• アプリケーションノート

シンプルな分析法移管:確立されている分析法を ACQUITY Arc システムで再現するための新機能

シンプルな分析法移管:確立されている分析法を ACQUITY Arc システムで再現するための新機能
  • Paula Hong
  • Richard Andrews
  • Peyton C. Beals
  • Patricia R. McConville

  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、他社製の HPLC システムから ACQUITY Arc システムへ、Arc Multi-flow path テクノロジー(パス 1)を用いて分析法移管を行いました。

このパスは、分析法移管のために標準的な HPLC システムのデュエルボリュームを再現できるように設計されています。その結果、保持時間の % 偏差は 5% 以内となりました。更に、グラジエント SmartStart 機能によりグラジエントテーブルを変更せずにグラジエント初期組成でのホールド時間を調整し、保持時間の微調整を行いました。この二つの機能を併用することで、わずか 2 回の注入で ACQUITY Arc システムへの分析法移管ができました。ACQUITY Arc システムを用いた分析法移管の簡単な手順:

  1. 適切な流路、パス 1 またはパス 2 を用いた分析法移管
  2. 移管前後のクロマトグラムを比較し、保持時間を評価
  3. 保持時間が分析法の基準を満たさない場合は、グラジエント SmartStart 機能を用いてグラジエント開始を調整し、再測定

利点

  • Arc Multi-flow path テクノロジーにより、デュエルボリュームの異なる 2 つの流路を選択可能

  • グラジエント SmartStart により、注入と同期してグラジエント開始を調整可能

  • 分析法移管を直感的に行うために、グラジエント開始の調整は容量だけでなく時間でも設定可能

はじめに

分析法を移管した場合、保持時間が変動します。保持時間は、デュエルボリュームやミキシング効率といったシステムおよびポンプの特徴の違いの影響を受けます。多くの実験室では、特にバリデーション済みの分析法は調整を行わずに運用することが求められます。調整が必要な場合は、規制に合うように考慮することになります。デュエルボリュームについては、USP モノグラフの Chapter <621> にて“If adjustments are necessary, change in ... the duration of an initial isocratic hold (when prescribed), and/or dwell volume adjustments are allowed”(調整が必要となる場合は、初期組成のホールド時間(定義されている場合)およびデュエルボリュームの調整は認められる)と記載されています1。デュエルボリュームの値はグラジエントテーブルに入力することで調整できますが、この方法では計算とグラジエントテーブルの変更が必要になり、時間と労力を要します。ここで、ソフトウェア内にグラジエント開始から注入までの時間を調整する機能があると、グラジエント初期組成のホールド時間を調整することができます。この機能により、ACQUITY Arc システムはグラジエントテーブルを変更することなく、デュエルボリュームの異なるシステムを再現することができます。

また、ソフトウェアには時間の単位で調整値を入力できるため、保持時間の差を用いて初期組成のホールド時間を調整することができます。 

実験条件

20 µL の分取クロマトグラフィースタンダード(製品番号 186006703)、100 µL の ACQUITY UPLC MS スタートアップ溶液キット(製品番号 700002741)Solution 2 を、880 µL の 70% アセトニトリル水溶液にてシンチレーションバイアルに調製しました。最終的な各成分の濃度は下に記載しています。 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Arc システム、パス 1 CH30-A アクティブプレヒーター付

検出器:

2998 PDA 検出器、低拡散フローセル

カラム温度:

30 ℃

カラム:

XSelect CSH C18、5 μm、4.6 x 250 mm

注入量:

10 µL

流量:

2.0 mL/分

移動相 A:

0.1% (v/v) ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% (v/v) ギ酸含有アセトニトリル

ニードル洗浄溶媒:

50% アセトニトリル水溶液

パージ溶媒:

10% メタノール水溶液

シール洗浄溶媒:

10% メタノール水溶液

検出波長:

260 nm

サンプリングレート:

5 Hz

タイムコンスタント:

標準

グラジエント:

15 - 35% B(3 分)、35 - 95% B(2 分)

Agilent システム:

Agilent 1260 バイオイナートクォータナリ LC システム(クォータナリポンプ:G5611A;HiP ALS:G5667A;

カラムコンパートメント:G1316C、DAD、VL+:G1315C)

データ管理

Empower 3 FR2 SR2

結果および考察

Agilent 1260 クォータナリー LC システムにて、2 種類の主成分と 5 種類の微量成分を含むサンプルの分析を行いました。分析条件とカラムを変更することなく、分析法は Agilent 1260 システムから ACQUITY Arc システムへ移管されました。グラジエント分離の際の保持時間の差は、装置間のデュエルボリュームの差に起因するため、ACQUITY Arc システムでは Arc Multi-flow path テクノロジーのパス 1 を使用しました。この機能により、ポンプからインジェクターへの流路を、六方バルブを用いて容量の異なる二つの流路に分けることができます(図 1)。パス 1 を選択すると、デュエルボリュームが標準的な HPLC システムと同じ、約 1.1 mL になります。今回は用いなかったパス 2 のデュエルボリュームは、0.76 mL です。

パス 1 を用いると、ACQUITY Arc システムは Agilent 1260 クォータナリーシステムと同等の分離を示しました(図 2、表 1)。全成分の保持時間は Agilent 1260 Infinity システムでの保持時間の 3% 以内になりました。しかし、ピーク 3 の保持時間は 0.1 分と、顕著な相違がありました。これは他のピークの保持時間の差の 5~10 倍に相当します。前後のピークの保持時間の差よりもピーク 3 の保持時間の差が大きいため、この相違はデュエルボリュームの違いだけでは説明されません。グラジエントのプログラムを詳しく見ると、ピーク 3 は 1 段階目のグラジエントの中盤に溶出することがわかります。分離に影響する要素は多いものの、保持時間に影響があるのはグラジエントの遅延やミキシング効率のようなポンプの特徴の違いとグラジエントの形状です。詳細は記載していませんが、検討を進めた結果、ピーク 3 の保持時間が変動する要因はグラジエントの形状によることがわかりました。 

図 1.ACQUITY Arc QSM-R システムの装置メソッド編集画面と、Arc Multi-flow path テクノロジーの流路図。Agilent 1260 システムからの分析法移管においては、デュエルボリュームを約 1.1 mL にするために装置メソッドの画面でパス 1(赤)を選択しました。
図 2. Agilent 1260 クォータナリー LC システム(上)と ACQUITY Arc システム(下)の混合標準品の積み重ねクロマトグラム。ACQUITY Arc システムのパス 1 を用いることで、Agilent と同様の保持時間となりました。
表 1. Agilent 1260 クォータナリーシリーズ LC システムと ACQUITY Arc システムでパス 1 を使用した場合の保持時間の比較。全成分、保持時間の差は 0.10 分以内でした。ピーク 3 の保持時間の差が最も大きくなりました。

保持時間を調整する方法の一つは、移動相のグラジエント初期組成でのホールド時間の調整です。ACQUITY Arc システムでは、グラジエントを「注入時」「注入前」「注入後」に開始するように設定することで(図 3)、デュエルボリュームが小さいまたは大きいシステムを再現することができます。このデュエルボリュームの調整(グラジエント SmartStart)は、グラジエントテーブルには変更を加えることなく、調整値は時間または容量で入力することができるため、異なる HPLC システムを柔軟に再現することができます。

この機能を今回の分析法移管の例に用います。分析法移管の結果、保持時間の差はピーク同定で通常用いられる保持時間幅である 5% 以内に収まりました。デュエルボリュームの調整をすることで、保持時間をより厳しい基準で満たすことができるようになります。Agilent 1260 システムと ACQUITY Arc システムでのクロマトグラムを重ね書きすると、特にピーク 3 の保持時間の差が変化していることがわかります。他のピークの保持時間の差は 0.01 ~ 0.02 分であるのに対し、ピーク 3 の保持時間は 0.1 分の差があります(図 4)。先の機能を用いて ACQUITY Arc システムでのグラジエント開始を注入後 0.05 分とすると、ピーク 3 の保持時間の差が改善されました。今回のクロマトグラムの中央付近での差を小さくするため、0.05 分という値を採用しました。

図 3.グラジエント SmartStart 機能を設定する装置メソッドの画面。グラジエント開始を、「注入時」「注入前」「注入後」から選択することができ、グラジエントテーブルの変更は不要です。調整は容量または時間で入力します。この機能により、グラジエント初期条件でのホールド時間を調整し、異なる装置のデュエルボリュームを再現することができます。例えば本アプリケーションノートの分析例では「注入後」に 0.05 分としました。
図 4.グラジエント SmartStart 機能を使用して、移管した分析法を微調整しました。Agilent 1260 クオータナリー LC システムと ACQUITY Arc システムによる標準品混合物の重ね書きクロマトグラム(上段)。この分析法移管の例では、他の成分に比べてピーク 3 の保持時間の差が大くなりました(上段の拡大図)。保持時間の差を改善するために、ACQUITY Arc システムにてグラジエント SmartStart 機能を使用してグラジエント開始を注入後 0.05 分に設定(グラジエント初期組成でのホールド時間を延長)し、再分析を行いました。Agilent 1260 クォータナリー LC システムと ACQUITY Arc システムにてグラジエント SmartStart 機能を使用した場合の重ね書きクロマトグラム(下段)ではピーク 3 の保持時間の差は 0.06 分に小さくなりました(下段、拡大図)。他の成分の保持時間の差は、両方の条件で共に 0.05 分以内です。

初期組成でのホールド時間を調整した結果、各成分の保持時間の差は 0.01 ~ 0.05 分以内になりました(表 2)。最初の 2 つのピーク(acetaminophen と caffeine)の保持時間の差は他成分に比べて小さく(<0.02 分)、後半に溶出するピークの保持時間の差は調整値として入力した 0.05 分に近くなりました。注目していたピーク 3 の保持時間は -0.06 分と早くなり、Agilent 1260 Infinity システムの保持時間の 1.5% 以内に入りました(図 5)。保持時間の調整の効果は、溶出時の移動相組成によって異なります。移動相組成が一定の時間帯に化合物が溶出する場合、保持時間はグラジエント開始時間とほぼ同様に変化します。溶出する時間帯にグラジエントがかかっている場合には、移動相を送液するタイミングを変えた際の保持時間の変化は複雑になります。

今回、グラジエント開始を調整することで保持時間の微調整が行えました。グラジエント開始を変更することで、Agilent 1260 の分離と比べて保持時間の変動が 1.4% 以内に収まっています。ACQUITY Arc による最初の分析と比較すると、偏差の平均は同等でありながら最大値を小さくすることができました。 

表 2. Agilent 1260 クォータナリーシリーズ LC システムと ACQUITY Arc システム(グラジエント SmartStart 機能を使用して注入後 0.05 分にグラジエントを開始)の保持時間の比較。全成分、保持時間の差は 0.06 分以内でした。ピーク 3 の保持時間の差は 0.10 分から 0.06 分へ改善されました。
図 5. グラジエント SmartStart を使用した分析法移管の微調整。Agilent 1260 クォータナリー LC システムから ACQUITY Arc システムへの分析法移管において、全成分における保持時間の % 偏差は 5% 以内となりました(青)。グラジエント SmartStart を使用してシステムのデュエルボリュームを調整した結果、2% 以内に改善しました。

結論

ACQUITY Arc システムの主な特長として、従来の HPLC 分析法(例:USP/NF)を他の HPLC システムから容易に移管することができます。本書の例では、他社製の HPLC システムから ACQUITY Arc システムへ、Arc Multi-flow path テクノロジー(パス 1)を用いて分析法移管を行いました。このパスは、分析法移管のために標準的な HPLC システムのデュエルボリュームを再現できるように設計されています。その結果、保持時間の % 偏差は 5% 以内となりました。更に、グラジエント SmartStart 機能によりグラジエントテーブルを変更せずにグラジエント初期組成でのホールド時間を調整し、保持時間の微調整を行いました。この二つの機能を併用することで、わずか 2 回の注入で ACQUITY Arc システムへの分析法移管ができました。ACQUITY Arc システムを用いた分析法移管の簡単な手順:

  1. 適切な流路、パス 1 またはパス 2 を用いた分析法移管
  2. 移管前後のクロマトグラムを比較し、保持時間を評価
  3. 保持時間が分析法の基準を満たさない場合は、グラジエント SmartStart 機能を用いてグラジエント開始を調整し、再測定

参考文献

In United States Pharmacopeia and National Formulary (USP 37-NF 32 S2).; United Book Press, Inc.: Baltimore, MD, 2014; Vol., p 6376.

ソリューション提供製品

720005469JA、2015 年 7 月

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