY Arc システムへ移管されました。グラジエント分離の際の保持時間の差は、装置間のデュエルボリュームの差に起因するため、ACQUITY Arc システムでは Arc Multi-flow path テクノロジーのパス 1 を使用しました。この機能により、ポンプからインジェクターへの流路を、六方バルブを用いて容量の異なる二つの流路に分けることができます(図 1)。パス 1 を選択すると、デュエルボリュームが標準的な HPLC システムと同じ、約 1.1 mL になります。今回は用いなかったパス 2 のデュエルボリュームは、0.76 mL です。
パス 1 を用いると、ACQUITY Arc システムは Agilent 1260 クォータナリーシステムと同等の分離を示しました(図 2、表 1)。全成分の保持時間は Agilent 1260 Infinity システムでの保持時間の 3% 以内になりました。しかし、ピーク 3 の保持時間は 0.1 分と、顕著な相違がありました。これは他のピークの保持時間の差の 5~10 倍に相当します。前後のピークの保持時間の差よりもピーク 3 の保持時間の差が大きいため、この相違はデュエルボリュームの違いだけでは説明されません。グラジエントのプログラムを詳しく見ると、ピーク 3 は 1 段階目のグラジエントの中盤に溶出することがわかります。分離に影響する要素は多いものの、保持時間に影響があるのはグラジエントの遅延やミキシング効率のようなポンプの特徴の違いとグラジエントの形状です。詳細は記載していませんが、検討を進めた結果、ピーク 3 の保持時間が変動する要因はグラジエントの形状によることがわかりました。
保持時間を調整する方法の一つは、移動相のグラジエント初期組成でのホールド時間の調整です。ACQUITY Arc システムでは、グラジエントを「注入時」「注入前」「注入後」に開始するように設定することで(図 3)、デュエルボリュームが小さいまたは大きいシステムを再現することができます。このデュエルボリュームの調整(グラジエント SmartStart)は、グラジエントテーブルには変更を加えることなく、調整値は時間または容量で入力することができるため、異なる HPLC システムを柔軟に再現することができます。
この機能を今回の分析法移管の例に用います。分析法移管の結果、保持時間の差はピーク同定で通常用いられる保持時間幅である 5% 以内に収まりました。デュエルボリュームの調整をすることで、保持時間をより厳しい基準で満たすことができるようになります。Agilent 1260 システムと ACQUITY Arc システムでのクロマトグラムを重ね書きすると、特にピーク 3 の保持時間の差が変化していることがわかります。他のピークの保持時間の差は 0.01 ~ 0.02 分であるのに対し、ピーク 3 の保持時間は 0.1 分の差があります(図 4)。先の機能を用いて ACQUITY Arc システムでのグラジエント開始を注入後 0.05 分とすると、ピーク 3 の保持時間の差が改善されました。今回のクロマトグラムの中央付近での差を小さくするため、0.05 分という値を採用しました。
初期組成でのホールド時間を調整した結果、各成分の保持時間の差は 0.01 ~ 0.05 分以内になりました(表 2)。最初の 2 つのピーク(acetaminophen と caffeine)の保持時間の差は他成分に比べて小さく(<0.02 分)、後半に溶出するピークの保持時間の差は調整値として入力した 0.05 分に近くなりました。注目していたピーク 3 の保持時間は -0.06 分と早くなり、Agilent 1260 Infinity システムの保持時間の 1.5% 以内に入りました(図 5)。保持時間の調整の効果は、溶出時の移動相組成によって異なります。移動相組成が一定の時間帯に化合物が溶出する場合、保持時間はグラジエント開始時間とほぼ同様に変化します。溶出する時間帯にグラジエントがかかっている場合には、移動相を送液するタイミングを変えた際の保持時間の変化は複雑になります。
今回、グラジエント開始を調整することで保持時間の微調整が行えました。グラジエント開始を変更することで、Agilent 1260 の分離と比べて保持時間の変動が 1.4% 以内に収まっています。ACQUITY Arc による最初の分析と比較すると、偏差の平均は同等でありながら最大値を小さくすることができました。
ACQUITY Arc システムの主な特長として、従来の HPLC 分析法(例:USP/NF)を他の HPLC システムから容易に移管することができます。本書の例では、他社製の HPLC システムから ACQUITY Arc システムへ、Arc Multi-flow path テクノロジー(パス 1)を用いて分析法移管を行いました。このパスは、分析法移管のために標準的な HPLC システムのデュエルボリュームを再現できるように設計されています。その結果、保持時間の % 偏差は 5% 以内となりました。更に、グラジエント SmartStart 機能によりグラジエントテーブルを変更せずにグラジエント初期組成でのホールド時間を調整し、保持時間の微調整を行いました。この二つの機能を併用することで、わずか 2 回の注入で ACQUITY Arc システムへの分析法移管ができました。ACQUITY Arc システムを用いた分析法移管の簡単な手順:
In United States Pharmacopeia and National Formulary (USP 37-NF 32 S2).; United Book Press, Inc.: Baltimore, MD, 2014; Vol., p 6376.
720005469JA、2015 年 7 月